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7-1、帰路の旅(絵付き)


 陸路でムストニア城に帰る旅の初日、一向は地下水路にいた。


「……なんで地下水路なんですか? 下水道じゃないからマシだけど、暗いよ、狭いよ」


 サラに照らして貰っているので、水路はたいして暗くはないが、閉塞感が怖い。

 先頭を歩くのはミレイを肩車しているスファレ王子で、その後をクレア、最後にボクの順番で、狭い通路を歩いていた。


「クレアさん、服は油脂にくるみましたか?」

「はい、言われた通りにくるみました!」


 先頭を歩くスファレ王子は、誰だお前? って思うくらいに見た目が違う。

 腰に届きそうなくらい長かったミルクティー色の髪はバッサリ刈られ、茶色く染められ、今ではボクよりも髪の毛が短い。

 金色の瞳は何故か青く、服も丈夫で色褪せた中古品を着ている。


 対するボクも、この島で一番多い色のカツラを被って、少年のような格好をしているので、パッと見、スファレ王子と兄弟っぽく見える。


『アズリアー、うしろー、三人ついて来てる』

「誰か分かる?」

『ダークモスの黒いのはいない、みんな男』


 ……これは、王子の護衛なのか、それとも精霊視抹殺団なのか分からないな。


「皆さん、息はどれくらい止められます?」

「えっ、止めたことがないので聞かれても困るよ?」

「では、私が止めろと言ったら、止めてくださいね」


 ……なに?


 通路の奥から、ドドドと嫌な感じの音がする。床や壁が少し揺れていて怖い。


「止めてください!」


 スファレ王子が、抱き抱えているミレイの鼻と口を手で押さえるのが見えた。

 その瞬間、目の前に大量の水が見えて、視界がグニャリと歪んだ。



◇◇


「……プハッ!」


 水面に顔を出したら、背後から腕を回されて引っ張られる。

 何事かと思い、引っ張っている人を見ると、クレアが立ち泳ぎをしながら、ボクを引っ張り岸に押し上げた。


 ……なんかクレアすごい。頼もしい。


 クレアのおかげで、水を飲むことなく岸に上がることができた。

 ミレイと王子は先に陸に上がっていて、王子のマントを被ったミレイが岸で待っていた。


「ミレイ、水のお兄ちゃんは?」

「えっとー、ここで待ってろってー」

「服を乾かしてろという事かな? じゃあサラにお願いしてたき火をしよっか」

「ではこれを」


 ミレイはテカテカした紙を広げる。中には乾いた服が入っていた。


「水路で油紙って言っていたの、これか、クレアはよく分かったなー、スゴい」

「族長が何をしでかすか予測が付かない人でしたので、いろいろなパターンを予測して動く癖がつきましたね」


 ……うーん、苦労性。クレアとボクはたいして年に違いは無さそうなのに、経験の差がスゴい。


 サラに周りに人がいないかを確認して貰って、三人は服を着替えた。濡れた服は木にひっかけて干す。

 王子がいつ戻るのかは不明なので、たき火を目印にして周囲を見て回る。

 ここは聖地に近い森の中で、街からはかなり距離があるみたいだ。


 ……何故こんな何も無いところに転移したんだろう? 追っ手をまいただけ?


「りゃー、ここなんかヘン」

「……ん?」


 何も無いと思っていた森の中で、角度によっては消える変な壁がある。

 壁に沿って歩くと、かなりの距離を覆っている感じだ。


「名無しの結界に似ているな、これうかつに触ると、どこかに飛ばされそう」


 触る勇気は無いので、たき火のある場所に戻ったら、スファレ王子が戻って来ていた。


「おー……じゃなくてスファレくん、何処に行っていたの?」

「聖地の長に入る許可を貰って来ました。夜は聖地に泊まりましょう」

「なるほど、そこの壁は聖地の結界なんだな、触らなくてセーフだ」


 王子は木に掛けた服を取って、さりげなく精霊魔法で水を抜いて、ボクに渡した。


「……フェイでいいですよ?」

「何が?」

「名前、旅をしている間はフェイと呼んでください。アズリア様はリアでいいですよね?」

「そうか、フェイが偽の身分証の名前なのか、ボクは身分証とか無いけど大丈夫なの?」

「ああ、どうしましょうね?」


 十八歳の男性と、ボク、そしてクレア姉妹は端から見るとどう見えるのか?


