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クロスタイム・マジプロ!第2部~セイレイの炎~  作者: 異星人
第3章 過去を乗り越えて、未来を抱きしめて
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第五話 ≪Fifth Fire。モード・ナイト、ウィルヘルミーナ(3)≫

フレームエンプレスは、ウィルヘルミーナの心を折りたい。絶望したウィルヘルミーナが、座り込んで泣くまで心を踏みにじってあげたい。


フレームエンプレスは知ってる。独りぼっちは倒れやすい。ずっと一人で、家族の血を求めたくなった自分みたいに。


そう、一人は苦しい。一人じゃ生きられない。だから倒れて欲しい。もがいてほしい。自分みたいに、泣き叫んで欲しい。知ってるからこそ、ウィルヘルミーナはもう…。


「…すか?」

「は?」


フレームエンプレスの笑みを割れたのは、ウィルヘルミーナの質問だった。


「なんで自分が幼稚園でいじめられたのか、知ってるっすか?」


ゆっくりと問いかける声には、怒りなどこめられてない。むしろ、彼女はいつもよりずっと落ち着いていた。


「当然のこと。あんたが蝉を見て、怖がって、泣いちゃったからー。」

「違うっす…。」


ウィルヘルミーナがそっと笑った。


「全部、違うっす。」


拳を握りしめた。


「あなたは、何もわかってない。」


顔を上げたウィルヘルミーナの瞳にこめられてるのは、『自信』。


「人の目など気にしない。自分が大切にする人を、その価値を知ってるから…!」


なぜだろう。変身もしてないのに、ウィルヘルミーナの周りに赤いエネルギーが集まった。赤をまとうウィルヘルミーナから、彼女を捕まっていた黒い手が消えていく。


「この思い、愛する人に伝えるっす!」


カードリーダーも使ってないのに、ウィルヘルミーナの姿が変わった。現れたエリミネートを見て、フレームエンプレスは悲鳴をあげた。


「ふざけんな!一生、独りぼっちだったくせに!」


それは自分にいうことでもある。


一人は倒れる。それは当たり前。


自分だってわかる。誰もない地面のしたで、一人で震えていたから。


だから、ウィルヘルミーナは立ち上がってはならない。


同じ立場の彼女が立ち上がると、フレームエンプレスは…。


「そうっす、独りぼっちだったっす!」


みかさが言った通り、堂々と叫んだ。愛子が言った通り、自分を大切にしながら。


「みんなが蝉を捕まえた時、もてあそぶ時!『殺さないで』って言ったから!」


ファーブル昆虫記を読んだみんなが虫を採り、標本を作ろうとした。そんなことしてはいけないととめた。


町のみんなは一つ。なのに、ウィルヘルミーナが子供らの意志に逆らった。だから、みんなウィルヘルミーナをいじめた。


「地面の下で眠っていた蝉が、やっと歌える曲を聞きたいと行ったから!」


フレームエンプレスはなにも言えなかった。一人で寂しく誰かを待っていた蝉が、なぜか自分のように見えてー。


「でも!」


赤い炎がエリミネートを包み込んだ。それは、フレームエンプレスとは違う、暖かい炎だった。


「自分が間違ったとは思わない!」


エリミネートと共鳴し、ルビーで飾られた王冠が現れた。


「モード・ナイト!」


赤い炎がふきすさぶ。その中から、エリミネートが現れる。一歩を踏み出すと、周りの炎が湧き上がる。


「そう、その赤…。」


フレームエンプレスは、歯を食いしばった。


「その麗しい色が相応しいのは、私だけなのよ!」

「はあっ!」


フレームエンプレスがとびかかった。エリミネートも地面を蹴り、前へ進んだ。



「みつけた?」


みかさは首を振った。


「ミナン、いったいどこへ…。」


昼休みはもうとっくに終わった。でも、ウィルヘルミーナは教室に来なかった。クラスメートに聞いてみても、『え、一緒じゃなかった?』みたいな感じ。


(そりゃそうだけど…!)


いつも三人で一緒。そう決まっていた。でも、今日は違うから…。


(いや、全部俺たちのせいだろう。)


みかさは歯を食いしばった。


(あんな表情した奴を、一人にしちゃった。くそ…。)


