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クロスタイム・マジプロ!第2部~セイレイの炎~  作者: 異星人
第3章 過去を乗り越えて、未来を抱きしめて
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第六話 ≪Sixth Fire。モード・ナイト、愛子(1)≫

血の繋がってるすべての者が、『家族』と呼ばれるべきではない。




第六話 ≪Sixth Fire。モード・ナイト、愛子≫




みかさからのテレパシーが切れた。多分、ウィルヘルミーナのどころへ行く方法を見つけたのだろう。


愛香は信じていた。あの子たちなら大丈夫。きっと見つけるはず。


でも、だからって手放したままいられない。


(私も行かなきゃ。でも…。)


愛香は顔をあげて、2階を見た。そう、其処許。『調べることがある』って、神がポータルの中へ飛び込んだ。


『いいだろう、愛香。絶対戦ってはいかない。』

『そんな!あの子たちに何かあったら、私ー!』

『あいつらのためでもあるんだ!』


愛香は驚いた。神は愛音の娘である愛子やその仲間たちを心配したことない。


当然のこと。愛香と合った時から、神は自分の運命を愛香に捧げた。だから他の連中なんかどうなってもかまわなかった。


だってそうだろう。誰も彼も、地球に生きているものはすべて敵。愛香の犠牲を踏みにじったからこそ今生き残ってる。


その思いは変わらない。神に取っては愛香が一番。地球が滅んでしまう時まで、愛香だけを思い続ける。


しかし、だからこそ神はこの星の人を愛し続ける。愛香が生きているすべてを愛する限り、神は彼らを見逃せない。


『世界中の人のためだ。』

『でもー。』

『あいつらが心配なら、戦ってはならない。どうかわかってくれ。』


生霊が現れた後、神はすぐ自分だけの場所に引きこもってる。


(生霊と戦った時、神君は何もしなかった。)


最初にフレームエンプレスと向き合った時、神は戦わなかった。猫の手も借りたい瞬間、後ずさりした。神は愛香を怒らせた。でも怒られなかった。だって、あの時の神は、ショックを受けた表情していたから。


(いったい何が…。まさか。)


愛香は知らずに爪を噛んだ。


(また夢を…。)


愛香が時間を失う前、長老だったみなみはこう言った。


『神の言葉は未来になり、神の夢は予言になる。』


神の夢は真実となり、神の言葉は現実になる。そう教わったから、町は神を祭った。神の気まぐれが未来になってはいけないから。


愛香だってみなみに教わった。だからこそ昔々の愛香は、神が妹にかけた呪いに立腹した。


『このっ、影より酷いやつ…!お前なんか影に飲み込まれて影の女帝になれっ!』

『神君、私の妹に何の呪い?もう、最低よ!』


あの日はすごく怒ってた。涙を我慢するため、唇をかみしめた。


(もちろん、全部はずれだったけど。)


愛香は苦笑いを浮かべた。


愛音は妄想帝国の女帝にならなかった。心の輝きを失ったのは、愛香だった。


同然のことかも知れない。人の未来が決めつけられてるなんて、ありえないから。


神だってそう。占った未来が外れたことがある。


幼かった神は、愛香と仲が悪そうな委員長を世界から消そうとした。でも、愛香は友達と思ってた委員長を取り戻し、仲直りした。


『信じられないけど、未来って、変われるものかもしれない。』


神の認めに愛香は安心した。妹がカゲの女王さまになるなんて、信じられなかったし。


(そう、なんの天啓を得たって、乗り越えればよい。)


愛香はココアの入ったカップを弄った。そして、そっと顔を上げて、神が消えていった場所を見つめた。


一方、神はポータルの中、神なるものの空間に閉じこもった。運命の記録・アカシックレコードに飛び込み、記録にアクセスしていた。


星の神にはその星の命の運命にアクセスできる権利がある。地球の神だってそう。地球のすべての命の運命を本から読み取る。だが、いくら探しても生霊のページは出ない。


(なぜだ…。生きている者ではないから?)


それはそう。神の本に机や椅子の最後が書かれてるわけじゃない。


(いや。)


神はうなだれた。


(『それ』は生きていた。愛香の父を食べて、母をかじって…。)


神は唇を噛んだ。あの日のことを忘れるわけがない。屋敷が燃えた日、愛香が得た罪悪感を知ってるから。自分のせいだって、これからは町のすべてを愛し、目に見えるすべてを守るって、すべての罪を一人で背負ったから。


(運命がねじられたかも知れない。)


神が見た未来に苦しさはなかった。デリュージョンが、いや、愛香が失った時間を受け入れると決めた瞬間、妄想帝国は滅ぶ。そう決まっていた。妄想帝国のすべては、愛香が夢見た妄想によって支えられた。受け入れない現実から目を逸らした愛香が見ていた美しい夢に。


