最終話 ≪Last Dream。ドリーム・パレード(1)≫
大好きなあなたへ:今まで本当に、ありがとうございました。
最終話 ≪Last Dream。ドリーム・パレード≫
「幸せ?私をこんな目に合わせて、幸せだと?」
目の充血が引き起こされたまま、フレームエンプレスは愛香たちを睨んだ。
「なんであなただけ幸せになる?なんで私は幸せにならないの?」
父を吸収してもありのまま。母を吸い取っても変わらない。ならば、そう。きっと家族が一つにならなかったから。
フレームエンプレスは手に持っていた黒いカゲを見つめた。漁船の甲板から逃げ出そうとする取り立ての魚のようにはねてるカゲ。それは、アンシンの欠片。
「何をする!」
フレームエンプレスはストロークをちらっと見て、アンシンの欠片を持ち上げた。
「決まってるだろう?」
フレームエンプレスはアンシンの欠片をまるのみした。彼女は満足しそうに、舌で口の周りを舐め回した。
「一つになるんだ!」
魂消たインターセプト。手で口を塞ぐエリミネート。そして、緊張するクラッシュ。三人の前に立つ生霊。カゲは生霊から空へとどんどん伸ばされていく。
カゲが太陽を飲み込んだ。黒雲が空を覆った。走った稲妻の光がフレームエンプレスを照らした。フレームエンプレスはもはや生霊じゃない。魔女、いや、死神の姿をしてる。
「お姉さま…。」
フレームエンプレスが目をさめた。白目があるべきどころはすべて黒に塗り替えてる。
「今こそ、一つに!」
フレームエンプレスの後ろからカゲらが立ち上がった。長いカゲは悪魔の姿をしていた。神を捨て、魂を失った悪魔の形。カゲらはにやにや笑いながら、戦士たちにとびかかる。
「マジプロ!インターセプト・ザ・アタック!」
カゲらの前を立ちふさがったのはインターセプト。彼女は手を伸ばし、シールドを作り出した。だが…。
「なっ!?」
うようよするウイルスのようにカゲらがよってたかる。カゲらの力に、シールドにひびがはいる。割れ目はどんどん広がり、シールドが震え始める。
「危ねえ…。みんな、さがるんだ!」
インターセプトの叫びと共にシールドが割れた。インターセプトが反応する間もなく、カゲらは彼女を狙った。
「マジプロ!エリミネート・ザ・スレット!」
エリミネートは拳で地面を叩いた。すると、炎がインターセプトを丸く囲み燃え上がった。
「援護するっす!」
「サンキュー!」
一方、背中合わせのクラッシュとストロークもカゲを打ちのめしていた。カゲの中に閉じこまれた人がいなかったので、二人は思いっきり戦った。
だが、疲れないカゲと違い、戦士たちの力には体力という限界がある。きりがないままじゃ、決して勝てない。
(このままじゃみんな疲れてしまう。)
ストロークは唇を噛んだ。フレームエンプレスは何もしてない。彼女に使えるカゲらが、地面から湧き上がり、攻撃してくる。逆に言えば、フレームエンプレスを倒したら、勝ち目はある。
「みんな!」
ストロークが仲間を呼んだ。みんな、攻撃をやめず、彼女の話に耳を済ませた。
「私がフレームエンプレスに行く。どうか道を作って!」
「了解っす!」
エリミネートはカゲを蹴り、カードリーダーを持ち上げた。
「モード・ナイト・フィナーレ!」
エリミネートは舞い上がり、全身に炎をまとった。炎をマントのように羽織る姿は、まるで王者。
「マジプロ!エチュード・オブ・フューチャー!」
四人の周りに丸く火柱が上がった。
「小賢しい真似を。」
火柱が攻撃を止めたら、そのまま破れてしまえばいい。そう思ったフレームエンプレスが手をあげた。すると、カゲらが炎の中に入り込むこした。
「モード・ナイト・フィナーレ!」
あの時、突然聞こえる叫び。
「シンフォニー・オブ・ホープ!」
散らばった火柱が大量の火花となった。火花は風にのせて、炎のトルネードを作り出した。周りへどんどん広がっていく技に、四人の周りのカゲが全部溶けた。
「今だ!」
「!?」
フレームエンプレスが顔をあげた。いつの間にかストロークを負ったクラッシュが空を飛んでいた。
「モード・ナイト・フィナーレ!」
一瞬、雲の向こう、桃色の日差しが降り注いだ。
「マジプロ!ハーモニー・オブ・プレゼント!」
ピンクの救いがひとしきり、差したまばゆさが一筋。クラッシュを捕まえてた手を放したストロークは、クラッシュが作った道をより走り続けた。
「はああ!」
フレームエンプレスとストロークがぶつけ合った。
「まだ、あきらめてないのね。」
フレームエンプレスはストロークの拳を掴み、血管が見える顔で、歯を食いしばった。
