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死なずの君に送る歌  作者: 琴乃葉楓
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密かに、けれど確かに事は進むⅤ

「ルールは簡単だ。この白線から外に出たほうが負け。判定はそこの二人に任せる」

海軍省の敷地内にある、演習場と大きな立て札の立てられたこの場所は、屋外にあり、他の官庁や倉庫の建てられている場所と違い、大きく開けた野球場のように平らで平坦な場所だ。

しかし、その一方で、周囲は木々によって囲われており、外から中を覗くことは難しい。


つまり、海軍のトップ(海軍大臣)元英雄(一般人)が勝敗を気にせずに戦うには、ちょうどいい場所というわけだ。

そしてそんな場所に、横四十メートル、縦百メートル程の長さの白線が長方形の形で引かれている。


「ほかに何か確認したいことはあるか?」

生地が厚く重い大礼装を脱ぎ、身軽なシャツ姿となった元帥が、持っている刀を軽く上下に素振りながら、僕へと視線を向けて問うてくる。

「゛異能゛は、使用してもよろしいのでしょうか?」


─異能

見鬼の才を持つ者が、極稀に目覚める特殊な力。

神通力や遠視、発火、結界術等、本来人には操ることのできない事象を可能とさせるその力は、人によって個人差はあるものの、そのどれもが常人を異常たらしめる程の可能性を有する。

そして、僕が再び軍隊に召集された最大の要因。

元帥と僕が顔見知りだったのも、赤真宮家と夜叉人家が代々異能を受け継ぐ名家だからだ。


そして、元帥も異能を使うことのできる数少ない人間の一人。それも、この国の異能を持つ人間の中でも戦闘に特化した化け物。

大多数の人間は、そんな相手に異能ありの勝負を挑むことはしないし、挑んだとしても、元帥本人が「お前では相手にならない」と一蹴して、受けつけることはしないだろう。


だが、元帥は心底愉快といった風に、顔に豪胆な笑みを浮かべて言う。

「ああ。存分に力を振るえ」

元帥はそう言うと、僕に背を向けて白線の中へと入っていく。


「それでは、両者構えて!」

黒城の雄々しい声が、辺りに響き渡る。

「…始め!!」


少女の声が、一拍置いて再び響いた瞬間、確かに十メートルは離れていた元帥と僕の間合いが、急速に縮まる。

「…っ縮地か!」

「そら!避けないと死ぬぞ!」

僅か数センチ先から放たれた突きを、身体を横に反らせ、無理矢理に避ける。


が、無理な態勢になったせいでバランスを崩し、身体をよろけさせてしまう。

そして、その隙を元帥が見逃すはずもなく、首にラリアットを掛けて、僕を地面へと押し付ける。

「おいおい陸の英雄。お前の実力はこんなもんか?」

放つ言葉に反して、元帥は一切の油断なく、僕の首を押さえつける。

「…っんなわけないでしょう!゛炎゛!!」

小さな炎を元帥の手元に出し、首を絞める力が一瞬抜けた瞬間、縮地を使って元帥の腕から素早く抜け出す。


「っふ。そうこなくっちゃな!゛衝゛!」

元帥の声に呼応するように、足元の地面が割れ、すぐさま元帥が間合いを詰めてくる。

「二度も同じ技、決めさせるわけないでしょう!」

真っ直ぐ突っ込んでくる元帥に向かって、゛雷゛を纏わせた、音すらも置き去りにする音速の突きを繰り出す。


しかし、その音を超える刃を元帥は何でもないかのように横に避け、そのまま、避けた方向から変わらぬ速度で突っ込んでくる。

「馬鹿が!その程度止まるわけないだろう!」



黒城─黒条が、二人の戦闘を眺めながら、隣に立つ中年の男─田淵少将に向けて呟く。

「…田淵少将、あれってどのくらい修繕にかかりますかね?」

先程、元帥─赤真宮が゛衝゛によって開けた大きな穴に向かって、人差し指を向けながら、呆れたような声音で呟かれたその言葉を片耳で捉えた田淵は、両手を上げ、降参だという風に一言。


「さあ?私は人事部長ですから。…まあ、後で財務部長の胃が大変なことになるでしょうが」

既に悟った人間の声だ。

それに対して、黒条も一言。

「財務部長…いい人だったわね」

まだ、名前すらも登場していない人間の死んだ瞬間だった。

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