第四話 ≪Forth Fire。モード・ナイト、みかさ(2)≫
「今年のまつりは、他の町との交流を深めるためだ。いままで人間を苦しめたデリュージョンの分身が来たら、全部無駄になるぞ。」
町は愛香を許した。だが、まだ愛香は町の外には許されなかった。だから彼らは沈黙した。愛香の味方にならずに、外の者と手をつないだ。
『個人よりは町のため。』それが彼らの生き方。
「ふざけんな!」
みかさはあきれ果てた。デリュージョンが今までやってきたことは、間違ったけど町のためであった。妄想帝国を思う存分利用した奴らが、今更『デリュージョンは町の平和のためだめ』って。
「手前らに愛香さんの何がわかる!」
みかさは歯を食いしばった。
「お前らが楽にしている間!中学二年生の人生を楽しんでる奴らの真ん中で!愛香さんは戦っていたんだ!」
ばえるため派手な服を買い、メイクのやり方を悩んでるうち、愛香は町のため敵に挑んだ。
実は、みんなと一緒にいたかった。カラオケで歌ったり、友達とウインドーショッピングしたかった。
だけど、愛香は遊ぶには強すぎた。みんなの運命を双肩に担うほど。みんな愛香を信じた。愛香を頼った。だから愛香は一瞬も安めなかった。
「今、お前らが生きているのも全部、愛香さんが戦ったからー!」
「やめて、みかさちゃん。もういいわ。」
愛香はみかさの言葉を切った。一瞬辛そうな顔して、また笑顔になった愛香はスタッフに誤った。
「ごめんなさい。私、みんなの気持ちが汲めなかったみたい。」
「ちょ、なんで愛香さんがー!」
「みかさちゃん。」
愛香はみかさを怒らせなかった。後ろからぎゅっと抱きしめて、ぬくもりを分かち合った。
「へいきだわ。夢なんかすぐ見つかるもん。」
「でも…。」
愛香はみかさの肩にもたれた。
「ありがとう、みかさちゃん。もう大丈夫。」
愛香は家に帰った。なるべく人に見つからないように、隣の山道を歩いて。みかさは落ち込んだまま、リハーサルを行うステージに向かった。
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町は大騒ぎ。まつりで浮かれてる。その明るさが大嫌いな少女が一人。
「うるさい…。」
ずっと眠りに落ちて、マジプロと戦った疲労を回復していたフレームエンプレスは、耳障りの歌声に歯を食いしばった。
喜びで満たされた、幸せがあふれる空気。我慢できないほど大きくなった歓声。そのすべてがフレームエンプレスには残虐な苦痛だった。
「歓声などいらない…。」
「娘、いや、フレームエンプレス様?」
「この世界を満たしていいのは、悲鳴だけなのよ!」
フレームエンプレスが皇座から立ち上がった。すると、熱い風が吹き荒んだ。その気迫に押されたカゲたちが影の中に逃げ出した。
「この歌、止めて見せる!」
赤い炎が湧き上がり、少女の体を包み込んだ。熱風に目が覚めなかった幹部らが、やっと皇座を見上げた。だが、もう消えてしまった少女の姿を見つけ出すことは出来なかった。
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「みかさちゃん、大丈夫?」
「ずっと元気ないっすね。」
先、スタッフと戦った後、みかさはずっとため息ばかりだった。
「愛香さんのことっすか?」
「大丈夫!次のステージはきっと一緒にー。」
「次はねえ。」
みかさが言い切った。
「俺、このステージを最後に引退する。」
「ええええええ!?」
愛子の目が丸くなった。この前、みかさが「ラストステージ」と言ったことを覚えてるウィルヘルミーナだけ落ち着いていた。
「最後は爆発のように派手な仕上げにしたかったのに…。」
「みかさちゃん。みかさちゃんは今だってー。」
愛子がみかさの手を取ろうとした瞬間、スタッフが入ってきた。
「もうすぐ本番だ。はやく出ていけ。」
「でっ、でも…。」
「関係者以外立ち入り禁止だ。さあ、早く!」
押されて行くながらも、愛子とウィルヘルミーナはみかさを応援した。
「ねえ、みかさちゃん。頑張って!」
「何があっても、笑顔を忘れずに!」
二人は遠ざかって、完全にステージの外へ押された。
「みかさちゃんを励ましてあげたいのに…。」
愛子が辛そうな顔をした。愛子だった、先愛香が否定された時、誰よりも辛かったから。
「元気出してください!」
「ミナン?」
「こんな時にはおいしいスイーツが一番っす!」
