酒屋にて、真実は語られるⅢ
「あのさ、その話と手紙の事って何の関係があるの?」
千鶴宮中将が、手元に置かれた料理の数々に目線を向けながら、不可解そうに言う。
僕達は現在、大衆向け居酒屋のテーブル席に座りながら、一年前の出来事について話していた。
というか、僕が一方的に語っていた。その話の中に、手紙を読んでいなかった、否、読めなかった理由があるからだ。
僕としては、あのまま陸軍省の前なり、車の中なりで話してもよかったのだが、黒城の強い希望で食事をしながら話すことになった。
「いえ、実はウェストランドについてからソレが起きたんです…」
そう、ソレが起きたせいで、半年近くこの国に帰ることができなくなったのだ。
「それ?」
先程まで、出された焼き鳥に舌鼓を打っていた黒城が、不思議そうに呟く。
ウェストランド帝国
世界でも有数の海軍力を保持し、産業、工業などにおいても発展した立憲君主制の国家。
その国家の歴史は古く、この国に次いだ歴史を持った文明国であり、その土地柄から、何かと我が国の異能を持つ家との関わり合いの多いその国は、定期的に異能を継承した、それも軍人としての立場を持つ人間を自国に呼び寄せ、ある仕事を任せる。
「゛魔女狩り゛か」
元帥が、まるで独白するかのように、陰りのある表情で呟く。
「はい。長く戦争が続いていたこともあり、暫く魔女狩りができず一部では大魔女級に至ったものまでいた為、我が帝国の中でも特に戦闘に特化したものを求めていたそうです」
そこで、ようやく合点がいったというように、元帥が頷く。
「成程。それで、大戦時に欧州各国にまでその武勇を轟かせた貴官が呼ばれたということか」
無言で、元帥の答えに首を縦に振って同意の意を示す。
「元々、ウェストランドはそういった霊的なモノが多い土地です。それに、魔女はその性質上、人の死や憎しみを好み成長の糧とします。…そういう意味では、あの大戦は魔女たちに対して絶好の狩場だったのでしょう」
そこまで話したところで、「あの…」と、申し訳なさげに黒城が言う。
「その…閣下方が仰られている゛魔女狩り゛というのは何なのですか?」
黒城は、少将という軍の中でも高い位に位置しているが、まだまだ若いこともあり、あまり聞きなじみのない言葉だったのだろう。
困惑と、申し訳のなさが混ざった何とも言えないような表情で問うてくる。
「そうか、少将はまだ聞いたことがないのか。…魔女狩りというのは、魔力…我々で言うところ妖力が暴走して、自身の身体を制御できなくなった元人間の事を指す」
妖力というのは、異能を扱う人間が消費する、ある種のお金のようなものだ。
例えば、お菓子を買うのには対価に一銭が必要なように、異能を扱う際にも対価として妖力を消費する必要がある。そして、魔力というのも同じで、妖力の西洋版。魔法と呼ばれる力を使用する際に消費されるものだ。
「元…ということは、一度暴走してしまうと人間ではなくなってしまうのですか?」
「基本的には、一度暴走してしまうと人間に戻ることはない。だが、魔女はあくまで魔力の暴走によって引き起こされる現象だから、ある程度魔力を使わせて枯渇状態に陥らせれば救えないことはない」
救えないわけではない
煮え切らないような返しではあるが、元帥の言っていることは的を射ている。
何故かといえば、魔女になる人間というのは、元から魔力量の多い訓練された人間であるという場合が多く、魔力の枯渇状態に陥ることは殆どない。
だからこそ、救えないわけではない…という答えは非常に曖昧な表現ではあるが正しい。
有体に言うのなら、理論上は可能とでも言うべきか。
「つまりは、その魔女達に魔法を使わせ続け、枯渇状態にできれば救えると?」
「救えないわけではない。というか、救えた事例はいくつかある」
そこで一度言葉を切り、「だが」と僕の方を向きながら元帥が続ける。
「魔女になる人間というのは、大抵の場合生まれた時点で魔力量が桁違いに高い。だから、基本的には枯渇状態になんてできるわけがない。…なのにどうやって、お前は魔女を救ったんだ?夜叉人」
そう。元帥が先程言っていた、前例というのを生み出したのは僕だ。それも、その前例というのが生まれたのがまさに、
「さっき話していた、大戦後の魔女狩りでのことか」
心を読んだかのように、元帥が先回りして言う。
「はい。それと、一応補足しておきますと、僕が救ったというよりかは、僕達が救ったの方が正しいかと」
「僕達?」
そこで、ようやく先程まで、沈黙を貫いていた千鶴宮中将が口を開く。
「ええ。あの時は既に退官は決まっていたものの、まだ未処理の状態でしたから。連隊と行動を共にする必要があったのです」
僕が言っている連隊というのは、第一特務連隊という国家直属の機密部隊の事だ。
裏工作や暗殺、治安維持などを行う特別部隊であり、他の部隊に関しては、最終的な判断が参謀本部にあるのだが、第一特務連隊に関しては、参謀本部から独立した部隊であり、判断は連隊長の裁量に一任されている。だが、なにかと自由の利く半面で、制約も多く、命の危険も多い。特に、連隊長の職に就いている人間は、反社会主義勢力などから命が狙われやすく、部隊の隊員を護衛として使うことが認められている。というか、半強制的に置かれるのだ。
そのため、ウェストランドに派遣される際も、数人護衛という名目で行動を共にしていた。
「成程ね。それで僕達か」
納得いったように、千鶴宮中将が首を縦に振りながら呟く。
「はい。魔女狩りは人数がいればいるほど難易度も下がりますから」
うんうんと、千鶴宮中将が頷く一方で、顔が険しいままの元帥がもう一つ疑問を漏らす。
「だが、報告書を読んだ限り貴官等が救ったのは確か大魔女ベロニカだったはずだ。…いくら人数がいたとて、魔女すら凌ぐ魔力を持つ大魔女をどうやって救ったのだ?」
大魔女というのは、魔女よりもさらに魔力量と凶暴性の高い元人間の事だ。
魔女とは違い、一芸に秀でた稀有な才能を持った人間がなりやすく、魔女よりも格段に厄介な存在。
そんなやつを、どうやって救ったのか。当然の疑問だろう。
そしてそれが、過去を語ることになった要因にして、手紙が読めなかった要因。
「…固有の異能【共振】を使いました」
それが、【共振】という異能の力なのだ。




