第一特務連隊 Ⅲ
「えーと、罰というのはどういうことだ?」
割と本気で、頭の中に?がいくつか浮かぶ。
そもそも、泣かせてしまったのは自分のせいであるし、得体のしれない大人にいきなり名乗れと言われれば、臆してしまうのも仕方がないことだ。
それで罪を問うことなど、大人が、それも社会の範となるべき軍人がするわけない。
すると、心底困惑したような表情と声音で早乙女が言う。
「え?大佐殿は、召集されたにも関わらず何の役にも立てていない我々を粛清されるために来たのではないのですか?」
…成程。
自分と藤崎が来た時に心底怯えたような表情で見ていたのはこれが理由か。
「いや、私と藤崎大尉が来たのは本当に第一特務連隊の司令官に着任したからに他ならない。なんなら、陛下御璽印付きの任命書もあるぞ」
あたかも信じられないという風に見てくるので、「ほら」といってカバンの中から陛下から賜った任命状を出してやる。
そして、その書類を見るにすぐ驚愕の色が少女の瞳に映る。
「え…ホントに…?」
「ああ。というか最初に名乗っただろう、今日着任した夜叉人篤人だと」
「た、確かに」
そう言いながら、先程よりさらに顔を青くする。
「て、ていうことは、私本当に大佐様に失礼なことを…」
「いや、気にしなくていいぞ。どうせここにいる正規の軍人なんて私と藤崎だけだろうし、そもそもお前たちはまだ正規の軍人じゃないんだから軍法は適用されない」
「ほっ」と小さい溜息を少女がついたのもつかの間、早乙女の左隣─錠前が恐る恐るといった風に言う。
「あの、大佐殿」
「うん?どうした?」
「我々が正規の軍人ではないというのは本当なのでしょうか?」
そうか、これも伝えてなかったのか。
「ああ、というのもお前達次第だがな」
そうして、この場にいる五人に希望すれば軍属にならなくて済むことと、軍属にならない場合は夜叉人家、というか自分が責任を持って後見人として、成人するまでの面倒を見ることを説明した。
五人とも、酷く驚いたような様子だったが、ここの場にいない子供たちにもそのことを周知して考えさせたいということで三日の猶予を要求してきた。
私は、重要な決断であるし、もう少し時間をとってもいいと言ったのだが、最終的には三日後には決めるということで承諾することになり、その日は帝都の陸軍省へと帰路についたのだった。
「藤崎大尉。貴官はどう思う?」
帰りの車内のこと、前席に座るその女性に問いかける。
「あの子供たちのことですか」
話しかけられた女性は、正面を見据えハンドルを握ったまま言った。
「いや、この連隊を担当していた前任者についてだ」
すると、一瞬考えるような素振りを取ってまる十秒ほどで思い出したように呟く。
「…ああ、箇条さんのことですか」
箇条宏一陸軍大佐
前第一特務連隊連隊長を勤めていた六個上の先輩であり、僕が中佐に上る直前に、軍法における暴行・脅迫ノ罪で有罪判決を受け、十年の禁固刑を受けた犯罪者である。
そして恐らく、今日の子供たちの反応を見るに、暴行を受けていたのは第一特務連隊の隊員なのだろう。
「…せっかく3日もあるんだ。行くか、陸軍刑務所」
「…ですね」
そうして、陸軍省から行き先が変更された。
陸軍省法務部直轄陸軍刑務所へと。




