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死なずの君に送る歌  作者: 琴乃葉楓
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煙たい会議場は踊らず、ただ進む

「せやから早速参りましょ。会議室(魔窟)へ」

目の前に立つその女性は、まるで堕落を誘う悪魔のように、もしくは神隠しをする狐のように、表面だけの貼り付けたような笑顔で、僕を門の中へと手招きする。

…行くしかないのか。


そう思った瞬間、そこに待ったをかける少女が一人。

先程から、僕と藤崎の会話を、額に青筋を立てながら聞いていた黒城綾海軍少将その人である。


「申し訳ないが、日を改めさせていただく」

整然と、ただ事実のみを述べるように黒城が言う。

「…今、なんて言うたん?」

それに対する返答は、先程とは似ても似つかない冷徹な笑みと声。


「今回の来訪は延期すると言った」

しかし、黒城は藤崎の変化に動じた様子はなく、ただ淡々と言葉続ける。

「そもそも、今回の事案は閣下に何ら責任がない。確かに唐突に辞めたのは問題だが、それで大規模な見直しが必要なほど閣下に頼ってたのは誰だ?貴様ら陸軍上層部だろうが」


みるみるうちに、藤崎の額に青筋が浮かんでいく。

「それに閣下は、今うち(海軍)の人間だ。陸軍の人間が海軍の人間に手を出すことは、統帥権を犯さんとする意志に取れるがよろしいのか?」


「…統帥権干犯やなんて、そんなけったいなこと言わんといてくださる?そもそも、今回の件は陸軍大臣閣下が決めはったことで…」

「なら、陸軍大臣がこちら(海軍省)に赴くべきでは?その際に、こちらの件もお伝え申し上げる」

「………」

言い返す言葉がないのか、それとも必死に怒りを抑えているからなのか、藤崎が押し黙り、唐突に静粛が訪れる。


しかし、確かにわかることが一つ。

俯く藤崎の額には、先程よりも多い青筋。

顔色は真っ赤に染まり、爆発寸前といった様子だ。

なんだここは、地獄か?


そんなことを考えていると、後方から、聞き慣れた自動車のエンジン音が響く。

黒塗りの、僕と黒城が乗ってきたものと同じタイプのものだ。

そして、その車はキキーというブレーキ音と共に、僕達の立つ場所のすぐ近くに止まる。


「お疲れー」

場の雰囲気が、一気に凍り付いたのを感じる。

出てきたその男は、僕と黒城と同じ第一種軍装に身を包む一方で、左胸に大量の略綬を付け、右肋に我が国最高位の勲章、大勲位藤華大綬章の副章を佩用している。

そう、赤真宮琴乃葉海軍元帥。

帝国海軍のトップ、海軍大臣である。


「急にすまんな。今回の事は貴官らに任せようと思っていたんだが、急用ができた」

(おもむろ)に、藤崎を指さす。

「そこの君、()()を陸軍大臣の元へ連れて行ってくれ給え」

「っは!」

元帥に向かって敬礼をし、門の中へと藤崎が向かう。

恐らく、憲兵司令部に事情を説明しに行ったのだろう。


「ホントにいきなりですね、閣下」

車から降りてきた元帥に対して、二人で敬礼行いながら、黒城が言う。

「しょうがないだろ。書類が…急用ができたんだ」

…どうやら元帥は、仕事をサボってきたらしい。

というか、ホントよくこんなんで元帥なんて職業になれたな。

「…後で斎藤少将に伝えときますね」

そんな元帥に向かって、底冷えするような声で黒城が言い放つ。


普段の元帥であれば、その程度の言葉は何ら脅しにすらならないだろう。

しかし、何故か、今日の元帥は、元帥と相対した時の斎藤少将よりも真っ青に顔が染まっていく。

「やめてくれ。今、海軍省に千鶴宮が来てるんだ」

…成程。いい情報をもらった。

「おいそこの海軍中将。いい情報をもらったみたいな顔をするな。振り…w振り返るな!wお前だよお前」

後ろを振り返ってみたが、どうやら、この近辺に僕以外の海軍中将はいないらしい。

つまり、そこの海軍中将というのは僕のことらしい。


「海軍大臣閣下、夜叉人閣下、海軍少将閣下。陸軍大臣閣下より、面会の準備が整ったとのことです!」

話しているうちに、どうやら陸軍大臣からの許可を得たらしい藤崎が、門の中から、敬礼をしながら大声で叫ぶ。

「了解した。…それでは向かおうか」

何時移動したのかは分からないが、いつの間にか、藤崎のすぐ傍に立った元帥が、先程までとは違い、威厳を取り戻した声で、ここのにいる全員に聞こえるようにはっきりと言う。

…どうやら本当に行かなくてはいけないらしい。

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