帝都内一斉決起 Ⅳ
「そういえば黒条」
自分よりも先を歩く、黒髪の少女に声をかける。
すると、少しだけ身体をこちらへと向けて緊張したような表情を浮かべながら言う。
「何ですか?」
今は、皇居前にある司法省庁舎の前を過ぎた先にあるアーケード街。
その中央道を通り陸軍省へと向かっている。
何故、陸軍省に向かっているかといえば、反乱軍の司令部が設置されているであろう場所の第一候補だからだ。
あそこであれば、元より陸相側の人間が多いから司令部組織も形成しやすい。
それに、もし帝都周辺の決起に参加していない部隊が帝都に展開を開始し始めても、陸軍省庁舎の要塞的な特性上攻め落としずらい。
…まあ、ただの人間の部隊が攻略をしようとしたらの話だが。
なんと言ったって、こちらは異能者。
それも帝国に存する中でも最高峰と呼ばれる十二家のうちの武闘派が二人だ。
対人間を想定した要塞設備など何するものぞ、と思っていたのだが…。
「陸軍省を攻め落とすための作戦を立てたいんだ」
陸相は我々二人が帝側につくと踏んで、それも丁度自分たちが皇居に行ったタイミングで決起したのだ。
まず確実に何かしらの対策は用意してあると考えるのが普通だろう。
「え?私達に作戦なんていります?言ってはなんですけど陸軍省の対人間用の防衛装備なんて物の数には入らないでしょう」
僕の言い分に対して、黒条は疑問の表情を浮かべて言葉を返す。
「いや、それはそうだが…陸相は私達が皇室の人間に連れて行かれるところ見ていたにも関わらず、このタイミングで決起したんだぞ?何かしらの策があると見ていいだろう」
「…成程、確かにそうですね。でも陸軍にそんな戦力あります?」
顎に手を当てながら考えるような素振りを取って、黒条が言う。
そう、陸軍に十二家の人間を二人も抑え込めるような戦力はない。
だが、一人なら抑え込める方法がある。
「陸軍に、一つ特別な部隊がある」
そう言った瞬間だった。
僕の周りを黒い何かが覆い、黒条の姿が徐々に見えなくなる。
「やっぱきたか。少将!俺のことは良いから陸軍省に急げ!」
戸惑った表情でその場に立ち尽くす黒条に向かって言葉を放つ。
「え!?どういうことですか!」
「後で説明する!とりあえずコイツ等の目的は私だ!だから貴官は早く陸軍省へ!」
「…何がなんだかよくわかりませんが了解しました!中将閣下、ご武運を!」
そう言って、黒条はアーケード街の奥へと全速力で駆けていった。
まあなんとかなったな。
…さて。
「お前たちの正体はわかっている!出てこい」
そう言ってやると、先程まで何もなかったはずの場所に突然五人の人間の姿が現れる。
暗くてあまり良く見えないが、着ている恐らく全員陸軍の軍装だろう。
「…お久しぶりです、夜叉人少将閣下」
中心に立つ女が、静謐な声音で言う。
少将閣下…か。
「一応、今は海軍中将なんだがな」
冗談めかしく、そう返してみる。
だが、女の顔には笑みどころか、先程よりも幾分も強くなった殺気のみが浮かぶ。
「私達からすれば閣下は閣下のままですよ。…そう、我々の連隊長だった頃のまま」
答えこそ冷静さを保っていそうだが、その実確実に怒気を含ませた声で言う。
「さて閣下、前置きはこの程度に。我々の正体に気づいたということはつまりそういうことですよね?」
中心に立つの女の左隣いる男がそう声を上げる。
「ああ。…だが、その前に一つお前たちに聞いておきたいことがある」
そう、ずっと気になっていた疑問だ。
陸相がコイツ等を使うというところで、俺の思考が帰結したときからずっと考えていた。
「…何でしょうか?」
コイツ等が俺を襲った理由はわかる。当然のことだ。
俺は、それだけのことをコイツ等にした。
だが、
「お前たちは、第一特務連隊はなぜそちら側についた」
なぜ、陛下を敵に回した?なぜ、陸相に従った。
「…そんなの、閣下に帰ってきてもらうために決まって言うじゃないですか!」
悲痛そうな声音で、そう中心に立つ女─早乙女梨花はそう絶叫したのだった。




