最終話 ≪Last Dream。ドリーム・パレード(完)≫
「それって、つまり愛香さんのカゲがデリュージョンになったように、神様のカゲがアンシンであるってこと!?」
「夫婦は一心同体ってことか。」
「まだ夫婦じゃない!ただの恋人!」
自分と神を『恋人』と言うストロークに、エリミネートはびくっとしたが、すぐ笑顔になれた。
「そうっすね。お似合いカップルっす!」
「それはどうかな。」
「え…?」
アンシンの嘲笑いに、エリミネートは慌てた。
「われは地球のすべての存在の悲しみ。なんじが一人にされた時、片思いで泣いた時もー。」
エリミネートの顔が真っ青になった。
「なんじが父を恨みながら重ねた怒りもー。」
インターセプトは悔しくて、拳を握りしめた。
「なんじが救え切れなかった命に持つ悲しみさえー。」
ずっと昔の痛みを刺激することばに、クラッシュは唇を嚙んだ。
「われは知っておる。そう、お前らの弱点がわかるわれが、まけるわけないー。」
アンシンの体、つまりカゲの中から、三人の人が作られて、前へ踏み出した。
「俺は君を愛してない。」
神の形をしたカゲはエリミネートを見下ろした。
「お前は、父をほっといて、幸せになるつもりか!」
酔っ払いの父がみかさを責めた。
「私なんか、気にしてなかったよね?」
いつかの愛子が救えなかった乙女が涙を流した。
「あなた…。」
エリミネートは深呼吸した。
「俺たちの弱点ばかり勉強したようだな。」
インターセプトが手をほぐした。
「そう、あなたはわかってない。私たちの強さが!」
クラッシュの叫びと共に、エリミネートは拳を握りしめた。冒険者の森でエリミネートは、ウィルヘルミーナは教わった。胸が痛くても、それさえ愛。すべての痛みが重なり、大人になっていく。
「自分は神様の幸せを願うっす!神様に悲しくなって欲しくないっす!」
エリミネートの体から、炎が燃え上がった。瞳の奥から燃える炎。それは、いずれ嘘なる痛みを食べつくした。
「ああ!俺は幸せになる!文句あんのかよ?」
やっと気づいた。チャレンジに挑み、そして新たな力を得るたび。いつになってもみかさは幸せを求めていた。世界的なミュージシャンなんか望んでない。それは父の夢。父の人生の代わり。
「俺の命だ、俺の人生だ!誰にも、邪魔はさせねえ!」
そう、普通な女の子として生きていきたい。それがみかさが心から祈り続けたこと。だから、みかさは今、嵐を起こす。過去のかけらを、風に奪い去ってほしいから。
「あの日、気づいた。」
クラッシュは救え切れなかった命と向き合った。
「変わると決めた!」
もうだれも一人にさせない。みんなの力に、頼りになりたい。そう思い続けたら、いずれ自分の夢が、一番大切なことが分かった。
「私はもう、苦しんでるだけの私じゃない!」
桃色の光がいつかの少女を包み込んだ。光が差した場所に花が咲いた。
「なんー!」
王冠は三人の思いに答えてくれた。三人の背中に、大きな羽が出来た。空へ舞い上がった三人は手を重ねた。
翼を背負ってる真っ白な戦士。いや、彼女らはもはや『戦士』なんかじゃない。『天使』と呼ばれるべき。
「私たちは、過去に留まりたくない!」
「未来へ進むんだ!」
「それを邪魔するなら、許せないっす!」
エリミネートはマイクを握りしめた。インターセプトはギターを捕まった。クラッシュはハープを手にした。
赤い炎。青い風。そして桃色の光。三つのエレメントが重なって、新たな旋律を生み出した。
「マジプロ!ドリーム・パレード!」
「ぐあああぁあ!」
心を癒せるハープの音色。激しく吹き荒らす願いのトルネード。歌姫の優しい声が重なって、大いなるパレードが始まった。
疲れているものに居場所を。悲しむものに温盛を。絶望するものに新たな夢を届ける大きなパレードに世界中は包まれていく。
