第三話 ≪Third Fire。一番星(3)≫
まつりの前にはくじ引きがある。長老はおまじないで『あたり』のくじを祝福し、『はずれ』の中に落として混じる。そうしたら、中学二年生のみんなが順番におみくじを引く。
(ったく。こんなことのため町の人を集めるとは。片手にスマホを持って生まれ育てる時代に、アプリ使わずどうする。)
みかさは顔をしかめた。受け継がれる文化に、高度に発達したネットはまるで無用。メールもラインも使わず、誰もが直接働いた。
「次の人、どうぞ!」
みかさはぐちぐち文句を言いつづけながら、くじを引いた。顰めっ面をしていたみかさは、くじに書かれてる『あたり』を読んで、顔が真っ青になった。
「おい。これ、なにか間違ったー。」
「ああ、だめです!くじを人に見せないでください!」
ありえない。きっとなにかの間違い。そう思ったみかさがそばにあるスタッフを呼んだ。でも、みかさは他のスタッフに連れていかれてしまった。
(うそだろ、これ。)
みかさは希望を持ち、くじ引きを最後まで見た。これで終わるわけがない。きっと、なにかも間違いで『あたり』が二つ混ぜたはず。そう強く信じて待ち続けた。
「今年のまつりは特別。他の町の人々がくるのじゃ。みな、町のため一所懸命働きー。」
あっという間にくじ引きが終わり、長老の話が始まった。長く続く話を聞き流して、みかさはぼうっとつぶやいた。
「マ、マジかよ…。」
三人の帰り道。みかさは珍しいほど静かだった。まつりに浮かれた愛子とウィルヘルミーナはみかさに気づかずに、おしゃべりを楽しんだ。
「まつり、お楽しみっすね。」
「今度の一番星さん誰かな?もしかしてミナンだったり?」
「そんな…!一番星なんて、自分に似合わないっすよ。」
「ええ?どうして?すごく似合うと思うよ!笑顔がきらきらして、太陽みたいにまぶしくて!」
「や、やめてください。」
恥ずかしくなったウィルヘルミーナは手を振った。
「『一番星になる』って、どんな感じかな?」
「えっと…。たぶん、『自分が町で一番!』とか?」
「うんうん、それいいね!ワクワクして!」
夢見るお姫様のように、愛子はそっと手を頬にあてた。
「違う…。」
そして、ずっと黙っていたみかさが声を出した。
「みかさちゃん…?」
「きらきらもワクワクもねえ…。はっきり言うと、引っ越してきた日の大きなダンボールを二つ背負ってる感じ。」
「な、なんでわかるの?」
立ち止まったみかさが、そっと二人を振り向いた。
「…俺だ。」
「え?」
「俺なんだよ。」
みかさは『こんなの恥ずかしくてもう言えない!』って顔して、うつむくように頭を下げた。みかさがなにを言ってるのかわからないままぼうっとしていた二人は、やっとその意味に気づき、大声を出した。
「ええええ!?」
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妄想帝国の王座。いや、皇座で眠り続けるフレームエンプレス。幹部らは黙ってその姿を見ていた。黙るしかない。少しでも大きな声を出したら、フレームエンプレスが目を覚ましたから。彼女は『うるさい』とつぶやき、人差指で丸を描いた。すると、大きな炎が周りのカゲを飲み込んだ。燃え上がる炎は彼女は満足するまで消えなかった。
幹部たちは外で話すしかなかった。彼らはいろんなアイデアを出した。その中には『フレームエンプレスを攻撃する』アイデアもあった。だが、フレームエンプレスを引き下ろすには力が足りない。だからって彼女を本当の主として、彼女に使われたくはない。だから、三人は眠りに落ちたフレームエンプレスを見て、『困った』という顔をするだけ。