「スイーツって…。」
「最後のステージ、みんなでお祝いしましょう!」
ウィルヘルミーナは笑顔で手を伸ばした。ぼうっとしていた愛子は、ぱっと笑いながらウィルヘルミーナの手を取った。
「うん!最高のパーティーにしよう!」
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町に移動したフレームエンプレスは疎ましい笑い声がする方法へ向かった。幸せと言う濃度の違いはあからさま。道を迷うこともない。
「ねえ、聞いた?今日のラストステージ、木村みかさが出るみたい!」
「え、まさか天才ミュージシャンのみかさ?本当に?」
まっすぐステージを向かっていたフレームエンプレスの足元から、少女立ちの喜ぶ声が聞こえてきた。
「すごいでしょ!」
「お楽しみだね!」
少女らはステージに走って行った。ステージに迫ると、笑顔が増えてきた。
ステージの周りに広がるときめき。耳を苦しめる大きな鼓動。そのすべてが憎らしい。世界から消したい。
フレームエンプレスは地面を見下ろした。アイドルの歌が終わり、みかさやバンドがステージに上がっていた。
「ラストステージを飾ればこそ、炎だよね。」
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「ふう…。」
深呼吸したみかさはギターに手をあてた。みかさが指先でギターを弾こうとした瞬間、ステージライトが全部壊れた。
「なに、なに!?」
「どうなってるの?」
みかさを見るためステージを見上げていた人が全員後ろへ下がった。誰もがステージを見てるうち、みかさは空を見上げた。
「あいつは…!」
ニヤリと笑ったフレームエンプレスは空から降りた。彼女の手に集まった真っ赤な炎は、蛇の舌の色に似ていた。
「泣け、喚け、そして消え去れ!」
フレームエンプレスが炎を投げ出した。あちこちから悲鳴が鳴り響いた。
「いいだろう、もっと叫べ!」
みんな逃げ出した。ステージの上に立っていたバンドのみんなも。残されたのはみかさ一人。そして、捨てられたカメラ一個だけ、ステージをずっと写っていた。
「へえ、逃げ出さないのか。さすがは町の戦士。」
フレームエンプレスがみかさを嘲笑った。
「だが、おのれ一人ではなにもできないだろう?」
愛香は傷ついた。愛子とウィルヘルミーナはスイーツを買いに行って、足がうばわれた。あまりにもお客さんが多かったから。
「そう、そう。おとなしくしてなさい。私が全部焼きつくまで!」
「なあ、おれは…。」
みかさが拳を握りしめた。
「こんな風にラストステージを飾りたくなかった。やり残しのない、最高のステージを見せたかった。だからー。」
みかさが、カードリーダーを掴み取った。
「手前に邪魔させねえ!」
強い風がみかさをまとった。黒髪が青に染まり、自ら結ばれた。ふわふわが苦手なみかさのためか。インターセプトのコスチュームにはあまり飾りがない。ネイビーのハイネック5部袖ドレスを着て、インターセプトはフレームエンプレスに挑んだ。
「ハァーッ!」
インターセプトの拳がフレームエンプレスを狙った。ぶっ殴ったと思った瞬間ー。
「何がそんなに楽しい。」
フレームエンプレスは片手でインターセプトの攻撃を止めた。
「歌で何ができる。」
フレームエンプレスは手に力を入れた。
「歌で傷をいやせる?食べ物作れる?貧しいやつらを救える?」
みかさは慌てた。答えが見つからない。だって、自分だって歌いかくて歌うわけないから。
「歌、好きじゃないのね。」
「っ…。」
隙を見せたみかさに、フレームエンプレスは嘲笑した。
「透きじゃないならなぜ守ろうとする。」
言葉が見つからない。言い訳さえできない。今まで音楽をやってきたのは、すべて父の満足のため。
「なぜ、意味のないことをやり続けるのだ!」
「あああっ!」
蹴られたインターセプトが空から落ちた。地面にぶつかって、動けなくなったインターセプトを、フレームエンプレスは『情けないもの』をみるような視線で見下ろした。
「馬鹿馬鹿しい。あきらめるなら手を出さないと言ったのに。」
「ねえ…。」
「は?」
「あきらめ、ねえ…。」
フレームエンプレスは首を傾げた。きっと、指を動くことさえできないはず。なのに、インターセプトは体を動くため歯を食いしばってる。
「確かに俺には、夢なんかねえ。これからどうなるかもしらねえ。」
