悪魔は嘲笑うⅡ
「私はここよ」
黒条が、屈託のない普段通りの、まるで雑談をしているときの様な声で、憲兵達の問いに答える。
そんな黒条に対して、憲兵も少し戸惑ったような表情で、こちらへと近寄ってくる。
「…黒条閣下。ご同行願います」
少し困惑の滲んだ声で、憲兵が黒条に対して言う。
後ろからは、更に数人の店内を捜していたであろう憲兵が、こちらへと向かってきている様子も確認できる。
《…何をしたんだ?》
黒条の眼前に立つ憲兵から、目を離さないようにしながら【念話】で黒条に問い質す。
しかし、僕に対する返答は疎か、憲兵に対する返答もせず、座っている椅子から立つ様子もなく、両眼を閉じ腕を組んでいる。
「黒条閣下!ご同行を…!」
ついに辛抱が切れたように、若干の怒声を織り交ぜたような憲兵の声が黒条に対して向けられる。
が、黒条は目を開くことは疎か、憲兵の方を向くことすらしない。
どうしたものかと、憲兵がため息交じりに、ぼそぼそと独り言を言い始めた瞬間だった。
先程憲兵が、声を荒げながら入ってきた入り口から、新たな軍靴の音が一つ。
酷く小さく、若々しさを感じないソレは、けれども、確かな存在感と威圧感を纏わせながら、混乱している店の店員や、他の客たちという人垣を超え、確かにこちらへと真っ直ぐ向かっている。
「…来た」
小さいうわごとのような、黒条の一言の後、ついに姿を現したソレは、数刻ほど前まで話していた男…
「先程ぶりだな。夜叉人中将、黒条少将」
渡良瀬直哉陸軍大臣、その人だった。
「ええ、陸相閣下。先程はお世話になりました」
陸の人間と相対するときには、最早恒例となりつつある作り笑いを顔に張り付けながら陸軍大臣に返礼を返しながらも、黒条は今だ立つ素振りすら見せない。
「黒条…」
これはまずいと、耳打ちをしようとするが、陸相は右腕の平をこちらへと向けながら突き出し、僕の声を遮る。
「よい、夜叉人中将…さて、黒条少将。貴官には一つ聞きたいことがあってな。我々に一つご同行を願いたい」
厳格な声で、陸相が声を発するが、黒条は一切悪びれた様子もなく無視する。
「貴様……!」
それに対して、最初に反応を示したのは、陸相本人ではなく、陸相の後ろに控えるように立っていた、最初に黒条のもとに駆けてきた憲兵の伍長だ。
伍長は、腰から提げていた軍刀の柄に手を掛けながら、今にも抜刀しそうな形相で黒条の事を睨む。
だが、黒条は陸相に目を向けたまま、先程までと同じく、憲兵に対しては一切視線を向けようとしない。
「陸相殿。最近の陸軍は教育がなっていないのでは?」
まったく悪びれた様子もなく、黒条が煽るように言う。
本来ならとっくに軍法会議行きが決定しているであろう発言・言動の数々だが、本当にまったく悪びれた様子はない。
「はははは。貴官がそれを言うかね。一度、兵学校からやり直してみてはどうだ」
「ははははは。陸相閣下こそ幼年学校からやり直してみては?その年から入ってみれば何か新しく見えてくるものがあるかもしれませんよ」
「「ははははははははははは」」
…小学生の喧嘩かと思う程、どうしようもない言葉の応酬が繰り広げられる。
本当にどうしようもない…。
「…閣下。恐れながら…」
陸相と黒条の応酬に圧倒されてか、もしくは呆れてか、憲兵が小声で呟く。
後ろには、先程まではいなかった、四人の兵たちが控えている。店内の人の波に押し流されていた連中だろう。ひどくくたびれた様子だ。
「何故閣下がこちらに…?」
恐る恐るといった風に、伍長が言う。
「なに、私も黒条少将を追ってきたのだ。貴官等と同じだよ」
…ん?
「そうでありましたか!お手間を掛けさせてしまい申し訳ありません!」
「気にすることはない。…さて」
憲兵達へと向けていた視線を、黒条に転じながら、言葉を続ける。
「話が逸れてしまったな、黒条少将。すまないがそういうことだ。ご同行願おう」
先程までの応酬(笑)とは違う、威厳のある声だ。
そして、それに対する黒条の返答は、
「あ、遠慮しておきます」
ただの拒否だった。
本作をお読みいただいている読者の皆様、お久しぶりです。作者の琴乃葉楓です。
まずは、前回の投稿から間が空いてしまったこと、本当にすいません。
理由といたしましては、単純なものではありますが、四月から進学するため、その準備などで執筆作業をする時間がなく、貯めていたストック分も投稿しきってしまったためです。
今後につきましても、今まで通りの投稿ペースの維持が難しく、週二ペースで投稿できればなという風に考えております。
ですが、自分といたしましても、今後はできる限り一定のペースでもって投稿していきたいと考えておりますので、詳しい投稿日など決まりましたら、再度活動報告ページの方にてご報告させていただきます。
最後にはなりますが、本作をお読みいただき本当にありがとうございます!!!
少しでも、私の作品をお楽しみいただければ幸いです!
以上、作者の琴乃葉楓からでした!




