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クロスタイム・マジプロ!第2部~セイレイの炎~  作者: 異星人
第4章 新たな夢に向かって
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第九話 ≪Second Dream。歴史学者(2)≫

ホテルに戻ってきたみかさは、なぜか元気なさそうだから、みんなみかさをひとりにしてくれた。部屋に入ったみかさは夜になっても出なかった。食欲がないって、夕ご飯も食べずにただベッドにいた。


ずっと目を閉じていたみかさは、みんながレストランでご飯を食べてるうち、そっとホテルを出た。ホテルの入口を抜け出すと、青い海が見えた。陸から海にむかって吹く風が、みかさの髪をそっと撫でた。


「あれ…?」


レストランより、先に帰ってきた愛子は、海風にそっと目をしかめた。手すりにもたれるままの後ろ姿。親友であるものを、見間違いするわけない。だから愛子はみかさを追いかけた。


「みかさちゃん~!」


一流の歌手であるみかさは、後ろ姿もさすが美しい。自慢の友達に声をかけた愛子は、話そうとしたことを胸の奥から出せず、口だけパクパクした。


「え…。」


風に吹かれた涙は空で滴る。思いを込めて飛ばしたシャボン玉のように。


「みかさちゃん、泣いてるの!?」


みかさは口をそっと開こうとしたが、すぐ噤んでしまった。愛子も驚きすぎて、何を言えばよいかわからない。


「先に銀河の町のことを聞かれた時、俺は何も言えなかった。」


銀河の町だって負けてない。みかさはそう言いたかった。反論するつもりだった。だけど、根拠がなにも捕まえない。


「本当はなんにもわかってなかったんだ…。」

「みかさちゃん…。」


好きって言ったくせに、守ってあげなかった。気づいたときは、もう遅すぎた。


「悔しいんだよ、もう…!」


抑えてきた思いを放つと、涙が頬を伝った。みかさは頑張った。声を殺して泣くため。だが、口を開いたとき、むせび泣きが漏れてしまった。音を泣くみかさを、愛子はただ抱きしめてくれた。


「不思議だな。」

「!?」


愛子がすぐ反応、みかさは涙をぬぐってから振り向いた。滲んだ世界の中、父の仇が、ヘイトが見えた。


「手前…!」


視界が涙でぼやけたまま、みかさは怒りをぶつけた。だが、みかさの言葉より、ヘイトの質問が早かった。


「父を失った時のお前は、あまり涙を見せなかっただろうが。」

「…!!」


みかさの視界が揺れた。涙さえ流せないショックに、耳が遠くなって、気を失いそう。ヘイトがカゲを作り出しても、愛子がからだを揺り動かしても、みかさはぼうっとしたまま。


「ーしっかりしてよ!」


今が夢であるか、現実であるか。感覚が遠くなり、みかさは正気を取り戻せない。町はもう大騒ぎになってる。ヘイトが消えた方を見ながら、愛子は拳を握りしめた。


「私、行ってくる!」


カードリーダーを持ち出し、走り出す愛子をぼうっと見ていたみかさは、足から力が抜ける感覚に、そのまま座り込んでしまった。


(『父ちゃんを倒してくれてありがとう』って、俺の本当の気持ちだったんだな…。)


ただの言い間違い。今まではそう思った。考えの中に深く沈んだこともない。しかし、それはみかさの本音。口にした思いは、確かな真実。


(なぜだったっけ…。)


理屈を探すまでもない。鳥籠に閉じ込められた鳥は、いつでも自由を求める。持ち主からごちそうをいただいても、心は満たされないのに。みかさは、そのうえ、暴力をふるう父に罵声を浴びせられた。


『家族を愛さなければならない。』そう教わってきたみかさは、自分の本音を否定してきた。認めてしまうと、罪に飲み込まれそうで。


でも、それは違う。人はどこまで自己中心的。愛してくれない人の悲しみの前で泣いたりしない。みかさだってそう。父から愛情を受けてないから、父を亡くした時『ありがとう』と言えた。


(俺は、間違ってない…?)


間違ってる感情なんてない。歪んだ思いも、胸の深く、ちゃんと理由を持ってる。だから恥じることはない。自分の感じることをまっすぐ向き合えばよい。


(俺は罪人じゃない。だから…。)


思う存分夢を見て、自分だけの道を走り続ける。それは、誰もが持ってる使命。自分を一番愛して、人生の過ちまで抱きしめて、立ち上がれる勇気。


(幸せになってもいい…。)


みかさは拳を握りしめた。


(今、俺に一番大切なのはー!)