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「やっと…。」
変身が解けた愛子が座り込んだ。
「終わった…。」
みかさは草原に横たわった。
「みたいっす…。」
ウィルヘルミーナは座り、大空を見上げた。黒雲がなくなり、太陽の日差しが現れた。
「もう、疲れたっすよ!」
「うぅ…。フレームエンプレスの時までは、愛香さんが一番疲れたと思ったのにぃ…。」
「俺たちもぼろぼろだな…。」
なぜか、ストロークから返事が来ない。三人はストロークを見た。ストロークは『ドリーム・パレード』の時に得た大きな翼を背にして、遠い空の向こうを見つめていた。
「わっ、ストローク!その翼、すごく似合う!」
「そうっすよ。自分たちも、あんな感じだったっすかね~。」
「うん、うん!きっとそうだよ!」
三人は戦いの真ん中で翼を得た。だから、お互いの姿を眺める暇はなかった。今更だけど、ストロークの姿を見て、想像の翼を広げるだけ。
「だよね、みかさちゃん!」
「…ない。」
「え、なにが?」
「ありえない…。」
翼を広げて、空を見上げてる純白の少女。『ドリーム・パレード』の力を手に入れたストロークは、まるで初めて会ったあの頃のよう。
「あの姿…。俺と出会った時の…。」
「それって…?」
突然に現れて、みかさを助けてくれた天使は自分を『ストローク』と名乗った。でも、あの頃のストローク、いや、愛香はデリュージョンであった。
アリバイの意味。一人は、同じ時に二つの場所にいられない。そう、あの日にみかさが出会ったのは、存在してはならない人。
「愛香さん、これってもしかしてー!」
愛子が急いで愛香を呼んだ。でも、愛香は空を見上げ、何かを呟いてるだけ。まるで、人に見えない何かを眺めてるよう。
「見える、見えるわ…。今までのすべてが…。」
そう、今の愛香の目にはすべての時間が見えていた。いつか存在してた時間。なかったことになった時間。いずれ来るべきの時間も。
「そう、そうだったんだ…。過去と未来が交差するんだ…。」
「あ、愛香さん?」
「やっと、やっと分かったわ!」
愛香はまぶしい笑顔で、みかさの手を取った。
「みかさちゃんが見たあの日のストロークは、今の私。つまり、未来から来た存在なのよ!」
「えええっ!?」
世界を支配していたデリュージョンが、ストロークの姿となって現れた理由。二人は元々別の存在だったから。
「今の私が合いに行くんだ。あの日のみかさちゃんを!」
翼を背負ってる白い天使。夢を失っていた愛香にはとてもならない存在。それは今のストローク。みかさにとっては、未来の愛香。
「起こったんだわ、奇跡が…。過去と未来の交差点・クロスタイムが!」
ストロークは両手でみかさの肩を掴んだ。
「未来の私と、過去のみかさちゃんがあった。そこから、すべてが始まるのよ!」
ストロークに助かったみかさは、彼女が残した言葉を手探り、銀河の町へたどり着く。そして、愛子と出会い、マジプロとなり、ウィルヘルミーナの相談に乗り、彼女と仲間になる。
「過去が未来を変えて、未来が過去を作った!」
未来からの介入がいないと起きない過去。過去があってこそつないだ未来。時間の女神から与えられた、『今』と言うプレゼント。
「そうか。変身できない愛香が現れた理由は…!」
神は誰か愛香の名を穢してると思い、みかさから教えてもらったステージへ行った。だが、そこに残されたのは、金色に煌めく時間の欠片。それは確かなストロークの気配。
忘れられない優しい香りに、神は直感的に気づいた。わけわからないが、みかさを助けてくれたストロークは、本物だと。
「だからー。」
