向かうは陸軍省へ
その場所は、海軍省と同じく、帝都の政府重要機関の集まった区画に置かれている。
外装は、赤煉瓦の西洋風の建築物で左右対称。
海軍省と造りは似ているものの、陸軍と付く組織の建物なだけあって、籠城戦や屋内戦闘までもが想定された設計になっている。
詳しく言えば、庁舎を囲む堀には有刺鉄線が張り巡らされ、庁舎へと続く道は湾曲し、舗装された道以外には木が植林され見通しが最悪。
その上、庁舎の中も複雑怪奇。
階段は1フロアにつき1つしか存在せず、設置されている場所も別々。
部屋の配置にも規則性は殆どなく、隠し通路や隠し部屋なども多数存在し、開けた空間はエントランスのみ。
重要な部屋の前には、兵が二人一組で配置され、備品保管庫、資料保管庫等の危険物もしくは軍機に属するものが保管された場所には、陸軍大臣が入室を許可した証明書が必要。
さて、政府機関の移動のしやすさは何処へ行ったのやら。
まあ、そんなことは置いておいて、僕─夜叉人篤人は今、その陸軍省の正面に立っている。
それも、海軍の第一種軍装を身に着けて。
「これが陸軍省ですか」
そしてもう一人、同じく第一種軍装に身を包み、革の手持ち鞄を提げた少女─黒城綾海軍少将。
「海軍少将なら陸軍省に来る機会もあったのでは?」
陸軍の庁舎を、まるで珍しい獣でも見るかの様な視線で見ている少女に向かって問う。
「誰が進んで゛禰津ヶ関の監獄゛なんて呼ばれてる場所に行くと?」
「…御尤もで」
そう、先程言った通り、陸軍省は実戦を想定した構造になっている。
それはつまり、生活環境や労働環境としての側面よりも、戦い易さという面を重視しているということで、他の面は本当に一切考慮されていない。
それ故、着いた名前が監獄。
元陸軍軍人としては解せないが、否定する材料がない上に、対を成す筈の海軍省ですら他官庁と比べても遜色のない配慮がなされている現状を見れば、監獄との呼び声を否定する気も失せるというものだ。
「…とりあえず、入りますか」
「了解です」
僕の覇気がない声とは対極に、少女のはっきりとした声が響く。
「えーっと、桑原曹長…その、久しぶりだな」
正門の前に立つ、見知った顔の男に声を掛ける。
「…っは?え、あ、夜叉人少将閣下!?」
「少将閣下はやめてくれ、今は…コレなんだ」
襟に着けた、海軍中将の階級章を指さしながら言う。
「…なるほど。事情は分かりませんが…大臣閣下に御用事でよろしいでしょうか?」
「ああ。事前に約束を取り付けているはずだ」
「了解いたしました。ただいま確認して参りますので、少々お待ち下さい」
一礼をして、正門のすぐそばに設置された、憲兵司令部へと桑原曹長が自身の身体を向けた瞬間、一人の軍人が門の中から出てきた。
陸軍士官の軍服に身を包み、少し含みのある騎兵用のズボンを履いたその女性士官は、腰から提げた軍刀を左手で押さえながらこちらへと向かってくる。
軍帽を深く被っているせいか、顔を見ることはできないが、確かに、女性の髪色には見覚えがあった
「これは…!お疲れ様です!藤崎少佐殿!」
その女性は、淡い桜色の髪をたなびかせながら、見事なまでに美しい所作で返礼を返す。
「ええ、曹長こそご苦労様。もう交代の時間だから、貴方は憲兵司令部に戻りなさい」
「了解いたしました!失礼します!」
少佐、と呼ばれたその女性は、曹長がこの場から離れたのを確認すると、僕と黒城に敬礼をし、明らかに感情と表情の一致していない笑みを浮かべながら、僕に対して言う。
「お久しゅうございます。夜叉人元第一特務連隊連隊長殿」




