白いケーキ
予約していた白いケーキを受け取って、帰路につく。
いつもは残業終わりに足早に通り過ぎる道だけど、ケーキを崩さないよう丁寧に歩いていると綺麗に光るイルミネーションが目に入った。こんなところにイルミネーションがあったんだなと、新しい発見をして嬉しい気持ちになった。
家の鍵を開けると、真っ暗な部屋の電気を点けるよりも先にケーキを冷蔵庫に入れた。やるべき家事を全て片付けて、開放感や贅沢を感じながら食べたい。
一人暮らしを始めてもう2年。ふとした思いつきで始めた一人暮らしは思いの外大変で、今までいかに親に頼っていたか実感した。生活費は渡していたけど、掃除も洗濯も料理もあまりしていなかった私は家事の大変さを甘く見ていた。それでも、実家にはない一人であることの自由を、それなりに満喫している。
実家では毎年クリスマスにはケーキを食べるのが当たり前だったけど、一人暮らしを始めて、自分には関係のない行事のように思って何もしなかった昨年。25日が近づくにつれて日に日に強くなっていく世間の謎のお祝いムードに、結局ほだされて当日スーパーにケーキを買いに行ったけど何もなくて、虚しさを感じた昨年。後悔から学んだ私は、一人であるとか関係なく、今年はクリスマスを楽しもうと決めていた。
いろんなところでケーキの予約が開始されてからすぐ、インターネットやケーキ屋さんのパンフレットをチェックし、悩みに悩んで白いレアチーズケーキを予約した。クリスマスだからせっかくならと大きなホールサイズで注文し、受取日として指定したのは24日。明日は仕事も休みで、クリスマスを楽しむ準備はできている。ケーキを食べることが、私にとってはクリスマスを楽しむということなのだ。
うきうきした気分で家事を済ませ、ついにケーキを開封する。雪景色のように真っ白なケーキ。実家ではいつも定番の苺のショートケーキやチョコレートケーキだったので、シンプルな見た目が逆に新鮮だった。一人でワンホールという小さな時の夢が叶って嬉しくなり、誰に見せるわけでもないが記念にケーキの写真を撮った。ナイフを使わず、一番お気に入りのフォークで直に一口。下の層にあるスポンジはふわふわで、上の層のレアチーズムースは濃厚で、とても美味しい。重たくなく無限に食べられると思った。もともと、甘いものは昔から大好きだ。
しかし、3分の1ほど食べたところで無我夢中で食べ進めていた手が止まった。流石に味に飽きてしまった。
──バラエティタイプのホールケーキが良かったかな。全体の大きさは同じでも、その内訳が1種類か6種類かなら、6種類の方がいろんな味を楽しめたかもしれない。
ここで、ケーキ=クリスマスの楽しみ=幸せ、という方程式が成り立つ私の脳内で、一つの仮説が立った。
<幸せも、大きいもの一つより、小さいものたくさんの方が嬉しいのでは?>
宝くじ10億円が当たること、1日に1回小さいけど絶対ハッピーなことが起きること。極端な例を考えて、私は小さい幸せが1日1回ある方がいいなと思った。その方が毎日楽しく過ごしていけそうで、人生を楽しめそう。
小さな幸せは人によるけど・・・・・。いや、でも、だからこそ、自分で見つけることも作ることもできるじゃん!!
癖にもなっている頭の中でぼーっとした思考の中での突然の発見に、ハッと我に帰った。自分で自分のご機嫌を取る、自分にご褒美を与える、なんて今までやってきたことだけど、仕組みが分からずに良いとされているから実行してきたことの意味や理由が、やっと自分に落とし込んで理解できた気がした。目の前がバッと開けたような感覚だった。
今日は仕事を定時に上がってケーキを無事に受け取れた。綺麗なイルミネーションを見つけることができた。ケーキは崩さずに持ち帰れた。レアチーズケーキは可愛くてテンションが上がった。美味しかった。
毎日小さな幸せを作っていけば、チリツモで最後には大きな幸せになると思う。
幸せは自分の基準で決められるし、私は自分で自分を幸せにできる。
毎日小さな幸せを感じて生きていこう。自分で小さな幸せを作っていこう。
残りのレアチーズケーキに、明日は苺やジャムを買ってきて乗せてみよう。