第十話 ≪Third Dream。カウンセラー(1)≫
かつての夢、受けついた。
第十話 ≪Third Dream。カウンセラー≫
中東にやってきた五人はホテルを予約した。予約したツインルームは二つ。愛子と愛香が一緒で、みかさとウィルヘルミーナが同じルームを使う。
神は不寝番で、町を見回ってる。愛香は神が心配となり、ずっと窓の外を眺める。まだ自分の気持ちに気づかないまま。
「ううぅん…。あの、愛香さん!」
「え、なに?」
ぼうっとしていた愛香はびっくり。でも、素直に驚かずに、本音を隠して笑う。
「先にヘイトと戦った時、ハザード、いや、リチャードのこと話しましたね。」
愛子はためらった。話していいのかずっと迷った。でも、愛香が待ってくれたから、遠慮せずに勇気を出した。
「私たちが…殺したのでは…。」
「そんなことないわよ!」
今度はびっくりした気持ちを隠せずに、愛香は手を振った。控え目な愛香としては、珍しい。
「彼らはもう体を失った。生きていても生きていない状態だわ。」
「そ、そんなことありますか?」
「ええ、あるわよ…。」
死が彼らを訪れたとき、デリュージョンは彼らの魂を誘った。絶望した魂に、復讐の機会を与えた。
闇に染まった魂。体を失い、さまよっていた彼らは、憎悪で出来た新たな体に宿った。憎しみは彼らの新たな力となった。それゆえ、彼らは月が昇らない夜に、何度も自分の苦しい過去と向き合わされた。
「ハザード、ヘイト、フィルム…。彼らに何があったんですか?」
自分のせいで成仏できない霊たち。愛香は彼らの過去を話すことが辛かったが、目を逸らさず真実と向き合った。
「リチャードは、スラムに捨てられ、幼い時から貧民窟で育たれた。いや、誰も彼を育ってない。彼は彼自身を育った。」
生まれつきの病気で、体が弱いリチャードは、いつもいじめられた。苦しめられた。ごみ捨て場で探し出した食べ物も、すぐ奪われた。
「最初は悔しかったはず。なぜ自分だけがこんな目にあうのか。でも…。」
彼はすぐ慣れてきた。強いものが弱いものを踏みにじる論理に。弱者を憎んでしまった弱者は、自分すりゃ否定した。
「そうだったんだ…。じゃ、ヘイトは…。」
愛香は口を噤んだ。なぜか辛そうな顔。見ていられない愛子は、話題を転じる。
「フィルムは、どうですか?」
「フィルム、いや、フィリアは…。」
幹部らの話をしながら、二人は夜を明かした。夜明けが来る前話は終わったが、あまりにも衝撃的な話に、愛子はよく眠れなかった。
「うぅうう…。」
翌朝に、愛子は眠そうな表情であくびをした。目を掻く愛子を見て、ウィルヘルミーナは心配そうな顔をした。
「大丈夫っすか?」
答える力も残ってない愛子はゆっくりうなずいた。
「こんなんじゃ戦えねえだろう?今日は休んだ方がー。」
「だ、大丈夫!」
愛子は握りしめた拳を元気よく振り回した。残った二人の幹部を、絶望の沼から解き放つため。
「さて、タイムホールの場所へ、きゃーっ!」
「愛子!」
走ってきた小さな男の子と愛子がぶつかった。よろよろする愛子の腕を、みかさがはやく捕まった。
「なんだ、お前は!ったく、アメリカからこいつもそいつもー!」
「みかさちゃん、あれ…!」
ウィルヘルミーナの指先には、白い服を来た男性らがおしかけた。
「そいつをこっちに渡せ!」
「ぐすっ、ぐすっ…。」
倒れた男の子は、泣いていた。ぶるぶる震える肩がかわいそう。地面をついて立ち上がろうとする男の子を、愛子は助け起こした。
「この子を苦しめるな!」
弱者を狙う彼らに憤怒した愛香が1歩進んだ。愛香のそばに、神が舞い降りた。神はそっとウィルヘルミーナを振り向いた。目配せを合図にして、三人は子供を連れて逃げた。
「待って!」
「どこを見てるのよ!」
「ぐあっ…!」
変身しなくても、愛香は強い。町の戦士として育たれた彼女と、神の組み合わせは無敵。だれも敵わない。白い服の男たちは、一人ずつ倒された。
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それに比べると、変身しないままの三人は普通の乙女。すぐ疲れた彼女らは、公園の噴水の前で力尽きた。
「はあ、はあ…!」