「アズリア様を姫にして、護衛と侍女と侍女のオマケ……」

「ミレイをオマケ扱いは酷いし、お姫様はやりたくない」

「では、私とクレアさんが年若い夫婦で、クレアさんの弟と妹も一緒に新天地に移動をしている」

「それが無難かな……」

「あー、焼いてくれない。少し悲しい」


 えっ、今の何処に焼く要素があった? 焼くは焼きもちを焼くの焼くだよな?

 キョロキョロと周りを見ると、ボクらを見学していた精霊が何故かガッカリムードを出している。


「なんだよ、妻の役柄に立候補したほうがいいか? ボクに男の格好をさせたのだってお前なのに」

「まあ、無理はさせたくありませんし、どう考えてもクレアさんのほうが嘘が上手い」

「嘘が下手でゴメンねっ!」


 ボクは王子に背中を向けて、クレアに向かってダッシュした。


 ……わーい、旅の間は姉弟ごっこが出来る! 姉と妹なんていたことがないからはじめて!


 旅は聖地の往復で何回かしたことがあるけれど、たいていデュカス付きだったので楽しんだ事はなかった。

 ボクはこれからムストニアに向けての旅路にワクワクが止まらなかった。


◇◇


 翌日、聖地で世界樹の若木の水やりを見学させて貰う。

 本来は女の子しか入ったらいけないらしいが、精霊王の称号のおかげで男装のまま見学を許された。


 世界樹の若木が植えられたのは、岩屋のような地下空間で、ひとりひとつづ精霊ランプを持たされた。

 ランプはスズランの花を大きくしたようなデザインで、とてもかわいらしい。


 何もない洞窟に、若木の植えてあるまわりだけは日が差し込むのか明るく、神々しく見えた。そして若木のまわりには下草が這えている。

 そこに、ルベルとその姉が、じょうろのようなものを持って近づいた。

 じょうろには水は入っていないようだが、ルベルがじょうろを傾けると、キラキラと光る水が出る。

 しばらくすると、若木からポロポロと精霊が生まれ落ちた。

 生まれたばかりの精霊は、泣きながらルベルのまわりを漂っている。

 ルベルが手を振ると、精霊は外に飛んでいった。


「……きれぇねー」


 ミレイがうっとりと、そう呟く。

 クレアには精霊が見えてないようで、返事はせずにミレイを抱き上げた。


「火の王子さまだ!」


 おつとめが終わったルベルが、ボクに駆け寄って足に抱きついた。

 今ボクは少年みたいな格好をしているが、ルベルはボクにまとわりつく精霊を見ているので変装は関係ないみたいだ。

 ルベルを抱き上げると、ルベルの姉と目が合った。


「……こんにちは? あの、アズリア様ですよね? 確か今、行方不明の筈では?」

「あー、そーゆーことにして、のんきに旅をしているんだ、そろそろムストニア城に戻るから安心してください」


 そうですか、と、姉はルベルを連れて岩屋を出て行く。ボクはクレアに抱っこをされている、ミレイに話し掛けた。


「ミレイ、あの木に水をあげるのって、とっても大事なお仕事なんだ、ミレイはここに住んで、ルベルを手伝う気は無い?」


 ミレイはクレアとボクを交互に見た。


「クレアはここに住むの?」

「ううん、私はここには住めないみたい」

「ならやらない! ミレイはクレアのいっしょがいー」


 ……ですよねー。まあ、ミレイを就職させるために聖地に来たわけじゃないし、先に進もうか。


「クレア、ここを覚えておいて? ボクの家と比較して、どっちが安全にミレイを育てられるのかの判断材料にするために」

「判断って、私がここに住めないという点で、かなりのマイナス要素ですよ?」

「そうだねー、大陸差別よくない……」


 岩屋から外に出ると、広場で子どもたちが遊んでいた。

 そこにはルベルもいて、ミレイに向かって手を振っている。


「リア様、少しミレイを遊ばせてきてもいいですか?」

「うん、ミレイも名無しの館から出るのははじめてだろうし、いっぱい遊ばせるといいよ」


