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死なずの君に送る歌  作者: 琴乃葉楓
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第一特務連隊 Ⅰ

そもそもの事の始まりは、三代前の陸相の頃に遡る。

三代前の陸相─葛城(かつらぎ)静奈(せいな)陸軍大将は欧州で大規模な戦争が起こらんとしていることを予期して、ある作戦計画を帝に上奏した。


特○壱構想

作戦行動中に戦死した異能者の子息を特別教育と称して陸軍で引き取り、異能者だけの部隊を作るという計画。

元々、異能者の家というのは軍人に仕官するものが多く、その子息のみが生き残るというのがある種の問題になっていた。

そういった背景もあり、陸軍内部でも賛成多数で可決され、帝の賛成も得て正式に制度として導入された。


─だが、大人たちはあまりに子どもたちの精神状況を軽んじていたことが、その失敗を生んだ。

年若い子から、中等教育を終えたくらいまでの幅広い子供を一箇所に集めた教育などできるはずもなかったのだ。

親の死を受け入れたもの、親の死を受け入れられずにいるもの、一度は受け入れたが周りに流され再び受け入れられなくなってしまうもの。

そんなものが後を立たず、当時の陸相はその責任を取ると言って辞任し、その次の陸相も責任を負いきれないと言って着任して数ヶ月で辞任した。

そして、大戦初期から長く続く渡良瀬大将の陸相時代が幕を開けたのだ。

─その時だった。

まだ陸軍中佐だった自分が、その連隊を任されたのは。


「夜叉人中佐、いや大佐。君に一つ連隊を任せたい」

いきなり中央に呼び戻されたと思ったらこれだ。

一体何だというのか。

「連隊ですか?小官はまだ昇進したての新任中佐ですが、また昇進ですか…。他にも大佐の方はいらっしゃるのですから、他の方のほうがよろしいのではないでしょうか?」

「いや、異能者である君が良いんだ。…貴官は特○壱構想というものを知っているかね?」

…ああ、成程面倒事だ。

「ええ存じ上げております。何でも異能者だけで構成された連隊を作る構想だと」

目の前に立つこの男に対して、軽く嘆息しながら自分の知る限りの情報を伝える。

「ああ、その部隊を君に任せたい」

任せたい、と言っているが恐らく命令だ。

もし嫌だなどといえば、陸軍省内どころか地方に飛ばされるだろう。

「了解いたしました。どの程度の練度に仕上げればよろしいでしょうか?」

そう思い、陸相に了承の意を伝えた。

「なんだ固辞せんのか」

眉をひそめながら陸相が言う。

何なんだこの人。自分で任せたいと言ったくせに。

「したところで閣下は聞き入れてくださらないでしょう。それに、大人の尻拭いをするのは子供ではありません。大人がするべきです」

そもそも、心も身体も発育していない子供を兵隊にしようという考え自体間違いなのだ。

もし、子どもたちと話してみて軍属になるのを拒むようなら、すぐにでも後見人の手続きをして、軍隊から引っ張り上げてやる。

「…では頼む。と言っても期間は問わんから最初の一月…いや二月程は親睦を深めるためにでも使い給え」

今度は僕が陸相に対して眉をひそめる。

今は戦争中だぞ?

