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クロスタイム・マジプロ!第2部~セイレイの炎~  作者: 異星人
第4章 新たな夢に向かって
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第八話 ≪First Dream。歌手(3)≫

「無駄なことを。」


ハザードはマジプロの弱点がわかる。それは、カゲとなった人を倒せないこと。攻撃も防御もできる。でも、人を囲んでるカゲには手を出さない。


「くっ…。」


予想通り。カゲを人に戻してるのはクラッシュだけ。その隣でインターセプトはシールドを全開してる。


ストロークは圧倒的に戦ってるが、その強さが弱みになった。彼女は強すぎる。カゲを押しただけなのに、カゲらは消えそうになる。だから、仲間たちとは違い、モード・ナイトにもなれない。


「まだあいつらを助ける気なのか。」


カゲの命にかまわず戦ったら、きっとマジプロの圧勝。なのに彼女らはカゲを心配しすぎて、戦えない。強い者が弱い者のため無力にある。それは、とても理解できない行動。ハザードはそう思った。


「みろよ!」


そして、彼を怒らせた。弱かった自分を、救ってもらえなかった過去を、思い出させたから。


「あいつらは弱い!自分が信じられないから、自分勝手な基準を定める。基準を満たさない相手を差別する!」


だれも助けてくれなかった。小さな少年が、街角で一人、飢えて死にそうになるまでー。


「そうしないと、自分の無力さを感じるから!自分の優秀さを見せないから!」


筋トレにはまる理由は、強くなるため。昔々のある少年のため。少年が流す涙の価値を、誰より思い知るから。


「だから、自分が持ってないことを隠すんだ!」


カゲらが吠えた。ある過去の幼い少年の悲しみが伝わったから。果てしない絶望を感じるから。


「弱者を守る?笑わせるな!」


少年は、死にかかった時に女神と合った。果てしない絶望を、力に変えてくれた女帝を。


「そんな俺に強さをくれたのは、お前ではないのか!」

「ううっ…!」


かつて、幼かった少年に絶望の力を与えた少女は、自分の作った幹部の話に面食らわれた。


「あまい、あまい、あまい!」

「キャッ!」


少しの慌ては弱点となる。彼女が一瞬、油断した時に、ハザードは彼女にパンチを食らわせた。


「ストローク!」

「だめよ、インターセプト!」


すぐにも飛び出すようなインターセプトを、クラッシュが止めた。今、インターセプトのシールドがなくなると、カゲらは町を襲うはず。


カゲらはどろ水のように、町に流れ込もうとする。必死に止めてるインターセプトと、人たちを一人一人助けてるクラッシュ。倒れてるストロークに走っていく神。


「どうすれば…。」


悲しみは悲しみを生み出す。その源を排除しないと、誰も救うことができない。


「このままじゃ…。」


選びの時が近づく。みんなを救うための全滅と、みんなを見捨てて得る平和。手も足も出ない状況で、聞こえてきたのはー。


「僕ら歩んだ道、離れていても、君の指先がどこを向かっても。」


思いをこめた、きれいな歌声。


「この友情は変わらない。この思いは変わらない。」


馬車に乗った人も、自転車を持ってる人も、走って逃げだす人も、車に乗る人も、誰もが振り向く。歌にこめられたやさしさが、心に響いていく。


「一つになれる、一つになれる…。」


自分のままで大丈夫と言ってくれる。見た目なんかかまわず生きていこうとささやいてくれる。カゲらの怯えが、時間の不安が消えていく。


「そうっすね…。」


オリビアの作った歌詞は、みんなの心に触れる。それは、エリミネート、いや、ウィルヘルミーナだって同じ。


「なれるっすよ…。一つに…!」


涙があふれる。今までの苦しみが、頬を伝う。滲んだ世界の中、今までの記憶が見える。


ウィルヘルミーナを無視した少女たちの顔が見える。いじめられて、部屋に閉じこもった時も、声をかけるためみんなの相談にのった時も。すべて涙に溶け込んでいく。


誰かと繋がるため、私たちはいつも一所懸命。置いていかれるのが辛い理由は、きっと自分を信じられないから。


しかし、私たちはここにいる。


転んですりむいても、私たちは何度も立ち上がった。そう生きてきた。人生って、やめたいからやめられるものじゃないから。


『振り向いたら失敗ばかり』ってことは、その分、立ち上がってきた証。あの頃の小さな私が、困難に負けず立ち上がったから、私は今、ここにいる。


なにもかもやめたくなったら、あの頃の私に声をかけてみよう。あの小さな頃の私から今の私に捧げる『大丈夫』が、私たちを支える力になるはず。


「誰もが、きっと…!」


地面に落ちた涙が影に波紋を起こす。小さなリップルが、人生を変える。他人に影響を与えながら、どんどん未来へ広がってく。


いや、それはミスの流れとは違う。まるで火を注いだ油。導火線につけた火のようだ。


「やっと見つけたっす。」


エリミネートは胸に手をあてた。胸の奥から熱く燃える炎。それは、あこがれの人に表す尊敬。


「明日の自分が、どんな自分になりたいか!」


エリミネートの瞳が赤く燃え上がった。


「自分は、平和を歌う歌姫になるっす!それが、今の自分の『なりたい自分』っす!」


その時、夢見る者の王冠・クラウンが現れた。クラウンの真ん中に刻まれたルビーが舞い上がり、エリミネートの変身カードリーダーにさされた。


「モード・ナイト・フィナーレ!」


動きやすい、黒色の騎士の制服まるごと燃え上がった。炎は変身後にも消えない。飾りのようについてる。いつもとは違う姿に、マジプロも幹部のハザードも驚いた。カゲも人も目を離さない。


