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第7話「初代聖女リガネ」

 私はメイドさんに頼んでリガネ教の聖書を持って来てもらった。


 目的は二つある。


 一つは帝国語の勉強。もう一つは、リガネ教の成り立ちについて知る為。


 聖書というのは、そのまま宗教がどうして興ったのか、その宗教観の中では世界はどう構成されているのかが記されている。


 後者は往々にして間違っている事の方が多いけれど、正誤は重要じゃない。


 例えば、その宗教で全ての生物は神によって創られたと考えられているとしよう。


 その考えの中で生物は進化によって今の姿形になったという進化論は当然タブーだ。


 そんなものを街で触れ回ったら、最悪処刑されてしまう。


 だから私はこの世界でしばらく暮らす以上はこの世界で生きる人達にとってのタブーに触れない様に知っておかなければならない。


 招待を受けた身ではあるが、郷に入っては郷に従えと私の国では言い伝えられている。


 自分達の常識を押し付けて相手を不快にしては、ルストフェルトの気遣いを無駄にしてしまう。


 だからこそ、いま一番それを知る事の出来る聖書を読むこむ事にしたのだ。


 そして、聖書から分かった事をいくつか並べる。


 大まかなところは、私の世界で最も広く信仰されている宗教とほとんど同じだ。


 一柱の偉大な神様が6日間で世界を作って7日目に休んだから、この日は安息日にしなさいとか。


 ちょっと気になったのは同性愛や異性装をこれでもかという程に重大な禁忌としている事か。


 そして元はカマネ教という一つの宗教から分離したものであるという点も同じだ。


 唯一違うのは、その名前にもなったシンボルである人物の逸話。


 リガネ……無理矢理英語に治すならリジェネ……そう、多くのファンタジー物で徐々に傷が治っていくスキルや魔法の代名詞。再生を意味する、あのリジェネだ。


 この宗教に於いて再生をリガネ様は神の子と称されていた。


 それはこの世界に初めて「祝福」。聖女が使う力をもたらした女性だから。


 つまり、リガネ様は初代聖女という事になり、祝福とは神の御業となる。


 リガネ様はその力で人々を救済して周っただけでなく、自分の力を独占しようと考えず誰もが扱えるよう術を広めながら旅を続ける。


 やがて誰もが祝福の力で苦しまずに生きられる世界にしたいという彼女の夢を実現する為に集った13人の男女。彼らはリガネレイタの使徒として活動する。


 しかし、そんな彼女の人生に悲運が訪れる。


 カマネ教の信徒でリガネ達を目の敵にしていた王国の民に、13人目の使徒ルベリオが祝福の力を持ち出して寝返ってしまう。


 更に、本来であれば人々を救済する筈の「祝福」の力を破壊の為に扱う業を見出す。


 リガネが原初の聖女なら、裏切者のルベリオは原初の魔術師だ。


 飽くまでも癒しと護りの力である祝福に対して、破壊の力となる魔術は無力だ。


 リガネは使徒や自分達に着き従う民達を想って、王国とルベリオに自らを差し出して処刑されてしまう。

 

 その後も色々と書かれているのだけど、重要なのはリガネの存在とルベリオの裏切りで彼女が処刑された事にある。


 この事件があった為、男に祝福の力を持たせるのは破壊に使うから女性だけが扱える様にするべきだという考えが産まれ、聖女という役職が産まれた。


 しかし、癒しと護りの力のみでは暴力を振りかざす者から聖女達を護れない。


 リガネの二の舞になってしまうという男性使徒からの訴えにより男性は騎士として剣を取る。


 こうして、聖女と騎士の共生関係が産まれた訳だ。


 対して魔術師はリガネ教からすれば裏切りの代名詞で、偏見、忌避感、差別はこういう宗教観から来ている。


「かなり根深い問題だな、これ」


 現代日本に住む人間としてはおとぎ話で差別するなよって思っちゃうんだけど、それは本当に恵まれた話。


 2020年での世界総人口は約76億人なのに対して、15世紀頃の推定人口は5憶人とする学者がいる。それぐらいの差が産まれるほど、この文明規模の世界は過酷だ。


 日本でさえ、織田信長が人生五十年と歌うほど平均寿命は短く七歳まで成長しただけでお祝いする慣習があるくらいには、ただ健やかに生きる事でさえ難しい。


 宗教っていうのはそういう環境の中で暮らして行く心の拠り所として必要な方策だ。


 だから、私にリガネ教を否定はできない。もしも否定する奴がいるのなら、今すぐこの世界の文明レベルを21世紀並にしてから口にして欲しい。


「でも、ルストフェルトが魔術師になるのを止める訳だ」


 数十年程度では払拭しきれない深刻な風潮から、きっとこれから私は信心深い人達から色々と批判されるんだろう。


 まして元々聖女になると言われてやってきたのに結局魔術師になるのだから、なおのことルベリオと重なってしまうかもしれない。


 それは少し自意識過剰か。


「ま、エリに謂れのない事をぶつけられるよりかは遥かにマシか」


 私はベッドで大の字になって身体を毛布に預け、勉強疲れからか自然と瞼を閉じて眠りに落ちる。


 こうして、異世界生活二日目は終了した。


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