出会いⅡ
「さてさて、どうしたものか」
軍人の少女が落としていった、手帳を拾い上げながら軽く嘆息する。
少女は、既に橋を渡り切ってしまっているのか、この場所から姿を見ることはできない。
その上、今日の依頼はあまり動かないものだと聞いていたから、袖や裾の長い和服を着てきてしまったため動きずらく、ここから追いつくのは困難だろう。
まあ、兎にも角にも、所属と名前だけでも確認しておくかと、手帳を開こうとしたその時、後ろから静かに、けれどもはっきりとした殺意を感じて、思わず後ろへと飛び退く。
どうやら、結果としてはその判断は正しかったらしい。
先程まで、自分がいた場所に銃痕が二つできていた。
「貴方は…誰?」
静謐で、それでいてよく通る声をした、黒髪の少女がそこにはいた。
これといった特色のない、左右の腕に拳銃を持った軍服の少女。
さてさて、どうやら僕は誤解を受けてしまっているらしい。
正直なところ、今日の装いは本当に戦闘に向いていないから、できれば荒事は避けたいんだが。
そして、そうなると、この少女と対話を試みるほかない。
「もし、そこの軍服の方。貴方は少々勘違いをしておられる」
できる限り、相手を刺激しないように優しく、柔らかい声で問いかける。が…
「問答無用…!」
その言葉を身体で表すように、どこから取り出したのか、少女はサーベル型の軍刀を大きく振り上げ大上段で斬りかかって来る。
しかし、そうなることを予想していたかのように、男は右に避け、流れるような動作で右手を振るい少女の軍刀を落とさせる。
だが、そこは少女も軍人。軍刀が落とされるやいなや、大きく飛び退いて間合いを確保し、腰に据えた拳銃を一丁のみ構えて、いつでも発砲できる体勢を整える。
「もう一度聞く。お前は何者だ?」
少女は、己の優位を悟ってか、男に対して先程と同じ問いを繰り返す。
「僕はしがない何でも屋ですよ」
男は男で、何ともない軽口を叩くように当然そうに言う。
「わかってる?この間合いで銃を持っていることの意味を。」
少し、苛立たしげな様子で少女が言葉を放つ。
だが、その言葉を発した瞬間、少女はあることに気付く。
…あれ?もう一丁の銃は?
そう、勝負の最中に一瞬でも相手から気が逸れてしまったことが、少女のこの勝負における敗因だ。
…いや、相手が悪すぎただけかもしれない。
少なくとも、普段の少女であれば拳銃が一丁無くなっていることにすぐに気づいただろう。
バンッ!
乾いた、一発の銃声がその場に響いた。
確実に、一点を狙ったその精密な射撃は、一部の狂いもなく少女の拳銃を狙い撃つ。
「なっ!?」
思わず、少女は拳銃を落とし、すぐに拾おうとするが、人間の動きが拳銃の速さに勝てるわけもなく、もう一度放たれた弾丸でさらに遠くへと、落下した拳銃が遠ざけられてしまう。
「どうして?その拳銃をどこで?」
まるで、何が起こったかわからないといった風に、少女が疑問を口にする。
その問いに対して、男は不敵な笑みを浮かべながらこう答える。
「上段は、慣れてないと隙ができやすいですから。お留守だったガンホルダーから一丁拝借させてもらっただけですよ。」
その瞬間、少女の疑問に満ちた表情は、苦虫を噛み潰した表情に変わる。
「まあ、俺の言い分も来てくださいな。少将殿?」