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クロスタイム・マジプロ!第2部~セイレイの炎~  作者: 異星人
第4章 新たな夢に向かって
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第八話 ≪First Dream。歌手(2)≫

「じ、自分っすか…?」


少女がうなずいた。ウィルヘルミーナは慌てて、どうしようもできない。


「別にいいじゃん。」


テーブルに座っていたみかさが最初に反応した。


「歌手ってさ、ライブコンサートの後、時々誰かと話し合いたい気分になる。」

「でっ、でも…。」

「行ってらっしゃい!」


もじもじしてるウィルヘルミーナの背中を、愛子が押してくれた。


「あら、照れてるの?」


いたずらな愛香はそっと笑った。


「違うっすよ、もう…!」


隣の歌手、オリビア・ブラックも、照屋さんのウィルヘルミーナを見て、笑い出した。



二人はカフェを出て、屋上へ向かった。手すりに寄りかかって見た景色。夕日に染まる町は、刻一刻に姿を変えた。


(き、緊張するぅ…!)


当然のこと。ウィルヘルミーナは、愛子とみかさ以外の友達がないから。


人は目的を持って行動する。なにも望まない関係はない。マテリアルが目的ではないあんら、せめて相手の愛情を欲しがる。


みんながウィルヘルミーナに欲しがるのはカウンセリングだっただけ。だから、彼女らを責める気はない。ただ…。


(困ったっすね。相手が何を求めてるのか読めないっす。)


求めるものを隠してる人とは、かなり苦手。元気よく話をかけるべきか、黙って待つべきか。わからないまま、ウィルヘルミーナはオリビアを見つめた。


オリビアは、大きな瞳が魅力的な少女。しかし、どこを見てもウィルヘルミーナとは正反対。


明度が低い真っ暗な肌は、ウィルヘルミーナと極めて異なる。黒い髪はくねくねなパーマヘアーみたい。厚い唇はリンゴのように真っ赤。


「あの子たち、あなたの友達?」

「は、はしっす…。」


うかうか答えてしまったウィルヘルミーナは、はっと気を取り直した。


(もし、この人も先の人たちのように、変なこと言ったらー。)


友達を馬鹿にした奴らを思い出すと、また腹が立つ。ひどく緊張してるウィルヘルミーナを見て、オリビアは笑った。


「そっか。そう思ったよ。予想通りだね。」

「え…?」


簡単過ぎる。『ただ、それだけ?』と聞きたくなるくらい。


「いや、まあ、最初は『姉妹じゃないか』と思ったけどさ。」

「し、姉妹って。見た目違いすぎじゃー。」

「そう、かな…?私の友達には、見た目が全然違う妹もあってさ。」


アメリカには離婚や再婚する場合がかなりある。だから、全然違う二人が家族になってもおかしくない。それに気づかずに、ただ相手を警戒していた自分の心の狭さ、ふと恥ずかしくなった。


