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クロスタイム・マジプロ!第2部~セイレイの炎~  作者: 異星人
第3章 過去を乗り越えて、未来を抱きしめて
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第五話 ≪Fifth Fire。モード・ナイト、ウィルヘルミーナ(2)≫

「今日は先約があるので…。すまないっす。」


今までウィルヘルミーナは愛されるため一所懸命だった。愛されるためなら、無理しても誰かの相談に乗った。


明日がテストだって、相談する子があるならいく。遠くから連絡が来てもすぐ走ってく。それがウィルヘルミーナの愛される方法。


(断ると、悪口を言われるかも知れないし…。)


いつも緊張して、心配していた。


でも、今日は違う。大切な友達が出来た。一緒にテストの勉強したり、大変なことがあったら支えあえる仲間が。


それだけなのに、なぜか安心。


不思議。昨日は愛されてるって感じでいっぱいだったのに、目の前の人たちにはなんの感情もない。『こんな人たちに愛されて、何が変わる。』と、運命の女神がささやいてるみたい。


「そ、そんな。私、勇気を出して声をかけたのに…!」


断れることは予想すりゃ出来なかった少女たちは、吃音で文句を言う。


「どけよ。」


みかさが前に出た。愛子もみかさに付いていった。


「嫌だって言ってるだろう?」

「で、でもぉ…。」


ゆいは愛子を見つめた。今度は愛子の罪悪感を利用する気。だって、自分は『あの二人とは違って』、愛子と同じ町で生まれ育てられたから。でも、愛子はゆいたちを通り過ぎて、ウィルヘルミーナに直行。


「テストどうだった?」

「まあまあっす。」


三人はそのまま教室を出た。扉を閉じる前、みかさはゆいたちに嘲笑をあびせた。


「な、なんなのよ、もう…!」


遠ざかる三人を見て、ゆいは悔しい顔をした。



「この私が、負けたと?」


フレームエンプレスは不機嫌。昨日、派手にやられる姿を世界中に見せたから。記事を読んだフレームエンプレスは、新聞をしわくちゃにして、焼きついた。


「姉でもない、あのガキどもに?」


右手から燃え上がる炎には確かな怒りがこめられていた。


「ふざけんな…。」


フレームエンプレスは、姉である愛香のコピー。愛香と同じ力を持ってる。いや、疲れない炎の生霊だから、きっと愛香より上。だから、一度やられたことは気にせずにいた。


だが、今は話が違う。愛香でもない、あの素人たちにやられるなんて。


「うそだ。きっと、なにかの間違いに違いない。」


そう、あのうるさい女なんか楽に勝てる。昨日の負けは、三人が一緒に攻撃してきたから。


「なら、一人ずつ倒せばよい。叩きのめして、二度と起きないようにすればよい。」


だが、フレームエンプレスが忘れてることが一つ。


昨日、モード・ナイトになったみかさに、一瞬フレームエンプレスも押されてた。それはつまり、彼女に匹敵する相手は、愛香だけじゃないってわけ。


「あの、フレームエンプレスさん…?」


思い込んでるフレームエンプレスを、フィルムが小さな声で呼んだ。その瞬間、フレームエンプレスが赤く燃え上がった。


「いや、さま!さまの言い間違いです!尊く気高いフレームエンプレスさまぁ…!」


フレームエンプレスの攻撃に死に損なった時から、フィルムは緊張していた。今だって、殺されないため一所懸命言い訳を探し出した。


「わ、私はただ、あの赤い娘の弱点をー!」

「弱点?」


フィルムの話を聞き、フレームエンプレスの見についていた炎が沈んだ。


「そ、そうです!あいつと戦った時に見た、あいつの過去です!」


跪いたフィルムは、空で手を振り、手の平に短いフィルムを作り出した。フレームエンプレスが手招ぎをすると、黒いフィルムが赤い炎に包まれ、フレームエンプレスのもとに飛んで行った。空にフィルムを並んだフレームエンプレスが、過去を読みだした。


