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クロスタイム・マジプロ!第2部~セイレイの炎~  作者: 異星人
第3章 過去を乗り越えて、未来を抱きしめて
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第四話 ≪Forth Fire。モード・ナイト、みかさ(2)≫

「今年のまつりは、他の町との交流を深めるためだ。いままで人間を苦しめたデリュージョンの分身が来たら、全部無駄になるぞ。」


町は愛香を許した。だが、まだ愛香は町の外には許されなかった。だから彼らは沈黙した。愛香の味方にならずに、外の者と手をつないだ。


『個人よりは町のため。』それが彼らの生き方。


「ふざけんな!」


みかさはあきれ果てた。デリュージョンが今までやってきたことは、間違ったけど町のためであった。妄想帝国を思う存分利用した奴らが、今更『デリュージョンは町の平和のためだめ』って。


「手前らに愛香さんの何がわかる!」


みかさは歯を食いしばった。


「お前らが楽にしている間!中学二年生の人生を楽しんでる奴らの真ん中で!愛香さんは戦っていたんだ!」


ばえるため派手な服を買い、メイクのやり方を悩んでるうち、愛香は町のため敵に挑んだ。


実は、みんなと一緒にいたかった。カラオケで歌ったり、友達とウインドーショッピングしたかった。


だけど、愛香は遊ぶには強すぎた。みんなの運命を双肩に担うほど。みんな愛香を信じた。愛香を頼った。だから愛香は一瞬も安めなかった。


「今、お前らが生きているのも全部、愛香さんが戦ったからー!」

「やめて、みかさちゃん。もういいわ。」


愛香はみかさの言葉を切った。一瞬辛そうな顔して、また笑顔になった愛香はスタッフに誤った。


「ごめんなさい。私、みんなの気持ちが汲めなかったみたい。」

「ちょ、なんで愛香さんがー!」

「みかさちゃん。」


愛香はみかさを怒らせなかった。後ろからぎゅっと抱きしめて、ぬくもりを分かち合った。


「へいきだわ。夢なんかすぐ見つかるもん。」

「でも…。」


愛香はみかさの肩にもたれた。


「ありがとう、みかさちゃん。もう大丈夫。」


愛香は家に帰った。なるべく人に見つからないように、隣の山道を歩いて。みかさは落ち込んだまま、リハーサルを行うステージに向かった。



町は大騒ぎ。まつりで浮かれてる。その明るさが大嫌いな少女が一人。


「うるさい…。」


ずっと眠りに落ちて、マジプロと戦った疲労を回復していたフレームエンプレスは、耳障りの歌声に歯を食いしばった。


喜びで満たされた、幸せがあふれる空気。我慢できないほど大きくなった歓声。そのすべてがフレームエンプレスには残虐な苦痛だった。


「歓声などいらない…。」

「娘、いや、フレームエンプレス様?」

「この世界を満たしていいのは、悲鳴だけなのよ!」


フレームエンプレスが皇座から立ち上がった。すると、熱い風が吹き荒んだ。その気迫に押されたカゲたちが影の中に逃げ出した。


「この歌、止めて見せる!」


赤い炎が湧き上がり、少女の体を包み込んだ。熱風に目が覚めなかった幹部らが、やっと皇座を見上げた。だが、もう消えてしまった少女の姿を見つけ出すことは出来なかった。



「みかさちゃん、大丈夫?」

「ずっと元気ないっすね。」


先、スタッフと戦った後、みかさはずっとため息ばかりだった。


「愛香さんのことっすか?」

「大丈夫!次のステージはきっと一緒にー。」

「次はねえ。」


みかさが言い切った。


「俺、このステージを最後に引退する。」

「ええええええ!?」


愛子の目が丸くなった。この前、みかさが「ラストステージ」と言ったことを覚えてるウィルヘルミーナだけ落ち着いていた。


「最後は爆発のように派手な仕上げにしたかったのに…。」

「みかさちゃん。みかさちゃんは今だってー。」


愛子がみかさの手を取ろうとした瞬間、スタッフが入ってきた。


「もうすぐ本番だ。はやく出ていけ。」

「でっ、でも…。」

「関係者以外立ち入り禁止だ。さあ、早く!」


押されて行くながらも、愛子とウィルヘルミーナはみかさを応援した。


「ねえ、みかさちゃん。頑張って!」

「何があっても、笑顔を忘れずに!」


二人は遠ざかって、完全にステージの外へ押された。


「みかさちゃんを励ましてあげたいのに…。」


愛子が辛そうな顔をした。愛子だった、先愛香が否定された時、誰よりも辛かったから。


「元気出してください!」

「ミナン?」