「それはともかく。」
本当の主、デリュージョンのない皇座を見ていたヘイトが話を始めた。
「どうだ、町のようすは。」
「ええ?今更町にかまうの?」
「町にデリュージョン様がある限り。」
ヘイトが断言すると、フィルムが唇をとがらせた。
「町か。今頃『星空まつり』の準備をしているだろう。」
腕立て伏せをしていたハザードが立ち上がった。
「まつりか。暴れるにちょうどいいね。」
フィルムが唇をなめた。彼女はデリュージョンがいる時は妄想帝国を祭った銀河の町が、最近帝国を裏切ったことを悔しがっていた。
「ふむ。仕返しか。いい響きだが、やめたほうがいい。」
「ええ~なんで?」
「なぜと聞いたら、『勝ち目がないから』としか言えないな。」
いたずらしていたフィルムは、ハザードの真剣な答えに口を閉じた。
「確かに、今の僕らではあの方に敵わないだろう。」
愛子たちは愛香を取り戻すため幹部たちと戦った。デリュージョンを失う前にも、彼らは戦士たちに負けた。そのうえ、今は愛香が戦士たちについている。今の彼らがマジプロに勝てるわけない。
「そう。筋トレをしない限り、俺たちはまた負けるはず。」
「じゃ、どうする!」
「筋トレだ!一緒に筋トレで強さを求めるんだ!」
「『筋トレ、筋トレ』ってうるさい!」
「うるさいのはあんたもおなじっしょ?」
「!!」
フレームエンプレスの声に、フィルムはその場で立ち止まった。彼女にはトラウマがあった。フレームエンプレスを偽物と呼んだ日、フレームエンプレスは本気でフィルムを殺そうとした。フィルムは強さの差を感じて、ずっとしょんぼりしていた。
「まつりか…。」
フレームエンプレスが目を覚ました。静かにつぶやいた彼女は指の先で星を描いた。すると、三つのイヤリングが現れた。イヤリングはそれぞれ三人のもとに飛んでいった。
イヤリングについてるルビーのような羽。それは、まるで伝説の不死鳥の羽のごとくきらきらしていた。
「これは…。」
三人は何も言えなかった。イヤリングの中に詰められてる、怒りの炎。そのエネルギーを感じたから。
「これでいいでしょ。さあ、見せてごらん。あなたたちの価値を。」
ヘイトはイヤリングを見ていた。彼はフレームエンプレスを信じなかった。なにより、これが彼女からの贈り物だとしても、彼女に忠誠するつもりじゃなかった。
フィルムは怯えていた。待ったな羽は、まるでフレームエンプレスが燃やす炎のようだったから。
「いいエナジーだな!」
イヤリングをつけるのは、ハザードのみ。彼はもともと力を求めていた。だから疑わずイヤリングをつけた。もし、イヤリングが罠だったとしても後悔はない。騙されたのは自分の弱さ。か弱いものが強いものに命を失うのは当然のこと。
「うむ?お前らはつけないのか?」
二人を見ていたハザードは大きくうなずいた。
「ならいい。一人で行ってくる!」
ハザードが時空のポータルの中に消えた。
「行ってらっしゃい。」
そっと目を閉じたフレームエンプレスは、小さな微笑みを浮かべた。
「気を付けて。炎に飲み込まれないように。」
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「お前が『一番星』だと?」
神が呟くと、みかさは目を逸らした。『一番星』と呼ばれることが恥ずかしかったから。
(なにより、あの性格悪い神に笑われたくねえ!)
