帝都内一斉決起 Ⅰ
─陛下がきな臭がられていたが、まさか本当に帝都で決起するとは…。
帝直下の近衛兵隊、第一皇宮守護分隊の到着を待っている最中に一人ごちる。
確かに、陸相が陛下の玉位を狙っているという噂を聞いてはいたが、どうせ陛下からの信頼厚い陸相を嫌った輩がほら話を吹いているだけかと思っていた…。
それがまさか、本当に陸相が帝都で兵を起こし、あまつさえ皇城に砲塔向けさせるとは思っても見なかった。
そして、その行為を以て、陛下が反乱軍の鎮圧を夜叉神閣下にお申し付けになられた。
つまりは、陛下が陸相のことを賊軍であると判断なされたということ。
「藤崎連隊長殿!第一皇宮守護分隊、全隊員集合完了しました!」
私の副官である、神田陸軍大尉が敬礼をしながら部隊の集合を知らせてくれる。
本来なら、帝の護衛のような重要任務は皇宮守護師団の総司令官が、皇宮守護全隊を率いて行うべきだが、総司令は運悪く陸軍省に赴いていたため、現在身動きが取れず、代替の指揮官では相手が相手のため統率できないだろうという判断で、分散して分隊規模で各個撃破する方法を取れとの帝の命令だ。
そのため、普段指揮している皇宮守護第三騎馬連隊と、連隊長不在の第一歩兵連隊、第二歩兵連隊を臨時で混成し、第一皇宮守護分隊と呼称することにしたのだ。
「お世話になります、藤崎連隊長殿。不在の連隊長に変わり、第一歩兵連隊の臨時連隊長を努めております、西条晶です。帝国陸軍大尉を拝命しております」
「同じく、第二歩兵連隊臨時連隊長を努めております、浅井陽子です。帝国陸軍大尉を拝命しております」
「ええ、よろしく。皇宮守護第三騎馬連隊 連隊長 藤崎澄玲よ。帝国陸軍少佐を拝命しているわ」
二人共、真面目そうな顔つきのまさに若手将校といった風貌だ。
まあ、だからこそ不安もあるのだが…。
それでも、今はこの二人を頼る他ない。
「早速で悪いのだけど、二人にはどちらが歩兵の指揮を担当するか決めてほしいの」
普段佩いている、刃を潰した儀礼刀を神田大尉に預け代わりに、サーベル式の真剣を剣帯に装着しながら、不動の姿勢を取ったままの二人に対して言う。
「?どういうことでしょうか。私達が各々の部隊を指揮すれば良いのでは?」
浅井大尉が、不思議そうに答える。
まあ、自分の部隊は自分で指揮したいというのが連隊長としての当然の思考だろう。
けど、
「ほら二人が臨時の連隊長ということは、連隊長補佐も臨時の経験が浅い人がやるってことでしょう?そうなると、指揮系統がいざって時に混乱しそうだと思ったの。だから、歩兵連隊の方はもうそのまま一つの指揮系統で統一して、連隊長と連隊長補佐を二人が担当したほうが良いと思うのよ」
連隊運営に関わったことのない人間を参謀の席に据えるより、経験のある参謀を置きたい。
それに私自身、幼年学校から騎兵科選択だったせいで、兵科の指揮方法なんて知らないから、どちらにせよ歩兵連隊を指揮するのは浅井大尉か西条大尉かの二択なのだ。
「…!失礼いたしました。では、私は西条大尉の方がよろしいかと思います」
なにかに気づいたように、浅井大尉が言う。
わたしの言葉の意味を理解してくれたのかしら?だとしたら、やりやすいからありがたいのだけど…
「は?なんで俺…私なのだ?」
そこで、今まで話しを傍観して聞いてきた西条が口を開く。
まあ、いきなり話の中心に放り出されたのだから、当然の反応だろう。
「貴方の方が陸士の席次も陸大の席次も上でしょ」
「それは今関係ないだろう。あれは、座学やら実技やらの総合評価が上だっただけだ。実技の、特に実戦指揮など貴官に勝てたことなど一度としてない」
「それでも貴方のほうが上なのよ。いくら指揮ができても、それを実行できるだけの胆力と、上官、部下を説得できるだけの弁舌。それが伴わない指揮能力に意味はないわ。それに、連隊補佐歴は貴方のほうが長いでしょう」
「それは貴官が教導隊の教導を務めていたからだろう。何でも、一糸乱れぬ隊列を組む、第一線で通用しうる兵を育て上げたそうではないか」
「あれは私が教導という地位についていたからであって…」
「ああもう、うだうだうるさいわね!浅井大尉が連隊長をしなさい!西条大尉はそれの補助!ただでさえ反乱軍がこちらに向かってきていて時間がないんだから、そのくらい早く決める!」
いい加減、話を決着させるべきだと二人の大尉を一喝する。
「「は、はっ!」」
気圧されたような、二人の大尉の声が響く。
「はい理解したらさっさと行動!急ぐ!」
そして、それをかき消すような私の怒声。
付近で私達の話を聞いていた、見知った部下たちのクスクスという笑い声も聞こえてくる。
その笑い声を聞きながら、二人の大尉も庁舎前に設置された特別防衛戦臨時司令部のテントへと走っていった。
「若いですな、浅井君も西条君も」
笑っていた集団の中から、一際歳を取った、まさに叩き上げといった風貌の士官が小銃と弾薬盒を装備してこちらへと向かってきた。神田大尉だ。
「貴官からすれば大抵の将兵は若いでしょう」
「はっはっは、違いますよ。若いというのは年齢的な部分ではありません。あの二人の考え方がです」
据わった瞳で、二人の若い大尉の背を見ながら歴戦の大尉が言う。
考え方が若いと、質すような言葉を使う割に、隣に立つその男は心底嬉しそうな顔をするものだ。
「ああいう若者が、死なない世の中にしたいものね」
そう、悲しそうな、後悔をしているような目で見るのだ。
「ええ。こんな老骨の身一つを生かすのではなく、ああいう未来ある若者が未来を作っていける、当然かのように毎日を平和に生きれる世界を、次の世代に渡したいものです」
あまりに切実で、あまりに痛々しい言葉。
まるで、自分で自分の傷口を抉るような、そんな言葉だ。
そして、私にも突き刺さる言葉。
「ええ、そのためにもこんな世界は…戦に塗れた世界は、私達の代で終わらせなければね」
そうして、煙の上がる帝都の一角へと視線を向けるのだった。