「フィナーレ、だと!?」


舞い降りたエリミネートを見て、ハザードが歯を食いしばった。


「モード・ナイトより、さらなる力…。ありえん、そんなのありえん!」


ハザードは怒りを抑えず、エリミネートにとびかかる。握りしめた拳には、決意までこめられていた。だって、こんな弱い奴らのため弱さを見せる者に負けたら、ハザードは、今までの人生は…。


「はあああ!」


一秒に何度も殴ってくる拳を、エリミネートは優雅にかわす。


「なんて強さ…!」


神に助け起こされたストロークさえ驚く強さが、ハザードの気に入らないのは当然のこと。


「なぜ、なぜだ!」

「自分が好きになれるなら、なんでもできる!」


攻撃をかわしたエリミネートが拳を握りしめた。拳についた炎が、赤く燃えあがる。


「信じればきっと、みんな一つになれる!」

「ふざけるな!」

「みんなから与えられた力が、私の強さになる!」


エリミネートの正拳突きが、青空を切り、ハザードの頬を撃った。倒されたハザードは、再び立ち上がった。今度は、フレームエンプレスからもらった、イヤリングについてる不死鳥の羽がハザードの体に火をつけた。


「おのれぇえ!」


最後の最後。全力でかかってくるハザードに対して、エリミネートは手を伸ばし、炎のマイクを作り出した。


「マジプロ!」


ペン回しのように、マイクをくるりと回したエリミネートは、深呼吸して、大きな声で叫んだ。


「エチュード・オブ・フューチャー!」

「ぐわあああ!」


ハザードは炎の中に消えていた。彼を包み込んでた絶望の力が消えていく。残ったのは、泣いてる少年だけ。


「ああ、そうだったか…。」


絶望は何も生み出せない。自分を傷つけるだけ。


「もうちょっと、僕を信じたらよかったー。」


少年は目を閉じた。瞼に押された涙が頬を伝った。


あの日、炎が町を燃やした。でも、なんの犠牲者も出なかった。むしろ、炎はカゲを全部燃やし、閉じ込められてた人たちを救った。


「エリミネート!」


クラッシュとインターセプトが走ってきた。


「すげえじゃん…。」


二人とも驚き、エリミネートを誇りに思った。特にクラッシュは、カゲから人を助ける技が使える仲間が出来て、そごく嬉しそう。


「エリミネートもカゲを浄化することができるんだね!」

「はいっす。これから自分もがんばるっすよ!」


一方、ストロークと神はハザードの所に。


「デリュージョン、さま…。」


ハザードは苦い笑みを含んだまま、ストロークを見上げた。


「間違っていた…。僕も、あなたも…。」

「リチャード…。」


ハザード、いや、リチャードを見るストロークの目に、涙の粒が出来た。


「間違ってるのに、嬉しい…。」


降り注ぐ日差しの下、リチャードが消えていく。


「わたしのせいだわ…。」


ストロークは、自分の誘いがリチャードを壊したと、涙を流した。そんな彼女を、神がそばで見守ってくれた。



時間の歪みが治されて、みんなが自分の時間に戻ってく。オリビアだって、自分の居場所を、時間を向かい、どんどん姿が消えていく。


「また合えるよね?」

「はい…。絶対に…!」

「じゃ、さよならはいわないね!」


ウィルヘルミーナは唇を噛み、涙を抑えた。


「またね!」

「はい、またいつか…!」


ウィルヘルミーナはオリビアに手を振った。太陽のようなまぶしい笑顔で、オリビアは消えていた。


「ミナン…。」


振っていた手を下ろし、胸にあてるウィルヘルミーナを見て、愛子が彼女の名前を呼んだ。


「言った通りっす。自分、歌姫になるっす。」

「歌姫?」

「そうっす。一番大きなステージで、平和を広げるコンサートをやる。いつかまた、オリビアにあって、胸を張っていられるように…。」

「すごい!すごいよ、ミナン!」

「応援するわ。」

「えへへ…。」


愛子と愛香の応援に、ウィルヘルミーナは恥ずかしそうに笑った。


「まあ、今は自分を自分のままいさせてくれるみんながもっと大事っすけど。」

「ミナン~!」

「ちょ、あついっすよ!愛子!」


みんな、ウィルヘルミーナを応援するうち、みかさだけは静か。


(歌手、か…。)


もう世界的なミュージシャンであるみかさはウィルヘルミーナを心から応援できない。だって、みかし『音楽』の道は、厳しく辛い思いだけ残してるから。


(まあ、夢は人それぞれだし。)


友達が心配になるが、今は応援するしかない。だから、みかさは両手を頭の後ろで組んだ。


(…ギター、借りてやろうかな?)


みかさはもうミュージシャンを夢見てない。音楽はみかさの道じゃない。でも、頼りになれば嬉しいんだ。


しかしー。


「なんだ、このくそやろ!」

「みかさちゃん、落ち着いて!」

「が、我慢するっすよ!」


次の目的地、ヨーロッパで、みかさは初めての人の前で、暴走してしまった。

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