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クロスタイム・マジプロ!第2部~セイレイの炎~  作者: 異星人
第3章 過去を乗り越えて、未来を抱きしめて
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第六話 ≪Sixth Fire。モード・ナイト、愛子(2)≫

愛香は今まで抱え込んだ思いを全部解き放った。面接に受からない。仕事が見つからない。自分が情けない。このままじゃ、『高齢ニート』もしくは『脛齧り』と同じじゃない。


「いつか私も、自立しなければならないし…。」


結婚の予定はないから、多分一人暮らしになる。頼れる人のないまま、自分一人で生きていく。きっとたくさんのお金がかかるから、仕事を探さないと。


「お世話になりたくない。甘えたくない。」

「そんな…!」


愛子は愛香の手を取った。


「お別れなんて…。そんな悲しいこと言わないで!」

「でも…。」

「私たち、家族でしょ?」


『家族』っていう単語が胸を貫いた。


「一緒にいてもいい。いいえ、一緒にいてください!」


『家族』は行き場がなくなったとき、戻ってくる場所。自信が持てず、不安な気持ちになった日、そっと尋ねて、休む場所。


「愛香さんは一人じゃない。私たちがついてます!」

「…ありがとう、気持ちは嬉しい。でもー。」


愛香が話を進める前、愛子が立ち上がった。


「ちょっと待ってください!」

「愛子…?」


愛子は部屋に飛び込んだ。急いで着替えた愛子は、部屋を出て、愛香の手を取り、家を出た。


「ちょ、愛子ちゃん。今日は留守番…!」

「そんなのどうでもいいです!」


愛子は愛香を振り向いて、パッと笑った。


「家族より大事なことはないから!」


愛子に引っ張られた愛香はどうしようもなく町へ走った。



スマートフォンに例えるなら、今のフレームエンプレスは完全放電。彼女は皇座に座り体力が戻る時を待ってる。


3連敗だなんて、確かにこれは痛い。休憩しようとしても憎ましい顔を思い出す。負けた悔しさと過去の自分への公開で、彼女はキチンと休めない。それは古い形態が遅く充電するよう。


(あの時、映画なんか見せずに襲ったら。プライドなんか忘れ、もっとカゲを暴れさせたら。いや、あの技にやられる前に右へと逃げたら…!)


フレームエンプレスは爪を噛んだ。悔しい。負けたくない。でも、なによりもー。


(家族と一つになりたい…。)


何度暴れても何度やられても、その欲望だけは消えない。まるで、生まれつきの生き方みたいに。


(そういえば、私が痛い目にあったのも、姉たちが私を受け入れてくれなかったから。素直に食われたらよかったのに。)


まさに詭弁。わがままの論理。


(一緒に幸せになる。それが…。)


フレームエンプレスが立ち上がった。よろけても怒りは抑えられない。


(家族じゃない…!)


スマートフォンは100%のまま充電じゃなくても、電源が入る。フレームエンプレスも同じ。完全なる回復ではないけど、まだまだ戦える。


(私は、家族よ…!)


よろめく炎は火花となって消えた。



みかさのコンサートの日から、愛香は町に行かなかった。わけのわからない怖さが心でもやもやして、どうしても足が動かなかった。


町へ行くと、きっとみんなに嫌われる。すれ違う人も全部そわそわしてるみたい。自分の名前に似た商品やゲームの話がすると、知らずにびくびくする。笑ってる人たちを見ると、自分を嘲笑ってる幻聴がする。


恐怖は大きくなり、いずれ全ても景色を塗り替えた。周りのみんなが、誰も可も敵に見えた。足がしびれてくると、悔しく悲しい思いに染められて、知れぬ間に『何もかも亡くなってほしい』とつぶやいた。すると、デリュージョンだったごろの思いが蘇るみたいで…。


だから町に行かない。だって、自分を制御できるかわからない。全部なくなったらいい。でも、大切な人を悲しませたくない。もうどうすればいいか、わからなくて。


でも、今日だけは違う。愛香と一緒の今日は、不思議なぐらい安心した。怖い妄想なんかしない。未来に怯えることもない。すると、見えなかったものが目に見える。


お店の前で笑ってる人は、恋人とあって喜んでる。子供たちは『愛香』じゃなくて、『アイカツ』の話をしてる。


愛子と手をつないでるだけなのに、町がささやいてくれるみたい。『恐れることは何もない』って。


「ここです!」


愛子が立ち止まった。ここは『フレグランス』、愛音のお店。アロマセラピストの愛音は、テラピーが仕事。でも時々、お客さんとともにお似合いのオイルを作ったりした。


今日も店にはお客さんがいっぱい。テラピーを受けてるお客さんもいて、家族と精油を作りにきたお客さんもいる。香り作りには興味なくても、噂の店に遊びに来たお客さんもいる。


「ここは…。」


愛香は手を口にあてた。愛音の仕事は知っていた。いつの間にか大人になってしまった妹の仕事が気になった。


(愛音はどんな大人になっただろう。きっと立派な大人になってるはず。)


失った時間の分、一人前の愛音を見たかった。でも、その願いを口にすると、零れそうだから、目を逸らしちゃった。


(デリュージョンの姉なんて、愛音にいらない。)