「なるほど…。そんな生き方ってわけ?」


生霊は生き物の行き道を嘲笑った。


「そうだわ。体に怪我をするより、もっと大きな傷がある。」


翼を折っても、鳥は飛ぼうとする。でも、心が折れたら、鳥は空を見上げるともしない。羽一つにも手を出さずに、飛べないようにすることができる。


「ふふ、楽しみだわ…。」


フレームエンプレスは愛香と似た声で笑った。その真似が不気味で、フィルムは身を震えた。



昼休み。三人はそれぞれ弁当を持ち、中庭へと向かった。


「お腹が減って死にそうっす…。」


ウィルヘルミーナのお腹がぐうぐう鳴った。寝坊したため、彼女は朝ごはんを食べられなかった。


「な、今朝のことだけど。」

「え?自分っすか?」


目をパチパチしたウィルヘルミーナは、ふと驚いて頭をさげた。


「すまないっす!自分のせいで遅刻を!」

「そんなことどうでもいい。休み時間のことだ。」

「休み時間って…。北条さんのこと?」


オムライスを食べてた愛子がやっとお弁当を膝の上にのせた。


「そうだ、あいつらのことだ。あいつら気に入らねえ。無茶な頼みことをいうくせに、なぜあんな目をする。」


みかさが声を上げた。


「大体、なんでお前が誤る必要があるんだ。」

「ま、また自分っすか!?」

「堂々とあれ!なにもわるくねえだろう?特に、あのメガネのやつ…!」

「ちょ、みかさちゃん!しーっ!」


遠くから聞こえてくる声に、三人は口を結んだ。


「ハースタートさんって、ちょっとひどくない?」

「そうだよ。やっと勇気出したのに、すぐ断って。」


二人の文句に、ゆいはおとなしく、何気なく、でも傷ついたように話した。


「まあ、まあ。ハースタートさんも深い理由がー。」


そこまで言って、ゆいは涙を拭った。


「あるにせよ、あんな言い方なんて!」


主導権を取るのはゆい。だから、そばの子たちも空気を読み、ウィルヘルミーナの悪口を言った。


「声をかけるの、大変なことなのに。」

「全然わかってくれなかった。」

「まあ、確かに、ハースタートさんはマジプロは町の戦士でしょ?」


ゆいが手を口にあてて、優雅に笑った。


「なのに話を聞いてくれないって、戦士としての自覚がないかも…。」

「なっ、あのやろう!」

「みっ、みかさちゃん、我慢して!」

「でも!」


みかさが拳を握りしめた。愛子は彼女を止めるため、みかさの腕を掴んだ。


「喧嘩したら、困るのはミナンだもん!!」


みかさがふと、ウィルヘルミーナを振り向いた。ウィルヘルミーナは平気そうに手を振っていた。


「自分、大丈夫っす。本当に本当っす。」


みかさは上げていた腕から力を抜いた。あんな辛そうな顔を見たら、怒られないから。


「自分、水を取ってくるっすから!」


逃げ出すように教室へ向かうウィルヘルミーナを見て、みかさはため息を付いた。


「あれ、どう見ても『大丈夫』な顔じゃねえし…。」



「はあ、はあ…。」


逃げ出してしまったことより、大きな恐怖がウィルヘルミーナを包み込んだ。


後ろから聞こえる嘲笑い。でも、振り向いたら消えてしまう後ろの視線。後ろを見たら前から、前を見たら後ろから聞こえてくる幻聴。


「ううぅっ…。」


二人組の時、一人で片隅を目指した。利用されること知っても、明るい顔で向き合った。いや、明るい振りをしてきただけ。本当は、怖くてしょうがなかったのに。


「ダメっす…。自分、もう無理っすよ…。」


どうすれば笑われないだろう。それは決まってる。相手が望むまま、手のひらの上で踊ったらいい。なにも断れずに、ただ、いうことを聞けば…。


「お願いっ…。誰かっ…。」


ウィルヘルミーナは座り込んだまま、涙を流した。


「助けて…。」

「ちょうどいいだろう。」


愛香に似た、懐かしい声。でも、なぜか口調が強い。こんな声を出せるのはただ一人。


「せ、生霊!?」

「フレームエンプレスサマだろう。」


メガネを外していたウィルヘルミーナは、フレームエンプレスを見つかれなかった。よく見えない世界を探って、やっと木の上を見た瞬間ー。


「うっ…!」


影から出てきた黒い手に捕まえて、ウィルヘルミーナは影の中へ落ちた。