「こんな時にはおいしいスイーツが一番っす!」

「スイーツって…。」

「最後のステージ、みんなでお祝いしましょう!」


ウィルヘルミーナは笑顔で手を伸ばした。ぼうっとしていた愛子は、ぱっと笑いながらウィルヘルミーナの手を取った。


「うん!最高のパーティーにしよう!」



町に移動したフレームエンプレスは疎ましい笑い声がする方法へ向かった。幸せと言う濃度の違いはあからさま。道を迷うこともない。


「ねえ、聞いた?今日のラストステージ、木村みかさが出るみたい!」

「え、まさか天才ミュージシャンのみかさ?本当に?」


まっすぐステージを向かっていたフレームエンプレスの足元から、少女立ちの喜ぶ声が聞こえてきた。


「すごいでしょ!」

「お楽しみだね!」


少女らはステージに走って行った。ステージに迫ると、笑顔が増えてきた。


ステージの周りに広がるときめき。耳を苦しめる大きな鼓動。そのすべてが憎らしい。世界から消したい。


フレームエンプレスは地面を見下ろした。アイドルの歌が終わり、みかさやバンドがステージに上がっていた。


「ラストステージを飾ればこそ、炎だよね。」



「ふう…。」


深呼吸したみかさはギターに手をあてた。みかさが指先でギターを弾こうとした瞬間、ステージライトが全部壊れた。


「なに、なに!?」

「どうなってるの?」


みかさを見るためステージを見上げていた人が全員後ろへ下がった。誰もがステージを見てるうち、みかさは空を見上げた。


「あいつは…!」


ニヤリと笑ったフレームエンプレスは空から降りた。彼女の手に集まった真っ赤な炎は、蛇の舌の色に似ていた。


「泣け、喚け、そして消え去れ!」


フレームエンプレスが炎を投げ出した。あちこちから悲鳴が鳴り響いた。


「いいだろう、もっと叫べ!」


みんな逃げ出した。ステージの上に立っていたバンドのみんなも。残されたのはみかさ一人。そして、捨てられたカメラ一個だけ、ステージをずっと写っていた。


「へえ、逃げ出さないのか。さすがは町の戦士。」


フレームエンプレスがみかさを嘲笑った。


「だが、おのれ一人ではなにもできないだろう?」


愛香は傷ついた。愛子とウィルヘルミーナはスイーツを買いに行って、足がうばわれた。あまりにもお客さんが多かったから。


「そう、そう。おとなしくしてなさい。私が全部焼きつくまで!」

「なあ、おれは…。」


みかさが拳を握りしめた。


「こんな風にラストステージを飾りたくなかった。やり残しのない、最高のステージを見せたかった。だからー。」


みかさが、カードリーダーを掴み取った。


「手前に邪魔させねえ!」


強い風がみかさをまとった。黒髪が青に染まり、自ら結ばれた。ふわふわが苦手なみかさのためか。インターセプトのコスチュームにはあまり飾りがない。ネイビーのハイネック5部袖ドレスを着て、インターセプトはフレームエンプレスに挑んだ。


「ハァーッ!」


インターセプトの拳がフレームエンプレスを狙った。ぶっ殴ったと思った瞬間ー。


「何がそんなに楽しい。」


フレームエンプレスは片手でインターセプトの攻撃を止めた。


「歌で何ができる。」


フレームエンプレスは手に力を入れた。


「歌で傷をいやせる?食べ物作れる?貧しいやつらを救える?」


みかさは慌てた。答えが見つからない。だって、自分だって歌いかくて歌うわけないから。


「歌、好きじゃないのね。」

「っ…。」


隙を見せたみかさに、フレームエンプレスは嘲笑した。


「透きじゃないならなぜ守ろうとする。」


言葉が見つからない。言い訳さえできない。今まで音楽をやってきたのは、すべて父の満足のため。


「なぜ、意味のないことをやり続けるのだ!」

「あああっ!」


蹴られたインターセプトが空から落ちた。地面にぶつかって、動けなくなったインターセプトを、フレームエンプレスは『情けないもの』をみるような視線で見下ろした。


「馬鹿馬鹿しい。あきらめるなら手を出さないと言ったのに。」

「ねえ…。」

「は?」

「あきらめ、ねえ…。」


フレームエンプレスは首を傾げた。きっと、指を動くことさえできないはず。なのに、インターセプトは体を動くため歯を食いしばってる。


「確かに俺には、夢なんかねえ。これからどうなるかもしらねえ。」


フレームエンプレスはインターセプトの話を黙って聞いていた。何をすればいいかわからないのはフレームエンプレスだって同じ。家族と一つになって、満たされたかったのに、姉に邪魔された。だからこそ、夢のないインターセプトの想いが少し分かった。


