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死なずの君に送る歌  作者: 琴乃葉楓
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向かうは陸軍省へⅡ

「…ああ、暫くぶりだな。藤崎少佐」

一番会いたくない奴が来たな。

「ええ本当にお久しゅう。…それにしても、ほんま()()殿もお人が悪いわ~。急に陸軍お辞めになりはった聞きましたら、今度は海軍はんの方行っとるんやもん」

はんなり顔の中に、少しの黒を混ぜたような恐ろしい顔で、藤崎少佐は言う。


「ああ、突然のことで迷惑かけたな」

「いえいえ、私たち(陸軍内部)と違おうて、お一人でキッパリ意見決められて見ていて気持ちがええいうとりましたんや」

「ははは…」

意味は分からないが、恐らく京都人によくある遠い言い回しなんだろうな。

そんなことを考えながら、隣で呆然と僕と藤崎の会話を眺めている黒城に、目線で助けを求める。


「夜叉人()()()()、そちらの方は何方ですか?」

目線に気付いた黒城が、話題を変えてくれる。

…恐らく、中将閣下の語感が強かったのは気のせいだろう。


「こちらは藤崎澄玲(すみれ)陸軍少佐。近衛師団付属の第一騎兵連隊で連隊長をしている、私の六個下の後輩だ」

そういうと、藤崎は上体を屈めて最敬礼の姿勢となって一度頭を下げると、

「ご紹介に預かりました、藤崎澄玲陸軍少佐です。()()()()とは、一時期同じ部隊で副官として奉公して以来、ずっとなかようさせてもらってます。どうぞ、今後はおおきに」

自ら自己紹介をした。

…こちらも、少将閣下の語感が強かった気がしたが、きっと気のせいだろう。


「…少佐。上官の階級を下にいうのは失礼だ。陸軍時代はどうあったか知らないが、現在は海軍中将なのだから、お呼びするときは海軍中将殿か夜叉人閣下と呼ぶように」

ピシャリと、黒城の鋭い声が響く。


しかし、当の藤崎は何処吹く風とでもいうように、先程と変わらぬ表情と口調で言う。

「すんまへんな~。()()()()とは、陸軍で()()()同じ屋根の下(宿舎)で過ごした関係さかい、陸軍におったころの癖が抜けんのです。どうか堪忍したってや」

…さっきと同じで、何個か気になる言い回しと言葉の強調があった気がしたが、今は少しだけ知らないふりをする。


ふと、黒城の顔を覗くと、額には見て分かるほど青筋が、数本浮き出てしまっている。

あ、これやばいな。僕が初めて会った時よりも強い殺気が漏れ出てる。

「まあまあ黒城少将、落ち着いてくれ。…それで、何故少佐がここに?近衛連隊の勤務場所は皇宮のはずだろ」

黒城を宥めながら、何故本来ここにいないはずの彼女がここにいるのか尋ねる。


すると彼女は、別段何ともなさそうに、さらりととんでもないことを言う。

「それがな~、どこぞの誰かが急に辞めはったせいで、陸軍内部でも大規模な人事異動がありましてん。その関係で、左官以上の重要ポストに就く士官が今、この陸軍省に集まっとるんどす」

は?

額に、一筋の雫が伝う感触が伝わる。


「…私が辞めたからか?…いやいや、別に複数の役職を兼任してたわけじゃないんだ。そんな一人の将官が辞めただけで…」

自問自答するように、小声でつぶやきながら頭をフル回転させる。

が、答えを出す前に、目の前に立つ少女が先程と変わらぬ声音で言う。

「何言ってはるんですか。あの問題児どもを閣下以外の人間が統率できるわけないやろ?だから、大幅に今の部隊の体制を見直して問題児を戦力に変えてしまおう言うだけの話です」


「…なら、貴官がここに来たのは?」

「決まっとるやろ?集められた士官の中で、一番下っ端のこなたが、今日来る予定の閣下をその会議しとる場所に案内するためや。まあ、こなたとしてもあの煙ったい場所から出る大義名分ができて嬉しい限りですわ」

…ああ、成程。

嵌められたな、どっちか(海軍大臣か陸軍大臣)に。

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