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1-7、なんかすごいメイドがいた


 建国祭りでにぎわう路地から少し外れて、屋台等が設置してない路地を歩く。

 今の連れは三人だが、ボクは長身の人のマントの中なので、周りから見ると二人で歩いているように見えると思う。


「さて、何から話せばいいものか……」


 長身の人、バルバスさんが呟くので、ボクはバルバスさんの懐から答えた。


「今日の予定は、夕刻二十時から、城の大広間で貴族の集まる式典があります、それに出席されるために来訪されたのですよね?」

「ハイ、町に入って、どこに向かえば良いのか分からず、入国管理所で聞いていたところでした」

「なるほど、なので殿下は馬とお留守番だったと、まあ、人の多い街中よりかは安全ですからね!」


 隣国の王子様をひとりぼっち事件の真相はとても単純だったな。


「アズリア殿下は私どもと共に城に入っても、問題ありませんか?」


 ……大有りだ、いや、女装して町をうろついていたとか、問題しかない。


「城門まで案内しますので、ボクは途中でおろしてください」

「……理由をお聞きしても?」

「あー、脱走経路に服を置いているので、それがないと城には戻れません」

「先に服の場所に立ち寄っても構いませんが」

「いえ、他言無用な通路ですので、お気持ちだけで!」


 王家専用通路がバレたら、怒られるどころの話じゃない。通路の存在をほのめかしてしまった気がするが、二人が城門をくぐってから移動すれば大丈夫な筈。


 ウンウンと、これからの動きをシミュレートして、式典迄の時間がない事に冷や汗をかく。


「……迂回したら、間に合いませんね、着替える必要もありますし」


 前を歩くスファレ王子が小声で呟いた。


「ですね、時間がないので、このまま城に向かいます」


 聞いて、ドッと冷や汗が吹き出した。

 心臓が早鐘を打ち、手が震える。震えがバルバスさんにも伝わったようで、ボクを抱き上げる手で、背中をさすった。


「アズリア殿下が恐れていることを、教えてください、必ず対処します」


 ドッドッドッ、と、心臓の音が頭に響く。

 女だとバレると命は無いと父上に言われたが、もうこの二人にはバレている。


 ……ボクはこれからどうなるんだろう。


 軽い気持ちで城を抜け出した。

 民の目線で祭りを見てみたかった。

 たかがそれだけの理由で、ボクは殺され、父上や母上は窮地に立たされる。


 ボクは藁にでもすがる気持ちで、心の底に潜めていた、本当の気持ちを打ち明けた。


「……ボクが女だとバレると、殺されます」

「王家の第一子は男であるべきという、島の掟ですね、それは我が国にもありますので、理解できます」

「サニアを呼びます」


 前を歩いていたスファレ王子が、何かを空に投げた。それはキラッと光り、城に向かって飛んでいった。


 何を飛ばしたのかは分からないが、気付くとスファレ王子の前に、マントを着た人が立っていた。

 その人は身に付けていたマントを剥ぎ取り、バルバスさんのお腹に張り付いていたボクに巻き付けた。


 ……あれ、マントの中身、うちの城のメイド服なんだけど、うちのメイドさんなの?


 ボクよりも少し小さい黒髪の女性は、狭い袋小路にボクを押し入れると、マントを広げて道から見えないようにボクを隠した。


「バルバスはこのマントを広げて持っていて、三分で終わらせるから」


 マントを広げるバルバスさんの脇に、スファレ王子も道を伺うように警戒しながら立っていた。

 デュカスは南のヘリオニアを敵国と言うのに、その人たちはボクを守るために一生懸命だ。敵国とはなんぞや?


 ……ありがたい。でも、その分自分が情けない。


 メソメソと泣いている暇は無い。

 黒髪のメイドのサニアさんが持って着た服に着替え、カツラの髪型も変えて貰う。


「出来ましたー! ムストニア城の、新米メイドさんです! ハイ、男共は拍手拍手!」


 パチパチとおざなりな拍手を貰った。この女性、王子様といかつい大男をアゴで使ってない? なんかサニアさん力強い。頼もしい。


「しかし、これ……」


 ……メイド服だぁ……ビリビリスカートがメイド服に変わっただけで、女装の部分は変わってないよー!


 ヒィィと悲鳴をあげる暇もなく、サニアさんから買い物籠をおしつけられ、城の裏口に押し出された。


「じゃね、マスター、後で合流しましょ!」


 王子とバルバスさん。どっちに向けてかは分からないが、正門に向かう二人に向けて、サニアは軽やかな投げキッスをおくった。



◇◇


 特に怪しまれることなく、城の裏口から中に入れて貰うと、サニアは迷い無く庭を走り、奥へ奥へと進む。


 ……なんだこの人、足、はやっ!


 人目が無いのをいいことに、メイド服のスカートをたくしあげ、必死に後を追いかけた。

 サニアは足を止め、城の壁を指して、これから行くルートを示す。


「……いや、そこ、壁ぇ!」

「殿下なら行ける行ける!」


 いや、壁をよじ登る事は出来るけど、人から登れと言われるとは思っていなかった。

 躊躇する時間は無いと、女性は柱から壁をよじ登る。窓の枠や建物の凹凸を使い、スルスルと上に行くメイドさん、アナタ何者なの?