すべては家族のため。人たちを苦しめた愛香が愛音と一緒にいたら、みんな愛音を責めるはず。


「愛香さん!こっち、こっち!」

「ちょっと、愛子!」


愛子は愛香の手を引っ張って、お店の中に入った。ドアベルが鳴り響いた。愛香は急いで愛子の後ろに身を隠した。


「いらっしゃ…。あれ、愛子?」

「愛香さんもいるよ!」

「お姉さんまで?もうっ、宅配先が留守になっちゃうじゃー!」

「お母さん、ちょっとお話!」


愛子は母を連れて店の中の部屋へ。


「お姉さんが…?」


そのうち、愛音は娘と姉の話をしていた。


「うん、悩んでるみたい。」

「まったく、そんなこと気にしなくていいのに。」


愛音はそっとため息をついた。


「分かった。ママが何とかする。」

「本当?やったー!」


愛子は嬉しすぎて、両手を組んだままウサギのようにぴょんぴょん跳ねた。


「愛子ちゃん…。」


喜ぶ娘をみると、胸がキュンとする。愛香の悩みを自分の悩みのように心配して、誰より先に走ってきて、適当な時に相談してくれた。思いやりの心を持った娘が、母は誇らしい。


「ありがとう。愛子はママの誇りよ。」


愛音は娘を抱きしめた。愛子は目をパチパチさせた。すぐあと、愛子の顔に笑顔が咲き誇った。



愛音は困っていた。愛子が愛音を連れていた後、愛音の周りに集まっていたお客さんたちが、そわそわし始めた。みんな愛香を注目していた。招かれざる客を歓迎するものはないから。


(予想通り、ね…。)


いくつの視線を浴びて、愛香はうつむいた。愛音に迷惑をかけてしまった。大切な人に被害をもたらすつもりじゃなかったのに。


「さて!」


部屋から出た愛音はすぐ拍手で注目を集めた。そして、愛香の後ろへ向かい、肩に手を置いた。


「こっちは姉の平愛香。今日、私たちの手助けをしてくれます!」

「え、え…?」


愛音が爆弾のように投げた一言に、みんなは(もちろん、愛香も含めて)大混乱。


「ほら、はやく!」

「ちょ、ちょっと、待って!愛音…!」


言葉より行動。愛音は、みんなが話の意味をじっくりと考える前、言った事を実行した。エプロンを着せられた愛香は、もう泣きそう。


「そ、そんなの聞いてません!」


はっと気がついたお客さんの一人が、勇気を出して文句を言った。


「あの方、いや、あの人は…。」


でも、恐怖が広がる前、愛音はぎゅっと愛香の手をとった。


「助かったよ、お姉さん。一緒なら時間も効率的に使えるし、オイルは2個以上作れるかも!」


アロマセラピーのオイルは値段が高い。だから普通、オイル作り教室でもらえるオイルは一つだけ。


「2、2個以上…。」


膨れっ面をしていたお客さんが唾を飲み込んだ。もう誰も文句を言わなかった。


「お姉ちゃん。」

「え、え?」


愛香はびっくり。妹が自分に甘えるのは、町の戻ってきて初めてだから。


「手伝ってくれるでしょ?」


愛音はいろんな香りのオイルを机の上に置いた。確かにあれは多い。


愛香はお客さんの顔色をうかがった。だれも文句はなさそう。迷っていた愛香はそっと顔をうなずいた。



最初はミスばかりだった。違う香りを持ってきたり、混ぜたりした。でも、どうすればいいかわからない時、愛音と愛子が必ず手伝ってくれたから。


「あら、オイルが間違ったようですね。もう1本作りますか?」


アイルを間違えた時は、何度も材料を持ってきた。


「この香りすっごくいい!私にちょうだい!」


めちゃくちゃのオイルだって、気に入ってくれた。


二人がついてる。なにがあっても、支えてくれる。愛子と働くたび、愛音と笑うたび、心に勇気が芽生えた。


「この香りはいかがでしょうか。」


自信を持った愛香は、だんだん上手になった。愛香のおすすめの香りは相性がいい。それに気づいたお客さんたちは、いつの間にか自然に話しかけた。


(イチゴの香りが足りなさそう…。)


愛香はすぐ上手になったが、今までのミスは消せない。愛香がミスするたび新たな材料を使ったから、イチゴの香りが足りなくなった。


「愛子ちゃん。苺のオイル、持ってきてくれる?」


愛音は娘を店の外へ呼び出した。


「宅配便が来る予定、今日の2時。今なら間に合うわ。」

「うん!行ってくる!」


愛子はそっと店の中を見た。愛香は上手にお客さんたちをサポートしていた。


(もう、愛香さん一人でいいよね?)


愛子は頑張ってる愛香をそっと見た。腕がいい彼女を、母の愛音と一緒にして、愛子はドアを閉じた。


(愛香さんが自分を信じますように!)


目を閉じて祈った愛子はすぐ家へ走った。



家にたどり着いた愛子は、宅配ボックスから母のオイルを出した。いくつかを冷蔵庫に入れた後、愛子は苺香りのオイルを鞄に入れた。


「苺の香り、苺の香り~!」


愛子はかなり浮かれた。愛香の相談に乗ったし、彼女の笑顔を見たし。


「幸せ満開~!今日もラッキー!」

「楽しそうだね。」


ハミングしてる愛子に、誰かが声をかけた。


「えっへへ。だって、家族の力になって、嬉しいもん!」

「『家族』だと…?」


『家族』。その単語に人の気配が強くなった。異変を感じた愛子は立ち止まり、振り向いた。


「あなたは…!」

「私も『家族』なのに…。」


フレームエンプレスが拳を握りしめた。筋立った手の甲。ぶるぶる震える拳を上げて、フレームエンプレスがとびかかった。


「なんで私は『家族』と呼べないのだ!」

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