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第2話「同郷の女性」

「すご……」


 天井から柱まで、精巧な彫刻や宗教的な意味合いを持つのであろう絵が描かれた豪奢な空間は、思わず目を奪われる。


 足元に目を向けると大理石が敷かれた床には魔法陣と表現するのが相応しい円形の文様が半径20mほどの大きさで描かれていて、それは光を放っていた。


 周りには、私とルストフェルトさんの様に男の手を取ってこの世界にやってきたばかりらしき女性が何組かいて、私と同様にこの広間の美しさに見惚れているようだった。


「アリサ様。後続の方々がいらっしゃいますので少々横へ逸れてくださいますか?」


「あぁ、はい。失礼しました」


 私は慌てて、中心から少し外側へズレると、そのすぐ後にさっきまで立っていた場所が光りだして男性にエスコートされた女性が続々と現れる。


 ほとんどはこの世界と同様ファンタジーな世界から来たと思われる格好をしていて中世ヨーロッパ風だったりアラビアン風だったり種々雑多だ。


 その中で、たった一人だけ目立つ女性が居た。


 それはそうだ。何故ならば、その人だけ私と同じ現代の日本人とひと目で分かる顔立ちと恰好をしているから。


「ん? あの人、どこかで……」


 私はその女性に既視感を覚える。


 きっと、学生時代の同級生なのだろうけど、もう10年以上前だから名前すら思い出せなかった。


「では、アリサ様。私は司教の仕事がありますので、また後ほど」


「わかりました」


 ルストフェルトさんは私から離れて、私含めて15組のペア達の前に立ち、広間全体に響くよう声を張り上げる。


「私はルストフェルト・シュナイダー! リガネ教シュベルト帝国教区司教であり、帝国法務長官を任されております!」


 法務長官……ってことは、国の法律を司る人の中で一番偉い人間!?


「皆様にはこれより聖女候補として検査と試験を受けていただきます。残念ながら、その結果次第では落選となり、このまま元の世界へと帰還という形になります」


「ちょっと!」


 ルストフェルトさんの発言を聞いて、あの日本人女性が指差して声を上げる。


「絶対なれるって言われたから来たんだけど!? 聞いてないわよ!?」


 彼女の言葉につられ、頷き同意する女性もチラホラ見える。


 そんな人達のルストフェルトさんは物怖じせず、ありのままを伝えていく。


「勧誘の為、虚偽の言葉並べた非礼はお詫びします。しかしながら、その勧誘文句はあながち間違いではありません」


 少し周りに目を向けてみると、ばつの悪そうな顔で女性達から目を逸らす男が何人か居た。


 どうやらあの人達はルストフェルトさんと違って、言葉巧みに煽てて女性達を勧誘してきた人達のようだ。


「帝国は現皇帝テオバルト・アウギュスト・フォン・ロッテンブルク様の意向により血筋に囚われず、能力至上主義を尊びます。そして、聖女候補の合格枠は100人」


 その人数は明らかにここに居る聖女候補の数よりも多い。


 という事は……いや、普通に考えたら当たり前の話だけど、異世界から聖女候補を呼ぶのと同時にこの世界の住人からも聖女候補を募集している。


「そして皆様は大まかな魔力計測の結果から選ばれております。少なくとも検査はすでに通過しているものとお考え下さい。また、検査の結果次第では試験の結果に関わらず合格となります」


 早い話が私たち異世界人は内定を貰っているようなもので、試験自体は形式的なもの。


 むしろ、この世界の人が素質に依らず、努力によって合格を勝ち取れるチャンスの為に試験は置かれていると考えた方がいいかもしれない。


「詳しい話はこれからご案内する場所にて説明致します。それでは、移動しますので私の誘導に従ってください」


 同郷の女性はあの説明を受けても不服のようだ。


 100%受かると聞いていたのに、数%の確率で落ちるかもしれないと言われて、不安に駆られているのだと見受けられる。


 確か誘われた時に断り辛い状況に居る人間を選んでいるらしいが、それだけ聖女になれないと困る程、彼女は逼迫した生活を送っているのかもしれない。


「……あれ? あんた、もしかしてアリサ?」


 私の視線に気づいたのか、ふと同郷の女性が振り返って私の顔に指を差して声をかけてくる。


 既視感は正しかったみたいで、どうやら昔に私達は顔を合わせているらしい。


「はい。そうですけど……」


「他人行儀やめてよぉ~! エリだよ、エリ! もしかして忘れちゃった?」


「え~……まぁ……その、昔よりも変わってるところも多いので」


「まぁ~、上京して垢抜けた~って感じ? そういうアリサは中学の頃から身長以外全く変わんないね~!」


「はははっ……」


 名前を言われて、段々思い出してきた。


 こいつだ。私が男子とつるんでいたら男に媚びてるだのなんだの言ってきた女は。


「まだサバサバ系気取ってんの? 工業高校の陰キャで良い感じの男子は釣れた?」


「いや、私そういうの興味無いので……」


 デリカシーも無ければ勝手に自分で思い込んだ事を真実であるかのように決めつけて話してくる。


 外見は大きく変わったが、内面はあの頃とほとんど変わってないらしい。


「ま、同じ聖女候補同士、頑張ろうよ」


 そういって、エリは握手しようと手を差し出した。


「……よろしく」


 複雑な思いはあるけど、彼女もまた複雑な事情を抱えているのだと言い聞かせて私はその手を握り返した。


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