 ボクの部屋のある階の端のテラスから、サニアはボクに手を振る。

 サニアさんに手を引いて貰い、なんとか壁をよじ登った。


「なんで壁登り?」

「ああ、殿下が逃げ出したあと、城内は殿下探しで大騒ぎなので、外からの経路を選びましたわ」

「大騒ぎなの?」


 脱走したボクがボクの部屋にいる筈はない。なので誰もいない通路を抜けて、無事に自室に帰還した。

 サニアもちゃっかり付いてきて、扉を閉めてボクのメイド服を脱がしにかかる。


「殿下の部屋に来るのはじめてです、殿下の周辺はガードがかたすぎて、近付くことさえ出来ませんでした」

「そう、特にボクの身の回りは老人で固めているから、若い人は入れないようになってる」

「……老けメイクを考えなければ」


 ……ボクの部屋に侵入する気満々!?


「いや、ホント、サニアさんって何者なの?」


 サニアは濡れた布を手に、ニッコリと笑う。


「聖王子のお世話役ですわ」

「ボクの乳母的な感じなのか……」


 ……壁登りって、子守りに必要なスキルなの?


 風呂に入る時間は無いので、顔と手足を濡れた布で拭いて、取り敢えずの体裁を保つ。

 サニアさんは着付けも慣れたもので、細かな飾り紐やボタンも器用に付けた。


「ねぇ、サニアさんがボクの所にいるのって、スファレ王子困るんじゃない? 殿下も着替えなきゃでしょ?」

「そんなのあの大木がやりますわ、あと誰もいなくても、マスターひとりで着替えられますし」


 ……大木とはバルバスさんか。よくわからないけど、あの二人は何でも出来るらしい?


「あとひとつ疑問なんだけど、南の国の人が何でうちの城のメイド服を着ているの?」

「警備の一環ですわ」

「いやそれスパイ、密偵行為!」


 ズバリ指摘すると、サニアさんは下を向いて、スッと後ろに下がった。

 腰からなにか紐のような物を引き抜き、二つに折った紐をパシンと鳴らす。


「……正体を知られたからには生かしておけぬ」

「それ、鞭です? 何でそんな物騒な物を隠してるんです?」

「メイドの嗜みですから」


 ホホホと笑いながら、サニアはスカートに鞭を仕舞う。収納時に金属の音もしたので、多分ナイフ系も持ってる。


「メイドさんって、実は怖いんだな」

「いえいえ、私の本業は子守りですので」

「子守りに鞭とナイフ必用?」

「乙女の嗜みですわぁ」


 サニアはヘアブラシを手に、ボクの髪を解きほぐす。所々に土がついていたらしく、呆れ顔を向けられた。


「今現在は子犬の世話係をしております」

「……うぐ」


 いや、ボクの髪に馬繋場の土がついているなら、ボクのお尻で下敷きにしたアイツはもっと土がついているだろう。


「精霊の相手をせず、逃げていれば風呂に入るくらいの時間はあったのにな、アイツには申し訳ない事をした。夜会ったら謝らなきゃ」

「その件ですが」


 目の前、息がかかるほど近くにサニアさんの顔があった。


「式典では初対面で行きましょう」

「えっ? 初めましてって、言う?」

「そう、私たちは、アズリア殿下の事を何も知りません。という姿勢を貫くので、殿下も私が潜入していることを黙っていてくださいな」

「……嘘ついてもすぐにバレるんだけど」

「嘘は口に出さなければ嘘になりませんわ」


 うわあ、サニアさん、イイ笑顔。女のひとこわーい!


「えーっと、じゃあボクは城を抜け出した後は、ひとり町をぶらついて戻って来たってことこか」

「それですと、ひとりで礼服に着替えたことになります。なので、帰宅後崩れた礼装で歩いていて、私に服を直された事にしましょう。アズリア殿下は私に着付けて貰った事だけを言えば嘘になりません」

「分かった、壁をよじ登ったサニアさんは無かった事に」

「そうそう」


 ぐにっと、頬をつままれた。


「むー、今日は生まれてから一番人に触れた。接触記念日だな」

「なんですのそれ?」

「生きるのに色々制約があるんだ。ひとつは親と乳母以外の人に触れないこと。ふたつめは、この部屋以外での飲食禁止」

「きっと、性別バレと毒殺回避の為ですわね、やりすぎるとかえって怪しまれるのに」


 サニアは部屋の扉を開けると、サヨウナラと手を振った。どうも、来たルートから帰るらしい。

 サニアさんを見送る余裕ないので、ボクは早足で大広間に向かう。

 途中で兵士に見つかり、父上の前に連行された。

 その後は、式が始まるギリギリまで父の執務室で書き取りをやさられ、夕方貰える筈の食事はまたもや抜きになった。


 ……祭りの飴、食べたかったな。


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