だが、意外と神は笑わなかった。じっとみかさを見ていた神は、何気ない顔でこう話した。
「似合うじゃん。」
「はあ…?」
みかさの腕に鳥肌が立った。
「な、なんだ。なんで褒めるんだ。らしくねえ。っていうか、『一番星』って実は悪しこと?あいつに『似合う』とか言われるくらいなら、絶対なにかある。これ、まさかドッキリ?」
みかさは立ち上がって、部屋を探った。カメラを探すつもりだった。
「み、みかさちゃん。落ち着いて。」
「そうっす。『一番星』は町の自慢!なにも悪くないっす!」
二人はみかさを落ち着かせた。ドタバタの三人は知らなかった。みかさの推測を聞いて、愛香や神が目で合図をを交わしていることを。
「で、これからどうしますか?」
「メールきてるんだ。『メールの場所に隠した、特別なプレゼントを探して!』とか言ってる。めんどくせ。」
顔をしかめてるみかさの頭を、愛子が優しく撫でた。
「でも、一度きりのチャンスじゃん?」
「あ、愛香さん…。」
愛香に弱いみかさは、顔を赤く染めた。
「まつりはね、私も友達と楽しんだりした。」
「ええ?それじゃ、戦士の仕事は?」
愛子が驚いて、目を丸くした。
「戦士にも休みが必要。一年に一度しかないまつりじゃない。」
「あの愛香さんが戦士サボってたなんて…。信じられないっす。」
「サボるってなんだ、サボるって。ただの休みさ。」
神がウィルヘルミーナの話に割り込んだ。
「とにかく。中学二年生は人生に一度しかありません。だから思いっきり楽しんで。」
「はい!」
愛子とウィルヘルミーナが元気に手を上げた。
「私はもう、帰れないけど…。」
「!」
愛香がささやいた話を、そばにいたみかさは聞いてしまった。
「じゃ、みんなで探しにー!」
「愛子。愛子は宿題があるでしょ?今日は家で勉強しなさい。」
「ええ??ずるい!!」
『ずるい』という言葉が、みかさの耳をさした。
「そう、確かにずるい。」
ウィルヘルミーナとプレゼントを探しに行く途中、みかさが話した。
「ある日、目覚めてみたら誰もが大人になっていて、大切な人が消えている。それって、ずるすぎじゃない。」
ウィルヘルミーナは『それ、愛香さんのこと?』と聞かなかった。心から心へ使わる思いがあるから。
「時間はずるいっすね。」
ただし、お見通しだって全部うなずいては上げない。だから、ウィルヘルミーナは立ち止まり、自分の思いをぶつかった。
「だけど、もし自分が同じ目にあったとしても、時間を巻き戻したりしないっす。」
「なんで?」
ウィルヘルミーナはみかさをみた。目と目が空で合った。まっすぐに、ありのまま。
「大切な人の『未来』を奪いたくはないから。」
自分が見失った時間を巻き戻したら、きっと大切な人は帰ってくる。でも、だからって誰かの時間を奪っていいのか。
「…ちっ。」
目を逸らしたのはみかさ。彼女はウィルヘルミーナの視線をそらし、唇をかみしめた。
「うむ、そうとは思わないが。」
「!?」
突然聞こえてきた声に、二人は周りを目で探った。
「デリュージョン様の時間を奪ったのは彼らだ。彼らの時間で返してもらう。それの何があるい。」
「ハザード!」
木の枝の上、ハザードは手で幹をついて立っていた。
「ふっ!」
地面に降りてきたハザードは両拳をぶつかった。すると、彼の拳から真っ赤な炎が燃え上がった。スパークのように散らす花火が飛んだ。ハザードは炎で自分のカゲをぶっ殴った。
「沸き上がれ!ヤケタカゲ!」
ハザードの足元から炎をまとったカゲが現れた。
「自分の影をカゲにするなんて…!」
『もう世界から不幸が消えた』とは言い切れない。だが、今の銀河の町は平和そのもの。カゲにされる人はなかった。そう油断していたウィルヘルミーナは驚いて、手を口にあてた。
「なにすんだ!しっかりしろ!」
みかさがカードリーダーを持ち出した。
「行こう!」
「はいっす!」
ウィルヘルミーナも急いで、変身する準備をした。
「マジプロ!時空超越!仲間を守れ、インターセプト・プロミネンス!」
「マジプロ!時空超越!敵を排除しろ、エリミネート・プロミネンス!」
青い戦士と赤い戦士が舞い降りた。その瞬間、ヤケタカゲが二人を襲った。
「くっ!」
二人は両手でヤケタカゲを掴み止めた。だが、ヤケタカゲは強いパワーで二人を押した。
「インターセプト!」
「オッケー!」
インターセプトがヤケタカゲを掴んだ手をはなした。エリミネートは歯を食いしばりヤケタカゲを止めた。二倍、いや、何倍の力が必要だった。だが、大丈夫。インターセプトをしんじるから。
「マジプロ!インターセプト・ザ・アタック!」
両手が自由になったインターセプトは急いで技を使った。だが、シールドはすぐ壊れた。
「ばかめ。ヤケタカゲにはかなわん!」
ハザードはインターセプトを嘲笑った。力の差で圧倒されたら、弱いものはあきらめるのが当然。なのに彼女らはあがいていた。
「それはどうかな?」
「なに?」
割れたシールドのかけらが青くひらめいた。
「はあああ!!」
インターセプトは目に見えないスピードでかけらを蹴り、ヤケタカゲに食わせた!