「その…。」


ウィルヘルミーナは声を出した。だって、こんな人に合ったら、黙っていられない。


「すまないっす。」

「なにが?」

「ここにきてずっと、見た目で判断されて、ムッとすることばっかで、切れやすくなって…。」


まだ話してない相手を、分かり合う前に判断しちゃった。


「怒ってたの?」

「みんな、愛子やみかさ、自分の友達にひどいこと言って、つい…。」


ウィルヘルミーナの頭がだんだん下がった。本当は気づいていた。自分が目立つせいで、みんなも一際差別されてる。


町の人はウィルヘルミーナだけに声をかけてくれる。逆に考えると、愛子たちを無視してすれ違うとした人まで振り向かせた。


「おかしいことはなにもない。友達とカフェにくるのも、おしゃべりするのも。」

「え…。」


驚いたウィルヘルミーナは、知らずに顔をあげた。


「それをおかしいと思うのがおかしい。うん、きっとそうだよ。」


髪の色、肌の色、目の色で人を仕分けた人々の中で、オリビアの声だけ、胸に響いた。


「私はね、小さい頃に白くなりたかった。黒いのは汚い。そうからかわれた。」


あの日のオリビアは、自分が大嫌い。だって、みんなが自分が嫌いというから、自分も自分を愛してはいけないと思った。


「人の言葉が正しいと思い、その型にはめようとした。」


ウィルヘルミーナは、なぜか自分の白さから罪悪感を感じた。でも、そうなる前、オリビアはウィルヘルミーナの手をつないだ。


「みんなのいう通りにしたら、私がいなくなる気分。全然幸せじゃなかった。」


私が私を愛さないと、誰が愛してくれる。彼女はそう呟いた。


「でも、今は違う。」


オリビアはウィルヘルミーナと向き合い、微笑んだ。


「私は私が好き。」


夕日を背にした、まばゆい笑顔。


「型に誰かをはめるのは、自分をその中に囲い込むことと同じだから。」


ウィルヘルミーナの瞳がそっと揺れた。今まで町のみんなと違う見た目を持って、ずっと苦しんでた。私が私の否定した。そのたび、苦しくなるのは自分だった。


「私は歌でこの思いを伝えたい。」

「歌で…?」

「歌は人種を超える。世代を超える。性別も、文化も超えて、みんなの心に届く。」


歌を聞く時は、みんな一つ。同じ気持ちを分かち合える。


「私は、アメリカで一番大きなステージに立つのが夢!」


オリビアは両手を広げた。両手で抱え込めない夢のように、大きく。


「その日が来たら、白も黒もなく、女でも男でもなく、『私』がいっぱいになったらいいな!」


名札のようについてる鎖を破り、『私』として存在しますように。


「ねえ、私、初めて話したんだ。私の夢のこと。」

「ええっ!?なぜ自分にー!」

「だって、このカフェに白人が来たの、初めてだもん。」

「え…?」


ウィルヘルミーナは慌てた。友達と一緒にいけるカフェを探しただけなので、そんなこと考えてないから。


「あら、気づいてなかった?このカフェを利用してるのは私みたいな黒人だけ。だって、『こんなお店汚い~』と言われるもん。」

「そんな…!」

「あら、怒ってくれるの?」


オリビアは手を口にあてて笑った。


「まあ、そういうこと。あんまり気にしないで!」


1階に戻るオリビアを、ウィルヘルミーナは呆然と見た。自分の肌が好きだから、『オリビア・ブラック』と名乗ったという彼女を。


オリビアは、恥ずかしいことはなにもないと言ってくれた。勇気をくれた。


(自分は自分が大嫌いだったっす。)


『こんな私なんて、愛されない』と決めてたのは、むしろ自分。


(今は違う。何があっても味方してくれる仲間がいるっすから。)


だから無茶する必要はない。私じゃない私になる必要はない。


(自分の、なりたい自分は…。)


みかさのコンサートがめちゃくちゃになった日、ウィルヘルミーナはみかさの代わりに歌った。あの日のときめきを、いまだも忘れられない。夜明けまで続いたときめきは、きっとー。


「おい!」


階段をのぼってきた神が、ウィルヘルミーナを呼んだ。


「か、神様!?」


胸がキュンキュンする。でも、前のズッキュンとはちょっと違う。その理由を、ウィルヘルミーナは知らなかった。でも、それはきっと、ウィルヘルミーナという人をそのまま認めてくれた人が増えたから。この広い世界で、もう何人も合えると信じるから。