「なんで素直に獲物にならないのだ!」
おなかがすいて仕方ない。だから父を食った。それがなぜ過ちであるんだ。
カマキリは交尾時、雌に雄が食われる場合もあるという。そう、すべては新たな世代のため。新しい時代に向けるのが自然の法則 。
「この私を作り出したら、育てる義務がある。空っぽな心を埋める義務が!」
「それは家族じゃない。あなたは父を殺したんだ!」
二人が空でぶつけ合った。攻撃しあう二人から鋭い風が生まれ、周りへ広がっていく。
「相手の意志を問わず、あなたの考えを押し付けるなんて許されるわけない!」
ストロークの拳がフレームエンプレスを狙った。フレームエンプレスは腕で彼女の攻撃を止めた。ストロークの攻撃を打ち返すつもりだったのに、彼女の叫びに一瞬、油断してしまった。
「お父さんだってあなたのこと許せないはず!」
愛香の気迫に押されたフレームエンプレスは、宙返りして舞い降りた。
「そんなわけない…。」
フレームエンプレスは歯を食いしばった。
「そんなわけない!!」
とびかかる虎のように、フレームエンプレスはストロークを攻撃した。二人は何度もぶつけ合った。キックを腕で食い止める。拳と拳がぶつけ合う。
「お父様は私を!この私を愛してくれた!」
生霊は自分の悲しみに埋められた。もし、自分の本能が嘘なるものなら、生まれてきた意味を否定されてしまうから。
それに比べてストロークは余裕。神が時間を回した時、ストロークはお互い話し合うことの大切さに気づいた。二人の差は明らかだ。
「お父様が私を呼んでくれなかったら、お父様は食べられなかった!」
押されたフレームエンプレスがよろよろ立ち上がった。歪んだ顔はたぶん見せ物。
「人のせいにするな!」
ストロークは空へ手を伸ばした。金色のタクトが姿をあらわした。
「あなたを作ったのはお父さんのせい。だけど、お父さんを殺したのはあなたのせい!」
オーケストラを指揮するように、ストロークは手を振った。
「マジプロ!コンティニュアス・メドレー!」
「ぐああぁあっ!」
フレームエンプレスが悲鳴をあげた。ストロークにはカゲを浄化する力がない。その金色の波に振れたら、体が切り裂かれる。苦しみに叫ぶフレームエンプレスは、光の向こうから父を見た。
「おとう、さま…。」
幻か本物かわからない。でも、それでいい。フレームエンプレスは父へ手を伸ばした。
「ずっと、一緒に…。」
フレームエンプレスは最後の最後、焦点が合わない目で、微笑みながら消えてた。
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「はあ、はあ…。」
「ストローク!」
みんながストロークに走ってきた。
「大丈夫ですか?」
「怪我はないっすか?」
「ええ、ありがとう。」
みんながストロークに手を伸ばした。まるで、王子様に誘われたお姫様みたい。ストロークは目をパチパチして、明るく笑った。
「これで終わ…。」
ストロークが話を終える前、突然に地面が鳴らした。慌てたみんなが周りを見まわした。
「フレームエンプレスって、消えたんだね?」
「ああ、確かに。」
でも、この音は消えない。鼓動のよう、どんどん大きくなる。まるで土が肉で、肌の下に脈を打ってるよう。
「この気配は…!」
なれた気配と、割れた鏡に映された自分を見るような不愉快さ。この気配の主をわからないはずない。
「ぐおおおぉお!」
倒れたフレームエンプレスの中に眠っていたアンシンが、爆発するように飛び出した。そして、周りのカゲをすべて食べつくした。妄想帝国にある、デリュージョンの皮まで、全部。
「今食べたのは、愛香さんのカゲ?」
「っていうことはー。」
「今のアンシン、愛香さんより強いっす…!」
ストロークはフレームエンプレスの相手するため全力を尽くした。残ってる力はない。どうすればいいかわからないままの三人に、アンシンが叫んだ。
「われは影の王であり、地球の唯一の神の影。」
「なんだって!?」
アンシンの話は神さえ慌てられた。影なんて、神にそんなものあるわけがない。
「われは神が作った被造物であり、神に匹敵する唯一なもの。そう作られた。」
「いったいなにをいってるんだ!」
急いで叫ぶ神を、アンシンは嘲笑った。
「この星の神として生まれた君は寂しさを感じた。なんの命もないどころで眠り、目を覚ますことを繰り返した君は、ふと思った。誰かそばにいてほしい。たとえそれが、命を狙う宿敵であろうとかまわない。」
みんなの悲しみがアンシンの中にいるのは当然。彼は神を映された存在。神のコピー。寂しかった神が生み出した悲しみだから。




