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第16話「帝都へお出かけ」

 翌日、私とイゾルデは城下町に出掛ける事にした。


 前々から約束していた事で、イゾルデもそろそろ都会のお洒落な服が欲しいとの事。


 それを買うにあたって私に選んで欲しいと頼んできた。


 あまりファッションセンスは無いんだけど、彼女の希望とあっては仕方ない。


「それじゃあお金を引き出してきます」


 今日の外出にイゾルデはとても興奮しているようで、頬を紅潮させている。


 にしても、流石に帝都だけあってちゃんと銀行というか金融業が存在しているのは恐れ入った。


 ちなみに、お金に関しては心配はない。


 なんでも聖女候補と魔術師見習いは衣食住の保証だけではなく、ひと月毎に候補手当や見習い手当と呼ばれる言わば給料が支払われる。


 月給は金貨10枚。帝都に配属された帝国兵士の初任給が金貨12枚らしい。


 相場というものはあまり分からないが、やはり帝国領土内でも物価の差は激しいみたいで、例えばイゾルデが暮らしていた辺境では帝国金貨1枚で半年は暮らしていけるそうな。


 しかし、帝都城下町で暮らす分だと金貨12枚はひと月で消えてしまう物価。


 それを聞けば、確かに聖女の人気が高いのも頷ける。


 帝国で普通に働いて暮らすとなればお金はほとんどを衣食住に当てなければいけないが、文化的な生活が担保されている聖女候補は手当で渡される金貨10枚全てを自由に扱える。


 これを趣味に使うも良し、実家への仕送りに使うもよし。


 辺境というのは領土の境。聖女が行脚で来訪する機会も少ないと聞く。手数料に半分も持っていかれたとしても、帝都から仕送りを行えばそこに住む人達にとって祝福と同等の恵みと言える。


 さて、せっかくのお出かけなのだから私もちゃんと手持ちのお金を握っておかねばならないか。


「すみません、私も引き出し良いですか?」


「はい、構いませんよ」


 私はカウンターの前に立って銀行員の女性に声をかけて貸金庫手形を渡す。


 聖女候補と魔術師見習いに渡される言わばキャッシュカードみたいなものだ。


「アリサ様でございますね。現在引き出し可能な額はこちらになっております」


 私は渡された通帳の残高に目を通す。そこに書かれていた数字は、210。


「金貨210枚!?」


「はい。エドガー次席法務官様から個人での振り込みがありましたので」


 確かにエドガーは金貨を100枚払うとか言っていたけど、その二倍振り込んできたのはどういう事だ。


「あの、エドガーはこんなに振り込んで生活破綻とかはしないですよね?」


「申し訳ございません。他のお客様の資産についてお話は出来ません。ご了承ください」


「あぁ……ですよね……」


「ただエドガー様は多数の特許をお持ちの方ですのでお噂によると年収は帝国金貨1000枚以上とされています」


 いや、それでも5分の1は重くないだろうか? 


「……とりあえず、金貨10枚引き出してください」


「承りました」


 暫くして、金庫から初代皇帝らしい人物の顔が彫られた金貨が10枚、トレーに載せられて私の元へやってきた。


 それを財布代わりの革袋に詰めて、私は待たせているイゾルデの元へ行く。


 この世界に来て一か月、王宮、城、魔導特区の寮までが行動範囲で、実は城下町に降りてきた事がなかった。


 ので、イゾルデの方が帝都について詳しい。


「アリサさんは帝都についてどこまで知っていますか?」


 道すがら、彼女は私に質問を投げかける。


「この国の歴史書で読んだ範囲かな。なだらかな山を切り拓いて、てっぺんに城を建ててそこからは階層を城壁で分けてる」


「その通りです。帝都は頂上に城と王宮を中心に貴層街、上層街、中層街、下層街の4つに別れています。いま私達がいる街が上層街ですね」


「上層街は成金の街って聞いたなぁ」


「暮らしているのが主に帝都の発展に伴って庶民の中から大成した方達ですから」


「これから向かう服屋の他に、どんなお店があるのかな?」


「高級料亭や酒場、宝石店などですね。貴族と取引をしている商店も多いそうです」


「なんか、こういうファンタジーな世界だと武器屋や道具屋みたいな冒険者向けのお店があるものだと思っていたけれど、案外普通……」


「そういった店は中層街や下層街にあります。上層民は冒険する必要がありませんから」


「それもそうか」


 雑談しながら、私達は目的地に辿り着く。


 上層街で仕事をしているだけあって、規模はとても大きい。また販売を行っている店舗の裏には職人達の作業場があるらしい。


「ここは上層街のお店の中でもとても良心的な価格でして、上層民以外にもこのお店の服が目的で訪れる人も多いんだとか」


「やっぱり併設している分、輸送費を削減出来るからかな」


「恐らくは。運ぶ為の足はもちろん山賊や魔物から荷物を守る為の警護費用も掛かりますから」


 そんな事を話しながら、私達は扉を開き中へと足を踏み入れた。

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