 ボクはチラリと王子を見る。


「おうー……フェイはどう思う? 聖地はいつまでいるの?」

「若木の水やりを見たら出ようかと思いましたが、出発は明日でも構いませんよ」

「なら明日の朝にここを出よう。クレアにそう言ってくる」


 ボクはクレアにそう伝えて、広場の隅っこの岩に座って、遊ぶ子どもたちを見ていた。


「おー……お前はなんで聖地に寄ったの?」

「ああ、アンデンシを預けていたので、馬の回収と旅の荷物の回収ですね」

「愛馬をここに連れてきたの?」

「はい、いるといないでは移動の手間が段違いですから」

「……そ、そうだね」


 ……わざわざこの為に、事前に馬を聖地に転位したんだな、スファレ王子の馬好きはすごいや。


「リア様って執拗に私を王子って呼びますよね」

「呼ばないようにはしているんだけど?」

「おー、まで言うので、フェイじゃなくて、オーが付く偽名のほうがよい気がいたします」

「オーが付く名前ね……オーク、オパール、オーキッド、オベール……オージ」

「オージェ」

「オージェ、それだと王子に近くていいね、君の名前はフェイ・オージェくんで決定」


 思えばスファレって名前は呼び捨てしにくいんだよね? なんか優雅な感じで様とかつけたくなる。

 とか言っていると、ルベルの姉と話をしているクレアの姿が見えた。クレアはとても真剣な顔で頷いている。


「ミレイさんは、ここに置いていければ良かったのですがね」

「それが聖地に寄った本音だな?」

「まあ、クレアさんもいなければよいと思います。本来は転位で逃げられる私たちにとって、彼女らは重荷でしかないので」

「……ゴメン、二人を連れてきたのはボクのワガママだ。二人を引き離す事に耐えられなかった」

「そのお陰でアンデンシと旅が出来ます、マイナスもありますがプラスもある」


 そうか、ボクと王子の二人旅だと、転位を挟むから馬はいらなかったのか。

 それがずっと陸路になりそうなので、愛馬を連れて来たと。

 ボクはすっくと立ち上がり、王子を見た。


「思えばボク、王子の馬と遊ぶのをずっと夢見ていたんだ、ちょっとアンデンシにブラシを掛けさせてくれ」

「どうぞ」


 そう言いながら、スファレ王子は朗らかに笑った。


◇◇


 アンデンシにはクレアとミレイに乗って貰い、ボクと王子は街道を歩いていた。

 アンデンシの手綱を引きながら思う。

 王子の馬はとてもよく言うことを聞くしかわいい。足先の白いソックスがとても良い。


 ボクは馬に乗って入るクレアを見る。

 馬での移動なので、クレアはスカートの下にズボンを履いて貰った。

 クレアは馬に慣れて無いようで、すごく緊張している。


「歩きたくなったら言ってね、その座りかただと多分おしりがいたくなるし」

「視界が高いのが怖いですーグラグラです」


 ミレイはご機嫌なのに対して、クレアはあまり持たなさそうだ。

 少し大きな町に出たら、新たに馬をかりるという話も出ているけど、馬車のほうがいいかもしれないね。


「あと三キロくらいで国境に近い街につきます。クレアさんたちの体力を見て、街で何日泊まるか決めましょう」


 ……ヤバい、十日程度の予定がどんどん遅れている。一度親に元気だと報告を出したほうがいいかもしれない。


「……聖地で光の精霊を借りとけばよかった」

「手紙を出すにしても、国境を越えてからのほうがいいですよ」

「なんで?」

「ムストニアの国境の検閲は厳しいですから、平民が城に手紙を出してもまず届かない」


 聞くと、届かないと差出人に罰せられるレベルの封書以外は捨てられるらしい。回避するにはお金。お金をいっぱい渡せば届くとか。


「ムストニア国境ってなんなの? 入国税高いって言うし、手紙は捨てるし」

「それだけならまだマシですよ」


 ……なにか不穏な事を言い出した。お金が高いより怖い事って想像がつかないんだけど?


