第一特務連隊 Ⅴ
驚いた表情で早乙女が叫ぶ。
「私が…連隊長補佐…?…いやいや無理です!だって私より…錠前くんや北野ちゃんの方が向いてます!」
「いや、連隊長補佐は貴官に任せる。それが私と藤崎大尉、陸軍中枢の総意だ」
まあ、陸軍中枢はほぼほぼ私の暴論による脅h…説得だが。
藤崎に関しては、ここに来る以前─陸軍刑務所の帰りでのことだ。
私から、早乙女のことを推挙しようとしていたのだが、以外にも藤崎の方からその打診があった。
【早乙女を連隊長補佐に任じるのはどうでしょうか】
と。
部隊の運営に関しては、上官に任せてあまり意見を言わないタイプだと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
早乙女以外にも、先に任じた各分隊長のことや今後の育成方針等、様々なことについての議論を行った。
その中で、特に藤崎が推してきたのが早乙女の連隊長補佐就任だった。
まあ、元から自分はそのつもりであったこともあり、別段反対することはなかったのだが少しその理由を問うてみた。
「なぜ、貴官はそんなにも早乙女を推す?」
以前と同じように、後部座席に座りながら運転席に座る藤崎に問う。
「…失礼ですが、別段特別な理由があるわけではありません」
「ほう?」
ルームミラー越しに、その少女の表情を見る。
額から一筋の脂汗をを垂らし、顔は少し青みがかっているようで…まあ、あえて言語化するなら怯えていた。
「別に、理由なく進言したからと言って怒鳴ったりはしないぞ。命が天秤に掛けられているわけでもないしな」
そう茶化してやる。
というか、先程も言ったが私自身も早乙女を連隊長補佐にすることは賛成なのだ。
理由を聞いたのも、一個人としてなぜ推薦したのかが気になったからというだけで、その発言を元に可否を決めようとも思っていない。
「大佐殿の問いに…最初に答えたからです」
重苦しいように、藤崎が口を開く。
「ほう」
私の問いに最初に答えたから、か。
「失礼を承知で申し上げますが、あの場で大佐殿の問いに答えるというのは非情に困難でした。何事も、最初に成す者というのは周囲から奇異な目で見られがちですし、彼女自身の年齢や連隊内の立場も考えると随分な賭けであったと思われます」
「その上で」と、藤崎は何かを決心したように、はっきりと言葉を紡ぐ。
「早乙女は決断しました。その決断は並大抵の覚悟でできるものではなく、連隊長補佐に任ずるに余りあるものであると、小官は…そう感じた次第です」
なかなかどうして、子供たちのことをよく見ているなものだと思った。
陸相の話によれば、藤崎は元々精鋭い揃いの第一騎兵連隊に所属していたそうだ。
我が帝国陸軍の第一騎兵連隊と言えば、騎兵科出身の軍人が中央以外のポストで最も就きたいとされる栄誉職である。
そんな場所から、いきなり移動になって並の士官なら不貞腐れて碌な仕事をしようとしないだろう。
だが、彼女はそんな状況下出会っても、自身の職務を充全に全うしようとしている。
藤崎は…良い軍人になるな。
「私も貴官の意見に賛成だ」
「!ありがとうございます」
驚愕したような表情で、藤崎が言う。
「何、君に礼を言われる筋合いはないさ。私は私の判断でそういう結論に至ったまでだ」
「は…」
まあだが、
「これから忙しくなるな」
といった具合に、早乙女の連隊長補佐就任は決まった。
まあ、本人が固辞するなら別だが、恐らく他の隊員からしても、元から部隊に所属していた人間の中で早乙女が最も高い位についてくれていた方が何かとやりやすいところもあるだろう。
「連隊長補佐となれば、連隊内である程度の裁量を持てる。連隊のことを考えるならば、中央から派遣された私と藤崎に主導権を握られるよりもいいんじゃないか?」
私の発言を聞き、早乙女は押し黙ってしまう。
「まあ、結局は貴官がどうしたいかだ。本当にやりたくないのなら固辞してくれたって構わん。だがまあ」
扉の方を指さしながら、早乙女に視線を向けるように促す。
少し開かれた扉の影に、小さな人影が三つ不安げに瞳を覗かせている。
そう、部隊に残留を決めた子供たちだ。
「ああやって、我々に舵取りをさせるのが不安なもの達もいるんだ。だから、貴官がああいう子等の標になってやってはくれないか?」
これこそが、もし早乙女が固辞してきた場合の最終手段。
通称、泣き落としだ。
そして、この場合に帰ってくる答えは、
「了解…致しました」
これである。