フレームエンプレスはインターセプトの話を黙って聞いていた。何をすればいいかわからないのはフレームエンプレスだって同じ。家族と一つになって、満たされたかったのに、姉に邪魔された。だからこそ、夢のないインターセプトの想いが少し分かった。
「まずまずわからん。ならば、素直にあきらめばいいだろう。」
「お別れ、を…。」
インターセプトが呟いた。
「ちゃんと、お別れをつけたかった。今までの、俺に…。」
音楽になにげなく『さよなら』を言われるように。やり残しのないまま、新たな夢に挑むため。
「そうじゃねえと、前に進めない…。」
人生という道。愛子とウィルヘルミーナは前にますます進んでる。友達の二人と一緒に歩くため、みかさは走らなければならない。今まで来た間違った道を全部記憶の中に結んで、新たな道を選ぶしかない。
「だから誓った。嘘なる夢から脱っして、誇らしい自分になる。」
立ち上がったインターセプトは、右手で左腕の傷を掴んだ。手のひらに赤くて暖かい何かがついた。
「一歩ずつ前に進む俺が、俺は好きなんだ!」
素直な気持ちを叫んだ瞬間ー。
夢にあこがれる声に、明日を望む心に、クラウンが共鳴した。
「これは…。」
散らばった宝石が輝き、真ん中のサファイアが光を放った。
「…答えてくれたな。」
『ありがとう』とささやいたインターセプトが、クラウンを持ち上げた。
「モード・ナイト!」
動きやすくなった服。きれいなドレスの夢をあきらめた、醜いワイドパンツ。どう見てもかっこ悪い。でも前とは比べないほど体が軽い。
「クッ…!」
サファイアが放った光がフレームエンプレスを包んだ。日焼けの痛みにフレームエンプレスは顔をしかめた。インターセプトはその隙を狙った。
「はあぁっ!」
降り注ぐ青い光。空から振る土砂降りが一直線に見えるように、インターセプトの力も果てしなく続いた。その中のフレームエンプレスは、まるで青の監獄の中の罪人。青く塗り替えった目の前を見て、フレームエンプレスは歯を食いしばった。
「ちっ!」
フレームエンプレスはインターセプトが放った光の隙間をすり抜けた。ようやく逃げ出したフレームエンプレスは、インターセプトを嘲笑った。
「クラウンの力を借りてもガキはガキ。頭のクラウンが可哀そう。」
その通り、クラウンをつけてもインターセプトはフレームエンプレスを捕まえなかった。でも、だからって安心すればー。
「マジプロ!」
「はあ?」
「クラッシュ・ザ・シャドウ!」
振り向いた瞬間襲い掛かる桃色のエネルギに、フレームエンプレスの目が丸くなった。素早く技から抜け出したフレームエンプレスの口から荒い息づかいが漏れた。
「覚えてろよ…!」
フレームエンプレスは炎となり消え去った。変身を解除したみかさは、空しい表情で空を見上げた。
「どうせやめようとしたが、思った以上に派手。まあ、父ちゃんのためにやってきたことだし、意味ないよな。」
「そんなことないっす!」
「は?」
みかさが後ろを振り向いた。同じく変身を解いたウィルヘルミーナが、地面に倒れてるカメラを見ていた。
「まだ、繋がってるから。」
ウィルヘルミーナの話を聞き、みかさはぼうっとした。
「あ、本当だ!」
愛子がスマートフォンを差し出した。
「見て、見て!まだ放送中!」
みかさもスマホを持ち出した。チャンネルを回すと、カメラと繋がってる景色が見えた。まだ、世界中と繋がってる。みんなが見守ってる。そう言ってくれるみたいに。
「ほら、みかさちゃん!」
愛子がみかさにギターを渡した。懐に抱かされたギターを見て、みかさは目をパチパチした。
「一緒に行こう!さあ、早く!」
みかさがギターを握った。唇を噛み、うなずいた。
「どうしますか。自分、楽器など弾けないっす。」
「じゃ、ミナンが歌ったら?」
「え!?自分が歌うのっすか!?」
愛子がピアノを、みかさがギターを弾き、ウィルヘルミーナが歌う曲。三人が呼吸を合わせる時間。音色を重ねるこの瞬間。一生、バンドのメンバーなんかなかったみかさに、友達とのステージは最高の想い出となった。
「今なら、ちゃんと言える気がする…!」
三つの弦をはじけて和音を作ったみかさは、右手を上げて世界中にさよならを告げた。
「バイバイ、みんな!」
みかさが手を振った。自分の過去にさよならを告げるため。未来を迎えるため。
そう、あれほどすっきりしたみかさは、初めてだった。