「なにしてんだ、着いてこいよ!」


神から話を聞き、すこし嬉しくて、喜んでいた心が沈んだ。ウィルヘルミーナは、真剣な表情をして、神を追いかけた。



「クラッシュ!」


インターセプトの声に、クラッシュが振り向いた。ダッシュしてくるカゲを、クラッシュは両手で止めた。でも、打ち返してもまた地面からカゲが沸いてくる。


「もう、キリがないわ!」


ストロークは唇を噛み、両手を広げた。手のひらに集まった金色のエネルギーが右と左のカゲをぶっ倒した。


「みんな…!」


クラッシュたちは全力でカゲと戦っていた。でも、カゲはどんどん現れて、すぐ町を満たした。


「はっはっは!フレームエンプレスが消えて心配したが、むしろ力がみなぎるのではないか!」


マジプロたちが歪んだ世界で記憶を失っていなかったように、幹部らも過去を覚えていた。


「この国は、心にカゲを潜んでるやつが多いな!」


ハザードが笑い続けた。だって、自分の影をカゲにしなくても、カゲにする心は多い。多すぎる。自分を他人の視線に合わせてる、悲しい思い。


すれ違った人も、見知らない人も。先、友達にひどいことを言った人も、全部。自分をカゲの中に閉じこんでた。心から泣いていた。


「さあ、どんどん広がれ!町を飲み込むのだ!」


歩き出したカゲたちは町のビルを飲み込んだ。品物を真っ黒に塗り替えた。


「あっちには…!」


カフェへと進んでるカゲらを見て、ウィルヘルミーナは拳を握りしめた。


「これ以上、好き勝手にさせないっす!」


ウィルヘルミーナが手をあげると、変身アイテムが現れた。


「マジプロ!時空超越!敵を排除しろ、エリミネート・プロミネンス!」


真っ赤な炎がエリミネートの周りを丸く包み込んだ。火のように燃え上がる心。ひらめきを秘めた瞳。今、恐れげもなくエリミネートに近づくカゲはない。


「技はダメ。中に人がいる!」

「了解っす!」


舞い降りた炎の天女。炎を羽衣のようにまとい、エリミネートはカゲらに飛び込んだ。


「はあっ!」

「ぐおお!」


エリミネートの炎に、カゲらは後ろへ下がった。だが、カゲを浄化できるのはクラッシュのみ。


「くっー。」


きりのない敵に、クラッシュはだんだん疲れていく。辛うじてカゲから人を助けても、彼らは心から浄化されたわけない。一人一人、相手にして、悲しさを分かち合う時間はないから。


そう、端的に言えば、無理矢理に助けてる。まるで、デリュージョンに出会った日、話もせずただ技を使った時と同じ。


なにより倒したはずのカゲらが、喚きをやめず叫び続ける。残された黒い悲しみがだれかの影に溶け込んで、悲しみの種となり、再び悲しみを咲かせる。


自分を閉じ込めてる人は、他人が自由であると嫉妬する。彼らの足元を掴み、話してくれない。だって、私が悲しいから、あなたも悲しくなるべき。人の視線を心配して悲しみを抱いていた者なら、なおさらー。


「なんだ、あれは?」

「に、逃げろ!」

「助けて!」


状況は最悪に。黒に塗り替えられたビルから出てくる人が、またカゲになったのだ。その中にはスマートフォンを持ってる21世紀の少年もあり、インディアンの服装をしてる者もいる。


「自ら獲物になろうとは!よかろう、あいつらを狙うのだ!」

「あっちはー!」


カゲたちは先のカフェがあったストリートに。エリミネートは急いで走り、彼らを追い越し、振り向いて、カゲらを止めた。


「くっ…!」


何があっても、カフェに手出しはさせない。そう決めたから。せめて、カフェのみんなが逃げるまでは…。


「ちょっと、あんた怪我してるじゃん!」


カフェを出たオリビアが最初に言った言葉。人を先に思うその気持ちに、なぜか笑みが浮かんだ。


「大丈夫っすよ。サンキュー、オリビア。」

「あなたは…?」


エリミネートはカゲを押した。倒れたカゲらに走っていくエリミネートを見て、オリビアは唇を噛んだ。拳を握りしめたオリビアは、再びカフェの中へ飛び込んだ。

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