 スファレ王子が、ボクに旅をさせる理由は、ムストニアの現状をちゃんと見ろと言われている気がした。


 ……陸路を選んだのは、ずっとボクを側に置いておきたいからだと勘違いをしていたよ、王子はちゃんと国の事を考えていたんだ、ゴメン。


◇◇


 ヘリオニア最北端の街は、結構大きくて賑やかだった。

 街からは川が見えて、高いところに上ると国境にかかる橋が見えた。

 その、橋のまわりには人が沢山いるようで、ところどころにテントのようなものが立っている。


 ……橋が混雑しているのかな? 待っている人がいっぱいいる?


「リアさまー、夕食ですよー」


 下からクレアに呼び掛けられたので、ボクは壁を伝ってクレアの側まで飛び下りた。



 宿屋の下の食堂で夕飯を食べる。

 ミレイに合わせてか、まだ夕方なので、他のお客さんは少ない。

 夕食は薄いパンに野菜と薄切りのハムを挟む形だった。

 クレアが自分のパンに玉ねぎの酢漬けを挟みまくるのを、引きながら横で見ていた。


「……何でそんなに玉ねぎが好きなの? 酸っぱくない?」

「親が好きだったからですかね、血流が良くなるそうですよ」


 クレアはほぼ玉ねぎのサンドを、とても美味しそうに食べている。

 ボクの隣に座っているスファレ王子が真似をしないように、ボクはボクの皿を死守した。


「ボクは玉ねぎはあまり好きでは無いです、乗せないでくださいね?」

「でも殆ど何も乗せてないではないですか、パンと野菜と肉はバランス良く摂取してください」

「あんまり乗せるとかぶりつけないから、程々でいいの!」


 自分の皿を執拗に隠していると、王子はボクの口に王子が巻いたパンを押し込んだ。

 野菜たっぷり、お肉マシマシのパンは、咀嚼するにも一苦労だ。


「オージが作ったパンは自分の口に入れてください! それデカすぎて食べるの大変だから!」

「リアー、オージェですよ、間違えないでくださいね」


 クレアがボクの王子呼びをたしなめた。その口調はとてもお姉さんっポイ。


「玉ねぎねーちゃん」

「……リア? 聞こえなかったわ、もう一度言ってみて?」


 ……うわ、クレアが突然サニアみたいに豹変した。怖い!


「クレアねーちゃん」

「はい、なんでしょう」


 いや、名前を呼んだけど用事はないよ。

 しかしアレだ。兄妹はいい……どうしてボクには兄妹がいないんだろうと思うくらい楽しい。


 ……今はクレアと王子が若夫婦設定で、ボクはクレアの弟なのだから、王子は義理のお兄さんだよな。


「お義兄さん、お水をどうぞ」


 王子のコップにお水をついだら、なんだかじっとコップの水を見ている。

 ディーネが何かをしてるんだろうかと水面を覗くが、何の変哲もないただの水だ。


「水差しをください」

「……えっ、ハイ」


 水差しを王子に渡すと、王子はボクがついだ水を水差しに戻した。

 ボクがついだ事に不満があるのかと思って見ていたが、王子はミレイやクレアの水も奪って水差しにそそぐ。

 王子は水差しの中の水をしばらく覗いていたが、何もせず、すぐに全員のコップに水を注いだ。


 注がれた水を見ても、さっきと何が変わったのかはわからない。

 クレアがなめるように口をつけて、驚いた顔をした。


「……このお水、美味しいです!」


 王子はクレアに寄って、ボソボソと内緒話をする。二人の姿はまさに若夫婦という感じで、見ていると少し胸が痛む。


「これから飲み水は全て私に渡してください、毒味だと思って」


 ……多分、ディーネの力で水を浄化したのだと思うが、何で王子がボクたちの水を毒味してんだよ、逆だろう?


「……破壊しか出来ないボクと違って、おにーさんが優秀すぎてへこむ」


 じっと机を見ながら落ち込んでいると、王子に頭を撫でられた。


「良く食べ良く動き良く寝ていれば、リアも強くなれますよ」

「……食ってんだけどなー、一度にたくさん食えないジレンマ」

「元から胃が小さいのでしょうね、回数を増やして対策しましょう」


 旅の間食ならナッツか干果だとクレアが言う。またここで干果に悩まされるとは思わなかった。



挿絵(By みてみん)

楽しい?旅のイメージ

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