だが、フレームエンプレスが現れて、すべてが変わった。カゲは現れ続き、幹部らも消えないまま。


だから愛香を止めた。『道場なんかいっちゃだめだ』って言った。愛香たちが戦い続けるみらい。あんな未来は最初から存在しなかった。


元々、妄想帝国は消えるべき。愛香は残りの人生を幸せに、ゆっくり過ごしたはず。


愛する愛香の未来を読んだことはない。でも、わかる。戦う相手がなくなったら、きっと愛香は自分の道を探し出す。夢へ走っていく。だから運命をねじらせない。愛香の幸せを守って見せる。


(命の運命をしるす方法は、アカシックレコードと俺の夢。レコードにはなにも書かれてない。ならば…。)


結論は一つ。神が見た夢が未来となる。


(あの夢…。)


フレームエンプレスと出会った日、神は夢をみた。愛香が黒い力の中、閉じこまれていた夢を。


(現実にさせねえ。)


神は顔をしかめた。唇が切れて、血が出るまで。時間の流れも知らずに、ただ、ずっと…。



(今日も合えなかった。)


愛香は神のことが心配。だから毎日、神の屋敷に尋ねた。でも、神は姿を見せなかった。


どこに行ったのかわからない。何を思ってるのかわからない。目の前で悩んでいたら、頬を掴み、『スマイル、スマイル!』と言ってあげるのに。離れているから、なにもやってあげない。


神と合わなかった時間が長くなるほど、心が寂しくなった。


(なに?この気持ち。まさか…。)


わけのわからない感情に、愛香は戸惑った。ずっと心配で、毎秒彼を思いつく。そばにいて欲しい。


この感情は、もしかして…。


(…いや、仲間に合えないから寂しいだろう。)


愛香は顔を振った。そんなはずがない。そうなってはならない。誰かを愛するのは、弱点の一つが増えること。戦士は『愛情』なんか、抱いてなならない。


(戦いだけ思うのよ。戦いだけ…。)


神に向かう思いを無理矢理に引っ張った。芽生える思いを踏みしめて、目を逸らした。


(そう、あの日の神君、私たちを助けてくれなかった。凍り付いたように、ただ黙って…。)


気に入らなかった。出会いからずっと、神は愛香のただ一人の仲間であった。なのに、戦いの中でぼうっとしてるなんて。


(いや、何か深いわけがあるはず…。)


愛香は神を信じた。いつのまにか、無自覚のまま、神に味方した。この思いが何物か、愛香はまだわからない。ただの友情、それとも仲間への愛だろう。


(今日は帰ろう。)


愛香はそっと立ち上がり、屋敷を出た。帰り道、愛香はずっと、神の屋敷を振り向いた。


「わっ、愛香さん!」


愛子が笑顔で愛香を迎えた。


「今日の夕食はハンバーグです!」

「えっ…。」


瞬きをした愛香は、つい真実にたどり着いた。


「そ、そういえば!今日の夕食当番、私だった…!」

「どうでもいいでしょ?大事なのは、目の前のこのハンバーグです!」

「でっ、でも…!」

「さあ、どうぞ!」


席に座られた愛香は、慌ててどうすることもできない。神を心配しすぎて、家族のことまで忘れたなんて。自分が理解できない。


「いただきます!」


愛香は夕飯を食べる家族を見た。妹の愛音と、愛音が愛し、愛音と結ばれた男。そしてその愛の結晶、愛子。


(そうだわ。神君が忙しくなっても、私には支えてくれる家族がいる。落ち込んじゃいられない。もっと頑張らないと。)


愛香は拳に誓いを握った。


(愛するものを守って見せる。)


愛子が顔をあげ、愛香を見た。目と目があった時、愛香はそら笑いをしてみた。作り笑いをかぶらないと、心配をかけちゃう。


(そういえば…。)


食欲がなくて、愛香はすぐ部屋に戻った。ベッドの上、腹ばいになった愛香はスマートフォンを持っていた。


(また断れた…。)


就職試験さえ受けられない。それはそうだろう。履歴書に書くことはなにもない。中学も卒業できなかったし。夢のため頑張ったこともない。


体育は得意だし、運動選手になろうか思った日もあった。でも、選手にさえならなかった。


「君はマジプロだろう?この試合は人間のものだ。」

「戦士が出るのはルール違反だろう。」


マジプロは変身後の力。変身前の愛香が強いのは、全部愛香自身の力。自らの努力。でも、人はそれを『マジプロの特権』と呼んだ。『マジプロだから強い』って言った。


本当は町を守るため、ずっと頑張ってきただけなのに。


なにより、愛香は過去悪のボースだった。その事実は消せない。決して消えない。


愛香が面接に出られないようにしたのもそう。みんな、愛香がいつデリュージョンになるか、緊張していたから。


我慢しても信じてくれない。だからって暴走したら、きっと『やはり』をたくさん言われる。


愛香はみんなに避けられた。だれも愛香の名前を呼んでくれなかった。


求人情報から、やっとコンビニバイトを見つけ出したが、神が暴れて首になった。『一緒に遊ぼう』と愛香を誘う男を、神は殺そうとした。コンビニもめちゃくちゃになって大変だった。


