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第11話「搾取の被害者」

 待って、話の展開が1速から飛んで4速とか6速まで飛んで行っている。


 というかなんだこのメロン。いや、人の身体失礼な事を言っちゃダメだけど……でも今これを目の前に突き出されて何も思わないなんて無理でしょ???


「ま、待って。え、待って? これ、わたしが、さわる?」


「やはり、嫌ですか?」


 彼女はさっき私が言った同じ言葉を吐いた。


「嫌か嫌じゃないかで言ったらさ~~~~~~……ちょっと興味あるけどさ~~~~」


 やばい。完全に心がオッサンになっている。


 ダメだろ。これは、ダメだろ????


「えっと、つかぬ事をお聞きしますが、何故触って欲しいのか話して頂けますか?」


 ここは冷静になり、まずは事情を聴くところから始めよう。


「あ、そ、そうですよね、いきなり言われてもわかりませんよね……」


 そうだ。いきなり胸を差し出して触ってくださいと喜ぶのは男だけだ。


 いや、もしかしたら男も訳が分からなくて拒否してしまうだろう。


「えっと、この通り、私の胸は……ふしだらですので……」


「そ、そうかな……」


「そうです。いつも司祭様は仰っていました。私の胸が大きいのは産まれながらに淫魔に魅入られていて、罪深い魂だから。それが身体に表れていると」


 何か雲行きが怪しくなってきた。しかし、今は彼女からの話を聞くのが先だ。


「ですが、村の皆に知られては悪魔の誹りを受けてしまうと私の名誉を想い、人知れず誰にも明かす事なく司祭様は私の罪の証を浄化しようと努めてくださいました」


「浄化って……」


「はい。私の胸を司祭様の貴い手で清める行為です」


 おかしくないか? マッサージ物のAVでリンパ線がどうのこうのとインチキな事を口にするエセマッサージ師と言ってる事が変わらなくないか?


「司祭様は淫魔として裁判にかけられてしまうから、この行為の事は誰にも話すなと釘を刺されましたが、リガネ様のようにお優しいアリサ様なら、誤解をせず受け入れて頂けると思い……」


 なんとまぁ、口封じにそれらしい理由を付け加えるものだ。


「やはり私の不浄の身体を触るのは嫌ですか……?」


 これが18禁のゲームだったら嬉し恥ずかしのハプニングだけど、そんなバカな事を言ってる場合じゃない。


 この子は、宗教を笠に着て搾取する輩の被害者だ。


 その上、信仰心に付け入った嘘で自分が被害者だという自覚がない。


 だからこそ私に打ち明けてくれた訳なんだけど……。


「イゾルデさん、その司祭様って今も故郷に居るの?」


「え? 恐らくはそうだと思いますが……?」


 という事は、このまま彼女が故郷に帰ったら、またエロ司祭に騙され続ける事になる。


 その事実に気づけば、彼女がやけに猫背になるのも理由がつく。


 司祭は彼女にセクハラする口実にやたらとイゾルデの胸は邪悪だとか淫猥だとか嘘を並べて、それが刷り込まれたせいで自分の身体は人様に見せたらダメなものだと萎縮するようになったんだ。


 それが、おじいさんの様な猫背に繋がっている。


「イゾルデさん、あなたは故郷に帰るんだよね。いつ?」


「えっと、明日には帝国を離れようかと」


 司祭の事は、司教に任せるのが一番か。


「私はこれから、貴方にとても傷つくであろうことを話します。どう受け取っても構いません。私の事を嫌っても私は怒りません。貴方にとっては当たり前の反応だからです」


「うっ……覚悟はできています。私の身体は――」


「いいえ、貴方の身体は邪なものじゃない。誰かに恥じるべきものでもない。本来は自信を持って誇るべきものです」


「えっ? えっ? そんな事は……」


「ある。イゾルデさん、貴方は私の世界では誰もが羨む女性です。間違ってるのは司祭様です」


「それこそ一番ありえません! 司祭様が仰ってる事は正しくて……」


「だから、私は傷つく事を言います」


「アリサ様……もしかして……」


「貴方は司祭に騙されている。あの人は自分の色欲を満たす為に嘘を吐いていると私は思います」


 彼女の顔が悲しみに歪む。


 それはそうだろう信じていた人が、尊敬する別の人物に間違いだと言われるのだから。


 彼女の中で、どちらを信じるべきか葛藤が起こっていて、だからこそどんな感情を発露していいのかが分からなくて、唯一表に出たのが、悲しみなんだろう。


「どちらの言い分が正しいと思うかは、貴方次第です」


「アリサ様は……どうしてそう思うのですか?」


「だって私は少しも貴方の身体をふしだらとは……」


 いや、ごめん。正直思った。えっちだなとは思った。だってデカいもん。


「……ともかく、私は貴方が騙されているのが見過ごせないから言いました」


「それは、その……アリサ様が異世界から来たからで……」


 確かにそうだ。よそ様の事情を知らないで偉そうに物を言われると受け入れ難いのはわかる。


 でも、私の世界でも聖職者の名前で人から金を騙し取ったり、イゾルデの様に性的搾取を行った者は数多く存在する。


 そもそも、淫魔という存在自体が眉唾だ。そんなもの、聖職者が働いた行為の言い訳に過ぎない。

 

 ファンタジーな世界だから実際にはいるかもしれないけど。


「じゃあ、今から私、バチバチ邪な感情を抱いて貴方の胸を揉みます」


「へ!?」


「きっと触られて嫌な思いをするかもしれません。けど邪な考えの人は大体そういう手つきで触るもんです。同じ気持ちになったら騙されてるって事です」


「ど、どういう理論ですかぁ……?」


 少し荒治療だが、分からせるにはこれが手っ取り早い筈だ。


 そう言って、私は彼女の胸に手を伸ばす。


 どうしよう。ずっしりとした重量があるのに、手が吸い込まれていきそうな柔らかさが布越しにも関らず伝わってくる。触っているだけでも脳が溶けてしまいそうだ。


「嫌な感じ、する?」


「………………」


 というか、これブラジャーしてないんじゃ――。


「あっ……」


 ちょっとだけイゾルデが色っぽい声をあげた。マジで頭がおっさんになりそう。


「少し、違います……」


「え?」


「司祭様に清められている時と、少しだけ違います……」


 そういうと、彼女は顔を赤らめて目を背けてしまう。


 これ以上は本当に頭がおかしくなりそうなので手を離した。


 なのにまだ触った時の感触が残ってて、そりゃエロ司祭も嘘八百を並べて好き放題触りたくなるわって失礼な考えが頭に浮かんだ。


 しかし、違うってなると、荒治療は失敗か……・


「その……浄化の時はいつもすぐに終わって欲しいとばかり考えていて……なのにアリサ様に触られた時、とても幸せで……」


「そういうエロゲヒロインみたいな事言わないで、勘違いしちゃうから」


「えろげ……?」


「ごめん、なんでもない」


「わ、私は本当に騙されていたのでしょうか……?」


「少なくとも、この私はそう思っている。それを確かめる手段なら、アテはある」


 結果オーライだろうか? 


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