「まずまずわからん。ならば、素直にあきらめばいいだろう。」

「お別れ、を…。」


インターセプトが呟いた。


「ちゃんと、お別れをつけたかった。今までの、俺に…。」


音楽になにげなく『さよなら』を言われるように。やり残しのないまま、新たな夢に挑むため。


「そうじゃねえと、前に進めない…。」


人生という道。愛子とウィルヘルミーナは前にますます進んでる。友達の二人と一緒に歩くため、みかさは走らなければならない。今まで来た間違った道を全部記憶の中に結んで、新たな道を選ぶしかない。


「だから誓った。嘘なる夢から脱っして、誇らしい自分になる。」


立ち上がったインターセプトは、右手で左腕の傷を掴んだ。手のひらに赤くて暖かい何かがついた。


「一歩ずつ前に進む俺が、俺は好きなんだ!」


素直な気持ちを叫んだ瞬間ー。


夢にあこがれる声に、明日を望む心に、クラウンが共鳴した。


「これは…。」


散らばった宝石が輝き、真ん中のサファイアが光を放った。


「…答えてくれたな。」


『ありがとう』とささやいたインターセプトが、クラウンを持ち上げた。


「モード・ナイト!」


動きやすくなった服。きれいなドレスの夢をあきらめた、醜いワイドパンツ。どう見てもかっこ悪い。でも前とは比べないほど体が軽い。


「クッ…!」


サファイアが放った光がフレームエンプレスを包んだ。日焼けの痛みにフレームエンプレスは顔をしかめた。インターセプトはその隙を狙った。


「はあぁっ!」


降り注ぐ青い光。空から振る土砂降りが一直線に見えるように、インターセプトの力も果てしなく続いた。その中のフレームエンプレスは、まるで青の監獄の中の罪人。青く塗り替えった目の前を見て、フレームエンプレスは歯を食いしばった。


「ちっ!」


フレームエンプレスはインターセプトが放った光の隙間をすり抜けた。ようやく逃げ出したフレームエンプレスは、インターセプトを嘲笑った。


「クラウンの力を借りてもガキはガキ。頭のクラウンが可哀そう。」


その通り、クラウンをつけてもインターセプトはフレームエンプレスを捕まえなかった。でも、だからって安心すればー。


「マジプロ!」

「はあ?」

「クラッシュ・ザ・シャドウ!」


振り向いた瞬間襲い掛かる桃色のエネルギに、フレームエンプレスの目が丸くなった。素早く技から抜け出したフレームエンプレスの口から荒い息づかいが漏れた。


「覚えてろよ…!」


フレームエンプレスは炎となり消え去った。変身を解除したみかさは、空しい表情で空を見上げた。


「どうせやめようとしたが、思った以上に派手。まあ、父ちゃんのためにやってきたことだし、意味ないよな。」

「そんなことないっす!」

「は?」


みかさが後ろを振り向いた。同じく変身を解いたウィルヘルミーナが、地面に倒れてるカメラを見ていた。


「まだ、繋がってるから。」


ウィルヘルミーナの話を聞き、みかさはぼうっとした。


「あ、本当だ!」


愛子がスマートフォンを差し出した。


「見て、見て!まだ放送中!」


みかさもスマホを持ち出した。チャンネルを回すと、カメラと繋がってる景色が見えた。まだ、世界中と繋がってる。みんなが見守ってる。そう言ってくれるみたいに。


「ほら、みかさちゃん!」


愛子がみかさにギターを渡した。懐に抱かされたギターを見て、みかさは目をパチパチした。


「一緒に行こう!さあ、早く!」


みかさがギターを握った。唇を噛み、うなずいた。


「どうしますか。自分、楽器など弾けないっす。」

「じゃ、ミナンが歌ったら?」

「え!?自分が歌うのっすか!?」


愛子がピアノを、みかさがギターを弾き、ウィルヘルミーナが歌う曲。三人が呼吸を合わせる時間。音色を重ねるこの瞬間。一生、バンドのメンバーなんかなかったみかさに、友達とのステージは最高の想い出となった。


「今なら、ちゃんと言える気がする…!」


三つの弦をはじけて和音を作ったみかさは、右手を上げて世界中にさよならを告げた。


「バイバイ、みんな!」


みかさが手を振った。自分の過去にさよならを告げるため。未来を迎えるため。


そう、あれほどすっきりしたみかさは、初めてだった。

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