後ろを見ても、ついてくる者はない。三人はやっと安心した。
「あの人たち、どうやらあきらめたみたい。」
疲れた愛子は噴水に座った。
「当たり前だろ。愛香さんに敵うわけねえし。」
みかさは誇らしく笑った。みかさはいつも愛香の出来事にあこがれた。
「それより…。」
愛子は脇に抱えていた子供を見つめた。
「大丈夫?」
「くるな!」
じたばたする男の子を、愛子はそっと放してやった。
「なんだ、お前ら!誘拐犯か?」
三人はお互いを見つめた。だって、子供の様子がおかしい。助けてくれた人に怒るなんて、まるで捕まえて欲しかったよう。
「生意気だな。見た目はフィリピン人みたいがー。」
男の子は、彼女らを下から上まで見た。
「それって、まさか人種差別…?」
「ぐっ…!」
殺気を飛ばすウィルヘルミーナを見て、男の子はうろうろ。男の子をまっすぐ見つめて、ウィルヘルミーナは笑顔のまま燃え上がる。
「人を見た目で差別してはいけないっすよぉ…?」
「う、うぅ…。」
「答えは?」
「は、はい…。」
殺気で男の子を抑えていたウィルヘルミーナは、彼の誤りにニコニコ笑った。緊張している男の子に、愛子は膝を曲げて、目を合わせた。
「ねえ、名前は?」
「…教えない。」
「先の人たちは?」
「教えないって言ってるだろう!」
愛子の優しい気持ちが断れた。それだけでみかさはイライラしてきた。
「手前…!」
「お、落ち着くっす!」
むかついたみかさを、ウィルヘルミーナが引き留めた。
「とにかく、おいらを誘拐したら警察がくるから。多分、お前ら全員捕まえる。だって、おいらの親はー!」
突然、男の子のお腹がぐぅーぐぅーとなった。三人は目を丸くして男の子を見つめた。
「…腹減ってるの?」
「ちがう!」
愛子はハンドバッグからサンドを出した。
「食べる?」
「う、うぅう…。」
いつも他人に慈悲を施してきた男の子は、下賤の者に負けることがなかなか悔しそう。
「う、受け取ってやる!」
「よし、よし。」
「な、なでるな!」
まあ、いろいろあったけど、少年は愛子のサンドを満足しそうに食べた。愛子はもぐもぐサンドを食べる少年が心配でたまらない。
「ねえ、両親はどこ?」
「…。」
男の子は食べ残しのサンドを膝におろした。
「もし、おいらを連れていてお金と交換するつもりなら、やめたほうがいい。お父さんもお母さんも、おいらのことなんか気にしてないから。」
「あなた、なにを言ってるの…?」
少年は話を始めた。少年には父と母、そして腹違いの兄弟が何人もあった。
「は、腹違い!?」
「しーっ、文化の違いは認めてあげるっす!」
父には四人の妻がある。少年の兄弟は全部少年と母が違う。でも仲良くしてきた。いや、そう思っていた。父が突然倒れる前には。
父が倒れたと聞き、兄弟は喧嘩し始めた。相続の順位を争った。そのうち、少年は家を出た。でも、兄弟は少年が消えたことを知らなかった。
「おいらなんて、誰も気にしてないのさ…。」
少年はふくれっ面をした。
「まあ、親ってあつらはそうだろう。」
父に殴られたばかりのみかさが呟いた。彼女には父との『楽しい想い出』なんかないから。
「家族に頼るな。あいつらは、お前を『代わり』だと思うだけ。」
「…!!」
少年がびくっとした。すると、膝の上に置いたサンドが地面に落ちた。
「子供がいなくなっても、すぐ代わりを見つけるんだ。」
「ちょっと、みかさちゃん!」
ウィルヘルミーナはみかさの話を止めた。
「違う…。」
少年は、今にも泣きだそうな顔になった。
「違うんだよ!」
少年は立ち上がり、町へと飛び出した。
「待ってよ!もう!」
愛子は急いで少年を追いかけた。愛子の後姿を見ていたみかさは、神経質そうな顔して頭を掻いた。
「追わないのかよ。」
「自分、優しいみかさちゃんのそばにいるっす。」
「やさしい?」
「みかさちゃんは、あの子がみかさちゃんのように傷つけることを心配してくれたっす。」
みかさの顔が真っ赤く染まった。
「そんなことねえ…。」
「そんなことありっすよね!」
「ちげーっていうだろう!」
二人の意見は大違い。でも、言い争いとわ思わない。そう楽しくはなし合ってるうち、愛子と男の子はー。