というか、特○壱構想は確か来る大戦に備えた軍備の拡張が主目的だったはずだが。

「よろしいのですか?そんなに時間を頂いても」

「ああ。…貴官が思っているよりもあの子らの傷は深い」

据わった瞳で、陸相はそう答えるのだった。

「はぁ…」


「大佐殿、着きました。こちらが第一特務連隊の駐屯している安原荘(やすはらそう)だそうです」

運転席から出てきた藤崎()()が、私が座っている方のドアを開きながら言う。

「…なんというか、廃れてるな」

車から出て、その建物を見た時に出た正直な感想だ。

ここは、帝都から少し離れた郊外の森の中。

陸相は期限を定めないと言っていたが、あまりに時間を掛け過ぎれば他所からちょっかいを掛けられないとも限らない。

そう思い、僕と同時に副連隊長に任命された藤崎に早速車を回してもらったのだ。


まあそんなことはさておき、その建物に目を凝らして見てみる。

居住空間というよりは、官舎や庁舎のような公用機関に似たそれは、壁にいくつかの弾痕や穴らしきものの痕があり、とても子供が住んでいるような場所とは思えない。

「ええ、なんというか…穴が空いた形跡が複数散見されます。それと、建物内から妖力が地獄のように溢れ出していますね」

藤崎もそこに目がいったらしい。

…それにしても、確かに館から妖力が漏れている。

普通、訓練もしていない術師は妖力が漏れ出ることなどないはずなのだが…。

「見ればわかるさ」

まあ、気にするべきことでもないか。

そんなことを考えながら、その建物へと歩みを進める。


端的に言えば、中も想像通りだった。

壊れた木の棚や木片、ガラスが辺りに散乱し、ドアがあったであろう枠組みには金具しか残っていないような場所もいくつか見受けられる。

その上、玄関ホール中央に敷かれていたであろう絨毯も部屋の隅に追いやられ埃を被っているような有様だ。

「中のほうが酷かったな」

「…ですね」

落ちている木片を拾い上げながら、藤崎に対して言う。

「子供達はどこにいるんだ?」

ある程度館の中を散策してみたが、子供と一度たりとも会えていない。

それどころか、話し声の一つも聞いていないのだ。

「外から見たとき、確かに妖力が漏れ出ていたので確かに中にはいると思うんですが…」

辺りを見回しながら藤崎が言う。

術師がおらず、妖力のみがこの場に残り続けるようなことは基本的にありえない。

つまり、藤崎の言う通り術者はこの館のどこかにいるはずなのだ。

ところが、館の中に入ってからは妖力すらも感じ取れなくなってしまった。

はて、どうしたものか。

拾った木片を【風刃】で削りながら言う。


「大佐殿。これは恐らく…」

周囲の壁を軽く小突いたり、ガラスの破片を拾い上げたりして何かを探すような素振りをしながら言う。

「ああ、多分そうだろうな…。【遮断】に【思考鈍化】後は…【空間操作】か」

「やはり結界ですか」

腰に下げた軍刀に手を伸ばしながら藤崎が言う。

「それも術者と術が紐づけされた簡易版じゃなく、媒介を必要とする設置型のな。…ほい」

壊れた棚に向かって、先程から削っていた木片を投げつける。

すると、パリンっというガラスが割れたような音のと共に、徐々にガラスが崩れるように先程まで見えていた風景が砕けていく。

「ビンゴ…だな」

思った通り、棚が結界の媒介になっていたらしい。

壊れたにしては原型を保っていて不思議だったのだ。

「ですね」


砕けた風景の先から現れたのは、数十人の子供だった。

皆、一様に怯えたような表情で僕達のことを見ている。

さて、身分を隠してもしょうがないな。

「手荒な真似をしてすまない。本日、この第一特務連隊の連隊長に任じられた夜叉人篤人だ。帝国陸軍より大佐を拝命している」

藤崎に目配せをして、自己紹介をするように促す。

「同じく、本日より第一特務連隊の副連隊長に任じられた藤崎澄玲。帝国陸軍より大尉を拝命しているわ。よろしく」

まあ、多少予想はしていたが子供たち…第一特務連隊の面々は面食らったような表情になって固まってしまった。

というか、連隊を名乗っている割には人数が少ないな。

一、二、三、四、五、六、七、八……全員合わせて七十人くらいか。

本来、連隊が二個大隊から四個大隊で構成されることを考えると異常に少ないな。

ちなみに、大隊というのは一つ五百から六百人程度の人数で構成されるものである。

「重ね重ねすまないが、大隊長…いやこの場合は分隊長か。各分隊の分隊長は私のところに来てくれ。以上、解散」


(ぶんたいちょう…って何?)

(さあ?)

(りんかおおねえちゃんなら知ってるかなー?)

なんだか、とても不穏な声が聞こえた。

もしかして、コイツら軍隊教育受けてないのか!?

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