ストロークははしゃいだ。すべての謎が解けた今、みかさを守れることが幸せ。力になれたことが誇らしい。
「私、行ってくる!みかさちゃんのところへ!」
「ちょ、待ってください!」
愛子が愛香の腕を掴んだ。
「そんなことしたら、また時間が混ぜてしまうんじゃー。」
タイムパラドックス。過去を変えたら、『過去を変えた未来の自分』はどうなるか。変わられた時間に、『過去を変えた自分』の居場所はない。だって、変えられた過去から続いてる未来には、『過去を変えた自分』がない。今の自分とは別の自分がいる。そして、その『別の自分』が過去を変えない。すると、過去も未来も存在できなくなる。
「大丈夫さ。」
「神様…?」
でも、もし過去の自分と合えないなら。そして『未来の自分と合った過去の自分』が、パラドックスを作らないなら。
「俺にはわかる。今の愛香ならできる!」
過去のみかさの出来事を、愛香が再現することができるなら。未来はそのまま。過去もそのまま。なにも変わったりしない。
「私にもわかるわ。みんなからもらった『ドリーム・パレード』の力の使い方!」
ストロークは再びみかさの手を取った。
「みかさちゃん。今、合いに行く!」
「愛香さん…。」
「心配しないで。すぐ戻ってくるわ。あんたたちのいる未来へ!」
ストロークはみかさの髪を優しく撫でてくれた。そして、過去へのポータルを開き、その中へ飛び込んだ。今の未来をいらせるために。
過去、いつかのコンサートホール。
「あなた、この子まで殺す気?」
「もうやめて、父ちゃん!」
みかさや母の叫びが聞こえる場所に、ストロークは羽ばたいた。
「家族さえなかったら、夢を叶えたはずだ!」
「みかさ!」
みかさの父の妄言が聞こえるステージの下。みかさに手を出そうとするカゲに、ストロークは手を伸ばした。
「ぐあああ!」
みかさに手を差し伸べた瞬間、みかさの父のカゲは消え去った。
そう、ストロークには人が救えない。彼女の強さはあまりにも大きなものだから、救う前にカゲが溶けてしまう。
だからきっと過去の、いや、未来のストロークはみかさの父を救えなかった。
でも、それでいい。これは決まった未来へ続く道。過去を変えてしまえば困る。
ありのまま、自然に。流れる時間に身を譲るだけ。
「あなたは?」
みかさの問いかけに、ストロークは切なく笑った。みかさの頬を伝う涙が、胸の痛みになるから。
「私はマジプロ。銀河の町のストローク・プロミネンス。いくつの時間を越えて、やっと、貴方に会うことができました。」
そう、きっとこうなるべき。そして始まる、四人の物語。
「ミライで、待っているよ…。」
大丈夫。すぐ会えるから。未来で待っていてくれる、あなたがいるから。勇気を出して、未来へ進んでいける。
『ドリーム・パレード』の力が消えていく。その力は、まるでみかさだけを守るため存在したよう。
「ま、待って!」
消えていくストロークに、泣きべそのみかさが叫ぶ。
「父ちゃんを倒してくれてありがとう…!」
いままでみかさが語った過去が、未来によって現実になる。時間が、『ドリーム・パレード』の力が導いてくれた交差点。それこそ、『クロスタイム』。
ストロークはそっと笑った。そう、あなたは私を助けてくれた。だから私もあなたを救ってあげたい。
私がいまここにいるのは、きっとあなたに出会うため。
出会ったから、私たちの時間は進んでいく。止まらない時間を、君と一緒に歩いて行く。
支えあい、笑いあい、時々喧嘩もする日々を、一緒に過ごして生きましょう。
君との絆が、未来で待ってるからー。
ストロークは未来へ戻った。過去に一人の少女を残して。
「銀河の町のマジプロ、ストローク・プロミネンス…。」
空から白い羽が一つ、降りてきた。翼を手にしたみかさは拳を握りしめた。
そして、過去は動き出した。
完。




