第五話 ≪Fifth Fire。モード・ナイト、ウィルヘルミーナ(1)≫
夏休みであります。頑張って小説を完成させます。
嘘なる友情は、『絆』とは呼べない。
第五話 ≪Fifth Fire。モード・ナイト、ウィルヘルミーナ≫
ウィルヘルミーナは眠れなかった。胸がドキドキして落ち着けなかった。しょうがない。世界中の前で歌った後だったから。
(あっ、また再生回数増えた。)
三人のステージはニュースを超え、ユーチューブを含めた無料の動画配信サイトにも次々アップロードされた。一秒ずつ増えていく再生回数を見て、ウィルヘルミーナの鼓動が高鳴った。
(こっちのコメントはマジプロの話ばっか。他のサイトには…。)
コメントをチェックしていたウィルヘルミーナの顔が真っ赤に染まった。
(きゃ!ま、町の歌姫だなんて…!)
夕方から夜まで、ウィルヘルミーナはずっとずっと動画サイトの再生回数を数えたり、コメントを読んでみたりした。
(こんなに注目されたの、初めてっす…。)
登った太陽の光が窓越しにさしても、瞼は下がらない。ずっと思い出す過去に、部屋の天井だけまじりまじりする。
(ずっと、こんな日が続いたらいいな…。)
夜明けが来たから、ウィルヘルミーナはやっと眠りについた。そして、寝坊して遅刻してしまった。
「早くおりて来いよ。」
みかさが軽く髪を掻いた。
「もうダメっす!先に行ってほしいっす!」
「はあ?着替えなんか1分で終わるだろう?」
「もう、みかさちゃん、デリカシーがない!」
愛子が両手を腰にあてた。
「着替えには1時間以上かかるでしょ?」
「え、なんでそんなにかかるわけ?」
「当然のこと!どこへいたって注目されたい。一番可愛いって言われたい!それが女の子だけの特権!」
「げっ…。面倒な人生を生きてるんだな、お前ら。」
着替えなんかに5分以上がかかるなんて、みかさには想像できない。パジャマを抜いて、制服を着たらいいだろう。簡単なことを難しい方法で行おうとする二人が、理解できない。
「ううっ、ダメっす…。みかさちゃんの毒舌に胸が痛くて、メイクできない…!」
「つーか、俺のせいかよ?」
「みかさちゃん。こんな時は、お先に行ってくれることが言わない約束!」
「そんな約束した覚えねえ。」
「もう、早く!」
愛子がみかさの腕を引っ張った。みかさはため息をついた。愛子の手を振り払わずに、みかさは学校へ向かった。
ウィルヘルミーナよりはずっと早く来たけど、登校時間はもう軽く超えていた。二人がクラスに入ったのはもう1時間目。先生に怒られた後、席に座った。
(あれ?)
なぜか後ろの席の女の子たちがそわそわしいから、教科書を出した愛子は、後ろを振り向いた。でも、目が合う前、女の子たちは口をつぐいだ。
(気のせい、かな…?)
今のそわそわを説明するためには、愛子たちが学校に来る前、ホームルームの前の教室を見る必要がある。
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二人がウィルヘルミーナを待っていたごろ。学校は大騒ぎだった。
「ねえ、昨日のあの番組見た?」
「見たよ!大変だったよね!」
「被害が少なくてよかった。」
「全部マジプロのおかげだね。」
「あ、あの子たち!」
「そう、確かに木村さんと出来さんと…。」
「ザッハトルテさん…だっけ?」
「いや、それよりもっとカスタードみたいな名前だったんじゃ…?」
乙女たちは首を傾げた。だって、オランダ語の名前は、覚えられないほど難しい。なにより、町を一番にする親に育てられた少女たちに、外国人の見方をしてるウィルヘルミーナを気にする暇はない。
「ああ、そう!ハースタートさん!」
やっとウィルヘルミーナの名前を思いついた少女が笑った。
「ええ、どうしてわかるの?」
「だって、彼氏のこと相談に乗ってくれたし。」
「あなたが…?」
「ううん、ハースタートさんの方!」
話を聞いていた少女の友達が目を丸くした。
「へえ、確かにあんた、告白の前にすごく迷ったんじゃ。」
「そう、そう。相手の気持ちがわからないって。」
「うん、全部ハースタートさんのおかげ!」
話していた友達は、ちょっと腹が立つ。
「でもかれんちゃんだって行ってくれたんじゃん。『勇気を出して!』と。」