みかさが拳を握りしめた。すると、青き風がみかさをまとい、空間を圧倒した。吹き荒らす風が木々を揺らせた。木々の影も揺れた。


…一本の木のカゲを除外して。


「あれは…。」


風から異変を感じたみかさが近づいた。風にも動かない影。手の伸ばし、指に振れた瞬間ー。


「クッ!」


指先から赤い炎が湧き上がった。


「みかさちゃん!」


悲鳴を聞いた愛子が走ってきた。


「大丈夫?」

「あれ…。」


みかさはよろけながら後ろに下がった。


「ただの影じゃねえ。」

「それって、もしかしたら!」

「ああ。あいつがあぶねえ。」


愛子はどうすればいいかわからないまま迷った。


「じゃ、私が変身して、クラッシュ・ザ・シャドウで!」

「だめだ!この中の空間まで破れたらどうする!」


みかさが顔をしかめた。


「そ、そんな…。」


愛子は唇を噛んだ。悩んでる暇はない。そう決めた愛子はポケットに手を突っ込んだ。


「愛香さんに聞いてみよう!」


愛子がスマートフォンを持ち出す寸前、みかさが愛子の腕を掴んだ。


「それなら、テレパシーの方がはやい。」

「テレパシー?」


みかさは答えず目を閉じた。強く願えば、思いは届く。教わった通り、みかさの心に、愛香の声が響いた。


『あら、みかさちゃん?もうテレパシーの使い、上手になったわね。』

『愛香さん、大変です!』


みかさは今までのことを簡略化して話した。愛香は真剣にみかさの話を聞いた。


『カゲの中に入る方法、ありますか?』

『わからない。私が作った影じゃなく、フレームエンプレスの力で作られた空間だから。ただ…。』


迷う暇もない。愛香は急いで思いを届けた。


『昔々、私も異次元に閉じこまれたことがある。あの日の私は、糸で神君と繋がっていて、神君が私を見つけ出してくれた。』

『でも、いまはなんにも…。』

『思いは繋がってる。そうでしょ?』


あの日の愛香は信じた。目に見えない、次元のかなた。待ってくれる神がいる。きっと神なら、何があっても探し出してあげる。異空間に飛ばされ、私が私を忘れることがあっても。


愛香を導いたのはただの糸じゃない。それは神との、仲間との絆だった。


『強く信じれば、思いはきっと届く!』

『思い…。』


愛子はみかさのそばでそわそわしていた。みかさが何も言えず、思い込んでるから。


(ミナンが心配でたまらないのに、どうすればいいかわからない…!)


泣きそうになった愛子の手を、みかさが急に捕まった。


「みかさ、ちゃん…?」

「繋がってる、絶対に!」


愛子はみかさに取られた手を見た。強く捕まえた手は血が通わなくて、真っ白になっていた。


(みかさちゃん、緊張してる。なのに…。)


愛子に大丈夫って言ってくれた。信じればいいって話してくれた。なら、その思いに答えるしかない。


愛子は落ち着いて、目を閉じた。深呼吸するたび、心から願った。


『答えて、ウィルヘルミーナちゃん…!』


二人の思いが天に届いたか。目を閉じて、祈ってる二人を桃色の光と青き風が共鳴した。光は地面に円を描き、風は二人を包み込んだ。その扉を開き、二人の戦士がカゲの中に飛び込んだ。



「ふざけるな…。」


自慢の赤い髪はめちゃくちゃ。唇が切れて、血が出てる。


生霊は思う。


この私が、町の一員でもない、ただの小娘に。


「私が押されてるはずがない…!」


歯を食いしばると、塩辛い味がする。これは多分、唇の血の味。傷だらけの体と向き合わされるたび、イラっとくる。


「ここは私の空間よ!」


映画館の席に座っていたカゲらが暴れだした。フレームエンプレスだけを相手にすれば勝てるかもしれない。でも、カゲがどこまでも追いかけてくる、こんな状況じゃー。


「マジプロ!」

「なっー!」


見上げた空は闇だらけのはず。なのに、桃色の光が映画館を射している。太陽のようにまばゆい光が降り注ぐと、カゲは目に見えない手に捕まえたように動きを止めた。


「クラッシュ!」


クラッシュの技は、愛子の力はー。


「ザ!」


誰かの心をいやす光。


「シャドウ!」


空から降りてくるクラッシュと、彼女より数歩早くカゲを射貫く力。


映画館には光がない。影だらけ。だからこそ、すべてのカゲは繋がってる。


一匹を貫いた光は、繋がってるカゲらに届き、やがて大いなる波動になっていく。


一瞬でいやされたカゲらは消えていく。明るい光の中、フレームエンプレスだけを残して。


「コノッ!」


死を呼ぶ炎と違い、優しい光は生霊に猛毒。どんどん広がる光から逃げるため、後ずさりしていく。


「逃がさないっす!」


エリミネートが後ろからフレームエンプレスを捕まえて、制圧した。倒れたフレームエンプレスの背が見える。エリミネートは片手でフレームエンプレスの腕を掴み、片手で彼女を押してる。


「ふざけんな…。」


そう、全力ではなく、『片手』で。


「放せ!」


高いプライドが壊れた瞬間、生霊は恥辱感で燃え上がる。


「エリミネート!」

「危ない!」


二人の声を聞き、エリミネートは後ろに下がった。手を離した時、フレームエンプレスは火花となって消えていた。


真っ暗な空間が破れ始めると、三人は入口へ飛び込んだ。気が付いたら、三人は学校のうしろがわにいた。


「だっ、大丈夫?」

「怪我はねえか?」


クラッシュとインターセプトは、エリミネートに近づいた。彼女の手を掴み、彼女の怪我を心配した。


今のエリミネートは、フレームエンプレスと同じ、めちゃくちゃやられてる姿。口の中から血の味がする。腕には青あざが出来てる。足はしびれてる。


でもー。


「大丈夫っす。」


エリミネートは笑顔で二人を向き合った。


「本当に、本当っす!」


咲き誇る薔薇のように、少女は笑った。言いたいこと全部言って、辛い思いを全部吐いて、もうなにも悲しくない笑顔で。


「そっか。」


二人は安心した。今度もウィルヘルミーナは、心から笑っていたから。

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