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死なずの君に送る歌  作者: 琴乃葉楓
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閑話 藤崎大尉と陸相

コンコン

廊下に、軽いノック音が響く。

重く重厚な、陸軍省にある部屋の中で最も閉塞感を感じさせるドアを叩く音だ。

【何だ?】

気骨のある、老人の声が部屋の中から聞こえてくる。

「藤崎澄玲中尉であります。召集に従い参りました。入室してもよろしいでしょうか」

簡潔に用件を伝え、入室の可否を問う。

【うむ。入れ】

「は!失礼いたします」

入室してすぐに、この部屋の主─渡良瀬直哉陸軍大将に最敬礼を行う。


「よく来てくれたな、藤崎中尉」

すると、机に肘を立てながら、胸の前で腕を組んだ姿勢を取った大将が言う。

「いえ…。して、いかようなご要件でしょうか?」

まあ、大方予想はついている。

この人が、尉官風情である私を呼びつけるということはつまり、

「貴官は、本日を持って第一騎兵連隊から異動だ」

そう面倒事だ。

それも、着任したばかりの私を異動させるということは、並大抵の厄介ごとでないのは確実だろう。

「どちらにでしょうか?」

「貴官は、特○壱構想というのを知っているか?」

特○壱構想?

…ああ、確か数年前に異能者の家の戦災孤児を集めて、連隊を作るとかいう頭の可笑しい構想のことか。

だが、確かあの構想は子供たちの精神的ケアが足りず、一部の子供たちが暴走したために頓挫したと聞いていたが…

「ええ、おおまかですが存じております。ですが、小官の記憶ですと特○壱構想は頓挫したのではなかったでしょうか?」


「ああ、子供たちの心に負った傷を軽視した大人共のせいでな。だが、今あの子達の力が実際問題として必要なのだ」

苦虫を噛み潰したような声で陸相が言う。

はてさて、これは演技なのか、それとも本心なのか。

まあ、そんなこと今はいいか。

「了解いたしました。異動の命、受領いたします」

どうせ、受領しなかったとしても元の連隊には戻れない。

それにもし、この人命令を聞き入れなかった場合あとが怖い。

良くて窓際士官か予備役編入。

下手をすれば前線に送られかねない。


「良かったよ、君が受け入れてくれて」

先程の、苦虫を噛み潰したような表情が嘘のような笑みを、顔に貼り付けながら言う。

この狸爺、やっぱりさっきの表情は嘘か。

心のなかでは悪態をつくが、実際に言うわけにもいかず、陸相に詳しい説明を求める。

「それで、私はその連隊でなにをすれば良いのでしょうか?」

「なに、そう気負わずとも良い。貴官には、副連隊長として連隊の運営及び、連隊長の補佐を頼みたい」

副連隊長?

私はまだ、中尉なのだが…。

「副連隊長ですか。連隊長はどなたが担当されるのでしょうか?」

まあ、連隊長が誰かによるが、余程の人でない限り大丈夫だろう。

「夜叉人大佐を任命した。彼なら部隊勤務の経験も豊富だし、子供たちのこともしっかりまとめてくれるだろう。…ああ。それと貴官一階級昇進で大尉にねじ込んでおいたから、本日から大尉を名乗り給え」

まじかこの人。

あの夜叉人さんを地雷畑みたいな連隊の連隊長にしたのか。

それとまるで自然のことかのように言ったが、一階級昇進なのか私。

「夜叉人大佐殿ですか。あの方のもとであれば、私も何の憂いもなく職務に邁進できますしありがたいです」

「それと、一応本日付けで任命にしてあるから、もしこれから時間があれば二人で隊員たちに会ってきたらどうだ?顔合わせは重要だろう」

この人も、人を気遣うという機能を搭載していたのか。

「は。私の方は問題ありませんので、もし大佐殿にお時間があるようでしたらお言葉に甘えて行ってきます」

「ああ、子供たちのことよろしく頼むぞ」

起立し、陸軍式敬礼を陸相が行う。

「はい!奮励努力し職責を全ういたします」

それに対して、私も敬礼を返しこの部屋を去るのだった。

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