「えっ、違うよ。そういうゆいちゃんこそ、『きっとうまくなる』って。」
友達が、友達ではない相手に相談してもらった。そして、彼氏とうまくいったことも、全部あの人のおかげだという。友達どうしで、ちょっと気持ち悪い。
「いやいや、そんなこと言ってくれたんじゃなくてー。」
ご機嫌が悪い少女は、友達の話を『そんなこと』と言った。
「じゃ、なに?」
「知りたい!」
略して、『なに偉そうに。私たちの相談と同じレベルだったら、絶交だ。』
「『相手の気持ちがわからないなら、告白をエイプリルフールにしたらどう?』って!」
四月一日は、唯一に嘘が許される日。本音を告白して、もし振られたら『なんちゃって!』とごまかせる。
「す、すごいね。」
「確かに…。私もやってみようかな。」
今までウィルヘルミーナが相談した件は多い。だから、こんな形の話が、クラスずつ一つ以上あった。直接話を聞いた人も、寝たふりしてこっそり聞いた人もいる。
「私も相談してもらった!」
「意外と優しいね。」
「恋愛のアドバイスが得意らしい。」
誰もが同じこと思ってる:『私も相談してもらいたい。』だからみんな、ウィルヘルミーナが来るのを待っていた。
でも、今日はなぜか愛子とみかさだけ登校した。ウィルヘルミーナを待っていたみんなはこそこそ話をした。
一時間目が終わって、誰もが愛子たちに行った。恋愛に本気である何人は全力で走ってきて、みかさはあきれっ顔をした。
「ねえ、ハースタートさんは?」
「今日は一緒じゃないの?」
「は?なんだ、急に親しい振りして…。」
「ちょっと、みかさちゃん…!」
みかさの話を切った愛子は、みんなに説明を始めた。
「ミナン、今日はちょっと遅くなるかも。」
「ミナン?それって、ハースタートさんの…?」
「うん!」
愛子の明るい声に、ぼうっとしていたクラスメートたちがうなずいた。
「仲良しだね。」
「それって、一緒にマジプロやってきたから。」
「そっか、三人は戦士だし…。」
彼女らの話に、みかさはしかめっ面をした。
「なにが言いたい。」
「木村さんは、ハースタートさんに相談してもらったことある?」
「は…?」
以外の質問にみかさが眉をひそめた。その反応を、女の子たちは誤解した。まるで、間違った道を選ぶ人のように。
「そうか。木村さんは天才だし、相談なんかしなくてもいいかも…。」
うなずいた女の子が愛子を見つめた。
「出来さんはどう?」
「そうそう、あるよね?相談したこと!」
彼女らは『天才のみかさは相談するまでもない。だが、ただの愛子はウィルヘルミーナに相談してもらったことがきっとある』と思っていた。なんて失礼な人だ。
「相談?あるけど?」
ウィルヘルミーナがマジプロになる前、愛子とみかさはウィルヘルミーナと相談したことある。でも、それはウィルヘルミーナ自分の悩み。『神が』
ウィルヘルミーナが相談してもらっただけだけど。
『相談、とか、ただの話っす。聞いて欲しいっす。』
あの日のウィルヘルミーナはきっとそう言った。そしてたくさんの話を聞かせてくれた。町に対する自分の気持ちも、一番やりたいことも。
『ハースタートさんは、愛されることが、夢だね?』
愛子とみかさは、そっと聞いていてくれた。ただ待ってくれた。それが、ウィルヘルミーナに取って、最初で最高のカウンセリング。
『きっといっぱい、いっぱい愛されるよ!』
あの日の記憶は、ウィルヘルミーナに取って一番の宝物。
「やっぱりそうだね!」
でも、クラスメートの話に、その意味は色あせた。
「いいや、友達で。」
「そう、なんども相談に乗ってくれるでしょ?」
「うらやましい!」
「…な、お前ら。」
友達を大切にするみかさは、そんな話を聞いていられない。
「相談のため友達ごっこ?それって、利用するだけじゃねえか。」
『あいつが可哀そう』って、みかさはため息をついた。
「そんなことないよ!」
「そう、私たちは、ただ…!」
瞬間ー。教室の扉が開かれて、ウィルヘルミーナが姿をあらわした。狙いを定めた少女たちは、みかさを無視してウィルヘルミーナに走っていった。
「ハースタートさん、おはよう!」
少女たちがウィルヘルミーナを取り囲んだ。
「放課後にちょっといい?」
「そう、そう。相談したいことがあって…。」
みかさが立ち上がり、大声を出す前。ウィルヘルミーナはゆっくり答えた。