コンビニのオーナーは、他のオーナーに愛香の噂を流した。あの日から愛香に連絡するオーナーはない。


(家族のために、なんとかしないと…。)


愛香はため息をついた。横になっても、なぜか眠れなかった。時計が進む音を聞きながら、目を閉じるだけ。



翌朝。愛音の夫は夜が明ける前、急な出張に行った。愛音はお店に行くので、愛子に留守番を任せた。


「愛香さん、おはようございます!」

「あら、お姉さんおはよう。今日も道場に行くよね?」


愛音と愛音を見送っていた愛子が愛香に挨拶した。


「まあ、愛音は?」

「今日も仕事で忙しい。」

「そ、そうか…。そうだね。大人だもん。」

「…?」


愛子は首を傾げた。愛香の話の意味がわからなかったから。姉の気持ちがお見通しの愛音は、黙って姉の話の続きを待っていた。


「えっと、今日の留守番、私に任せたら?」


なんでもいいから役に立ちたい。家族の力になりたい。そのためなら留守番でも、家事でもやる。


「本当にいいの?」


姉より大人の愛音は、姉の選んだ道が心配。だって、誰もがお金を稼ぐ前に、お金を使う。何かを学ぶため、上手になるため、ずっと待ち続ける。キャリアを積むには、時間がかかる。そうすればきっといつかそれ以上を探せるはず。


でも、今の姉は、仕事探しに焦ってばかり。一番大切なことを忘れてる。


愛音は姉に遊んでほしい。いっぱい人生を楽しんで、やりたいことを見つけ出して欲しい。夢が出来たらきっと、勉強に努めたり、キャリアプランを立てたりするのも楽しくなるはず。


「道場に行かなくてもいい?」

「いや、その、今日は別にいきなくないし…。」


『行きたくない』が『生きたくない』と聞こえて、胸が辛い。


「もう、いいからいってらっしゃい!」

「ちょっと、お姉さん!」


愛香に押された愛音は、家の外へ出された。愛音は手を振ってる愛香を切なく見つめて、そっとため息をついた。


「さて、今日は私に任せて、愛子もみんなとお出かけー。」

「愛香さぁん。」


振り向いた愛香はぴっくり。腰に手をあてた愛子が、唇を尖らせていた。


「な、なんで?」

「どうしてなんですか?」

「私が、なにか…?」

「留守番ですよ、るすばん!もう、一人で大丈夫なのに!」


愛香は胸を撫で下ろした。これは答えられる範囲。もし、仕事のこと聞かれたら、絶対話せない。胸も痛いし、今まで何度断れたか数えたこともないし。


(話せ、ない…。)


愛香の瞳が震えた。


(家族なのに、話せないなんて…。そんなのおかしい。)


その一瞬、愛香は悩んだ。悩み続けた。胸の奥に隠してる痛みを、姪に吐いていいのか。自分のため、この子に何か背負わせる自分を許せない。そう決めた時、愛子は話し出した。


「私たち、家族でしょ?」

「え…?」

「私、お母さんに教わりました。家族は、ただ血が繋がってる者じゃない。」


『夫婦』は血が繋がってない。なのに、お互いを家族と呼ぶ。その理由はきっと…。


「支えあい、分かち合い、笑いあえるから。辛いことも、悲しいことも、話し合えるから。」

「愛子ちゃん…。」


私の人生を一緒に担いでくれる人。悩み事を聞いてくれる人。一緒に泣いてくれる人。人はそれを『家族』と呼ぶ。


「家族に嘘はつかない。嬉しさも悲しさも隠さない。だからこそ信じあえる。」


学校や会社では、本音と建前の間でさまよっても、家に入った瞬間、人は素直になる。家族の懐に抱かれて、心から笑える。


「愛香さん。私たちは、本当の『家族』なんですか?」


愛子は問いかけた。今の私はこの子の前で心から笑えるのか。素直な気持ちを隠すため、自分の行動に夢中になったから、姪に本音をばれてしまった。


「私はー。」


愛香は拳を握りしめた。そうじゃないと、なぜか世界が滲んでしまいそうで。


「ーなにもできないじゃん。」

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