「一気に追いつめるわ!」

「はいっす!」


クラッシュの技でカゲを消すより、エリミネートの新しい技が効率的。だから、今日はクラッシュも戦闘に直接的に参加した。


「行くっすよ!」

「そうはさせん!」


エリミネートがマイクを出した。すると、ヘイトは拳でエリミネートの手を狙った。


「くっ…!」


落ちたマイクは炎となって消えていく。エリミネートは、痛い手首をつまみヘイトを睨んだ。


「ハザードとの戦いで新しい技を得たようだな。そしてー。」


目に見えない速さで近づいたヘイトが、エリミネートをすれ違った。


「その技でハザードを殺した。」

「…!」


エリミネートは反射的に後ろへさがった。


「大丈夫だ。知らなかっただろう。ハザードが人間だったとはな。」

「いや、自分、そんなつもりじゃー。」


慌てすぎると目の前のものも見えなくなる。今のエリミネートだってそう。ヘイトが拳を握りしめても、襲い掛かっても、動かずただ呆然とするだけ。


「ハザード、いや、リチャードを思いやる気持ちがあるならー。」


ヘイトはエリミネートを見下ろした。


「お前も道連れになればよい。」

「きゃぁああああ!」


ヘイトが手を振ると、空に稲妻が走り、ずばっとエリミネートの体を突き刺さる。


「エリミネート!」


空から落ちるエリミネートに向かい、ストロークが飛んでいく。


「ダメでしょ、女帝さま。」

「ヘイト…!」


ヘイトがストロークの前に立ちふさがった。かつての女帝、自分の主をみるヘイトの目が狂気にひらめいた。


「見るなー。」


その前をさえぎるのは神たるもの。汚いものを見るような目で、ヘイトを睨んだ。


「きさまなんかに見られていい人じゃない。」

「お前ー。」


神の拳を防いだヘイトの腕は、ぶるぶる震えていた。一秒の深呼吸と共に始まる戦い。そのうち、ストロークは落ちるエリミネートを受け止めた。


「大丈夫?」

「すまないっす…。」


ストロークがエリミネートの保護する時、クラッシュは敵を一所懸命浄化した。だが、一人ではとても無理なこと。だから、逃した何匹が町へ入り込んでしまった。


「に、にげろ!」

「助けて!」


カゲは町のあちこちで暴れた。力を振り回すカゲは、滑るように広場にもぐりこんだ。カゲのエネルギーが広場を満たした瞬間ー。


「や、やめてくれ!」


年老いた歴史学者が、カゲの前に立ちふさがる。


「この広場だけはだめだ!たのむ、壊さないでくれ…!」


歴史がたまってる場所。大切な広場を学者は守ろうとした。自分の命に替えても。


「ぐおおおお!」


カゲには届かない叫び。胸の痛みが体を締め付けると、人は自分の中へもぐりこむ。なぜ私だけ悲しいのか、なぜ私だけ痛いのか。悩み続けても答えは出ない。ただ、平気そうな他人が憎くなるだけ。


「あ、あああ…!」


絶望した者の拳が爺を殴ろうとした時ー。


「はあああ!」


インターセプトのキックがカゲの腹にさされた。


「君は、一体…?」

「勘違いするな。」


もやもやする砂煙を、青い風が吹き飛ばす。


「お前は気に入らねえ。今だってぶっ殴りたい。けどよー。」


煙の中から登場したインターセプトが、拳を握りしめた。


「誰かが大切にする町を、壊せるもんか!」


インターセプトはにやりと笑った。


(やっと気づいたんだ。腹が立つのも、涙が出るのも、全部ー。)


青くひらめいた瞳の中、嵐が吹き荒れる。


(銀河の町が好きだから。)


あこがれの人の町を守ってあげなくて泣いたわけじゃない。自分に意味がある町だから、自分が愛してる町だから悔しいんだ。


(仲間と出会い、笑いあった、楽しい想い出がたくさんたまってる場所。)


まだ町のみんなを許したわけない。だが、それ以上に仲間が愛する町が愛おしい。いや、仲間のためじゃない。自分のためだ。自分の一番大切な想い出が、全部そろってる場所だから。守らなくちゃー。


「俺は町をもっと知りたい!」


今まで知らなかった世界。味わってない愛情。友達と出会って始まった、自分だけの道。


友達がいる町がすき。愛香の優しさが溶け込んでる文化が好き。そんな町を、インターセプトは、みかさはー。


「愛してるから!」


青き風が吹く。山も谷も乗り越えて、ここまでやってきた風を、私たちは誇らしく思うべき。


「俺は銀河の町を研究する!歴史も、文化も!そしてー。」


インターセプトは後ろをちらっと見た。震える足で、大きなカゲと立ち向かう歴史学者。そんな彼を、みかさは心から認める。


「あの爺に負けない歴史学者になる!」


カゲはインターセプトの気迫に押された。堂々と立つその姿、騎士より王者たるもの。王冠は、王者の鼓動に反応する。刻まれたサファイアは、インターセプトのカードリーダーの中に。


「モード・ナイト・フィナーレ!」


そして、インターセプトは王者に相応しい服となる。みなぎる力が全身から出て、ハリケーンを起こす。


「もうむりっ…!って、あれ…?」


カゲを食い止めていたクラッシュの両手が楽になった。町のカゲが全部、ハリケーンに巻き込まれたから。


「マジプロ!」


インターセプトが手を伸ばすと、青き風のギターが出来た。生み出したギターを、インターセプトは全力で弾いた。生まれて初めて、五線紙を見ず、音符に構わず、自由に。


「シンフォニー・オブ・ホープ!」


町に響いたギターの音が、青き風となり、すべてを包み込んだ。やがてハートの形になって消えるハリケーン。


「ちぇっ。」


神と戦っていたヘイトはハリケーンに巻き込まれる前、ポータルの中へワープした。


「すごい…。」


クラッシュが胸に手をあてた。ドキドキの鼓動が伝わってきた。


「すごいよ、インターセプト!」


クラッシュは目をきらきらして、インターセプトを抱きしめた。


「熱いからあっちいけ!くっつくなよ!」

「えっへへ。でも、嬉しいんだもん!インターセプトも、エリミネートも夢が出来たから!」


エリミネートの覚醒の時は知らなかったが、今は確かにわかる。彼女らが解き放ったのは夢の力。夢見る乙女の可能性。


エリミネートに手を貸してくれてストロークも、支えられたエリミネートも、クラッシュに近づいた。


「よっし!私も夢を探してみせる!」

「クラッシュなら絶対できるっす!」

「ああ、応援するから。」


笑ってる二人と違って、ストロークはそっと目を逸らした。


彼女の時代は終わった。過去に結ばれた人は、可能性の星を失う。消えていくストロークの輝きを神は切ない視線で見つめた。

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