「目覚めたかい?」


気が付いた時は、もはや捕まえていた。でも、今日のフレームエンプレスはなぜか責めてこない。ウィルヘルミーナの目覚めを待っていたように、赤い唇を動き笑う。


「ここは…!」


黒い映画館の中、ウィルヘルミーナは座席に座っていた。逃げようとしても、動けないように捕まえたまま。


「ちょっと、あまり動くなよ。」


フレームエンプレスの声に、映画館に座っていたカゲたちが全員ウィルヘルミーナを振り向いた。


「前の席の人に失礼だろう!」

「くっ!」


フレームエンプレスがウィルヘルミーナの座席を蹴った。座席蹴っただけだが、それも変身してないウィルヘルミーナの体には大きなショックを与えた。


「おや、映画が始まるみたい!」


ウィルヘルミーナの隣に座ったフレームエンプレスはポップコーンバケットを持ち出した。


「あんたも食べる?」


ウィルヘルミーナは首を振った。でも、わがままなフレームエンプレスはポップコーンをウィルヘルミーナの口に押し詰めた。


「ごほん、ごほん…!」


やっと顔を上げたウィルヘルミーナが見たのは、スクリーンに映されてるのは自分の過去。蝉がの前で泣いている、小さな女の子だった。


「へえ、あんた随分泣き虫だったんじゃん。」


フレームエンプレスは何気なくポップコーンを食べた。


「蝉なんか、片手で殺せるのに。」


幼稚園の中。真っ赤なワンピースを着たウィルヘルミーナは、黄色い服を着てる友達の前で泣いていた。


「情けない。」


フィルムは続いて新たなシーンを見せた。ずっと独りぼっちのウィルヘルミーナを。


あてもなく漂う塵みたいに、どこの誰とも混ぜ合わせない少女を。


「あ、出た!いじめ!」


ウィルヘルミーナを取り囲んだ五人の女の子は、こう言った。


『これからあなたは、この町の人じゃない。』


あの日から女の子たちはウィルヘルミーナをみてみぬふりした。


怒っても、泣いても、許してくださいと跪いても。


「なんだ、殴らないの?」


期待に満ちていたフレームエンプレスの瞳が冷たく冴えた。


「殴らないのに、なにが苦しいという。つまらない。」


そう、女の子たちはウィルヘルミーナを通り過ぎた。透明人間のように無視した。話をかけてもただすれ違った。


「そろそろカウンセリング編か!」


そう、あの頃から相談に乗った。誰かと仲良くなるため一所懸命だった。


おしゃれになりたい女の子の話を聞き、母のネックレスを貸してやった。


女の子はそのネックレスを受け取った。ありがとうも言わずに。


次の日、誰もが女の子のネックレスを羨んだ。のりに乗った女の子は、ネックレスを返してくれなかった。


「これは面白い。あんたのネックレスを、あの子が奪ったよね?」


『返して』と言っても無視された。先生に言ったらむしろ、泥棒にされた。


親は泣いてるウィルヘルミーナを慰めた。そして、宝石鑑定書を持って学校に行った。


ネックレスを取り戻した。でも、みんなを怒らせた。


先生もあの子も、あの子の親も。町の全員を。


『あんな小さなことで、子供を責めるんじゃないぞ!』

『そうだ。ネックレスなんかのため、親が学校に来るとは。』

『だから外国人は!』


町のみんな、町の子供を守ろうと必死。でも、その『町の子供』に、ウィルヘルミーナはなかった。


冷遇されるウィルヘルミーナは、わけがわからない。


ウィルヘルミーナは、この町が大好き。この町で生まれ育たれた。


でも、子供もみんなウィルヘルミーナが嫌いという。大人もウィルヘルミーナが嫌いという。


ウィルヘルミーナの居場所は、どこにもない。


「そうか、だからいつも利用ばかりされたんだ。」


ポップコーンを食べきったフレームエンプレスは、空っぽのバケツを投げ出した。


「いじめられるべきだな。なんの役にも立たないし。」


フレームエンプレスは、こっそりウィルヘルミーナを見た。彼女は顔を上げずに、拳を握りしめた。ぶるぶる震える肩が随分気に入って、フレームエンプレスは、一言を言った。


「これじゃ、嫌われるしかないじゃん。」

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