「どうだ!」
「ナイスシュート!」
エリミネートの褒め言葉にインターセプトの頬が真っ赤くなった。
「ありえん…。」
その姿を見ていたハザードの膝に血管がボコボコ膨らんだ。
「ありえん!」
彼が見てきた世界はまるで弱肉強食。弱い者がどうあがいても強い者の餌になる。なのに今、ヤケタカゲという巨大な力の前で、二匹の蟻があがいた。そして、ヤケタカゲを倒した。
「きゃああ!!!」
二人はハザードの炎に押されて、飛ばされた。
「そう、その姿だ!あがいても無駄。世界は変えられない!」
蟻のように、ありのままに。それがハザードの論理。自分が強い者につぶされることを許す。だから、自分より弱い者にも犠牲してもらう。そうじゃないと、自分の『あきらめ』が無駄になってしまうから。
「ふざけないで!」
「エリミネート…?」
エリミネートは地面に手をついた。
「確かに、一人一人は弱いかもしれない。でも、町のみんなが力を合わせたら、なんでもできる!」
エリミネートは歯を食いしばり、よろめきながら立ち上がった。
「みんながいるから、素敵なまつりができる…。」
誰一人がいないと始まらない。みんなが重ねた時間がまつりを作る。
「みんながいるから!」
町が大好き。みんなが大好き。仲良くなれなくて、ないちゃうくらい。
「自分は戦える!」
「ふざけやがって!」
「くっ…。」
ハザードの炎が強くなった。まるで、自分さえ飲み込むくらい。
「弱いものは黙って食われればよい!」
「ふざけるのはどっち?」
「!」
空から何かが降りてきた。金色の戦士は足でハザードを蹴った。ハザードは押されないため頑張った。
「くっ、くうう!」
二人はお互いの力で弾き飛ばされた。ストロークは地面に、ハザードは木の上に立った。
「いまよ、クラッシュ!」
「いつのまに…!」
ハザードが手を伸ばしたが、ストロークによって止められた。そのうち、クラッシュはハザードのカゲに技を使った。
「マジプロ!クラッシュ・ザ・シャドウ!」
桃色のエネルギーがヤケタカゲを包んだ。今まではカゲの中誰かが閉じこまれていたが、ヤケタカゲの中には誰もなかった。消え去る炎のように、なんの跡も残さず消えるだけ。
「あれ?誰もない!」
「それが…。」
エリミネートが事情をはなそうとしたが、ハザードの叫びで止められた。
「この蟻めがぁ!覚えてろ!」
ポータルの中へ消えるハザードを見て、インターセプトはへたり込んだ。
「だ、大丈夫?」
「ああ…。」
クラッシュとエリミネートがインターセプトを助け起こした。ストロークは彼女らを見てそっと微笑んだ。
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「なんだか、大変なことになりそうだね。」
みかさとウィルヘルミーナから説明を聞き、愛香はため息をついた。
「で、でも!だからってまつりはあきらめない!」
愛子が大声を出した。
「ふふ、そうだね。みんなで一緒に楽しもう!」
「はいっす!」
「まあ、愛香さんがそういうなら…。」
みかさはそっとうなずいた。彼女の手には小さな箱が持たされていた。それは『一番星』を探した人に預けるプレゼントのボックスだった。