第三話 ≪Third Fire。一番星(5)≫
「なにもかも、気に入らないわよ!」
フィルムはイヤリングから不死鳥の羽を一個取った。そして、手のひらに置いた羽を吹いた。空から舞い降りた羽はフィルムの影にくっついた。
「沸き上がれ!ヤケタカゲ!」
「ヤケタカゲ!」
新たなカゲの登場で大変なことになった。
「はやく逃げろ!」
「押すな!」
カゲから逃げる人々は押して、押される。
「舞ちゃん、どこ?」
親は遊び場に走ってきて、子供を連れて逃げた。まつりを楽しんでいたみんなに『生き残りたい』という本能しか残ってない。
そのため、まつりは台無しに。倒れる店からおいしい食べ物が落ちた。割れたあかりから火がついた。
「あはははっ!妄想帝国を捨てた人間どもにお仕置きだ!」
みかさの唇が震えてきた。
「まつりを、町のみんなを…!」
みかさは空に手を伸ばし、風を掴んだ。すると、手のひらに青きエネルギーが集まり、カードリーダーになった。
「苦しめるな!」
カードを持ち出したみかさが、大きな声で叫んだ。
「マジプロ!時空超越!仲間を守れ、インターセプト・プロミネンス!」
みかさは青き風をまとった。インターセプトはハリケーンを蹴り、風の中から現れた。
「出たわね、マジプロめ!」
フィルムは笑った。それもそう。フレームエンプレスは大嫌い。だけど、彼女のパワーは本物。
「負ける気がしないのよ!」
フィルムが拳を握りしめると、ヤケタカゲの身に異変が起きた。ヤケタカゲから、炎に燃える赤い竜が生まれてきた。竜はヤケタカゲをまとい、カゲの楯となった。
インターセプトは歯を食いしばり、ヤケタカゲにとびかかった。だが、インターセプトの拳はカゲに届かず、竜に止められた。
「ヤケタカゲ!」
「くっ…!」
カゲが襲い掛かると、インターセプトは宙返りして後ろに下がった。空を飛んでるみかさをみたヤケタカゲは、拳を握りしめた。赤い竜が拳に宿り、そのままインターセプトを殴った。インターセプトは腕をあげて、赤い拳を止めた。
「どこみてんだ!」
「!?」
拳から赤い竜が出て、そのままインターセプトを飲み込んだ。
「きゃ!!」
悲鳴をあげたインターセプトは、たたきのめされて、地面に押し込まれた。
「あははは!無様なかっこうね!まつりなんか守ろうとするから、そんな目に合うのよ!」
フィルムはインターセプトを嘲笑った。
「大体、あんたはこの町の人でもないじゃない。なんで命かけて戦士とかする必要があるのよ?」
「ある…。」
「はあ?」
「意味、あるんだよ…。」
倒れていたインターセプトは、フィルムの声を聞き、指を動いた。震えは指から手へ、手から腕へ広がった。インターセプトは立ち上がった。
「この町に来て、みんなと出会い、仲間になれた。大切な人が増えてきたんだ。」
足が震える。右腕に力が入らない。
「愛香さんが町に『愛』を広げたから!」
それでも、戦わなかや。
「二人が『町を愛してる』って言ったから!」
インターセプトはよろめきながら、前に進んだ。
「俺は戦うしかねえんだよ!」
「馬鹿馬鹿しい。ヤケタカゲ、とどめをさしなさい!」
「ヤケタカゲ!」
ヤケタカゲが再び拳を握りしめた。赤い竜がその拳に向かう瞬間ー。
「はあああっ!」
「カゲ!?」
空からクラッシュが降りてきた。彼女は重力加速度を力に変え、カゲをそのまま蹴った。
「マジプロ!エリミネート・ザ・スレット!」
「グオオ!」
エリミネートが赤い竜を攻撃した。竜は吠えながら後ろへさがった。
「今だ、クラッシュ!」
「させるもんか!」
フィルムが木から降りてきた。彼女はすごいスピードでクラッシュを狙った。だがー。
「そうはさせない!」
「クッ!」
ストロークが彼女の前を立ちふさがった。
「これはこれは、女帝さまではないですか?」
「もうやめてよ、フィルム!」
「それはできません。こっちにも事情があるから!」
フィルムの体から赤い炎が燃えてきた。それは赤い竜と同じ力。フレームエンプレスからの生霊の炎。
「負けるわけにはいかないのよ!」
フィルムが拳を飛ばすと、ストロークがフィルムの腕を掴んだ。
「あら、それだけ?」
フィルムが嘲笑った。
「フエ様との戦いで無理したとは聞いたけど!」
フレームエンプレスの力は、ストロークの力と同じ。だから、その戦いで、ストロークは全身全霊で戦った。そして、その疲れがまだ体に残っていた。
「ここまで弱いとはな!」
「ああっ!」
「ストローク!」
ストロークが息を切らせた。落ち着いたストロークは、空に手を伸ばした。金色の光が彼女の手に宿った。
「あれは…!」
ストロークは金色の宝石がさされてるクラウンを持っていた。
「モード・ナイト!」
ストロークが金色のクラウンをつけた。すると、ストロークの姿が変わった。今までは可愛いフリルの戦士のようだったが、今は違う。スカートはワイドパンツに変わり、フリルが消えて動きやすくなった。
それこそ、騎士の姿で合った。
「はああっ!」
ストロークがフィルムにとびかかった。目に見えないスピードで、ストロークはフィルムを殴った。あっという間にやられたフィルムが倒れた。
「ストローク、すごい…!」
「クラッシュ、今よ!」
「あっ、はい!」
クラッシュは拳を握りしめ、カゲをぶっ殴った。
「マジプロ!クラッシュ・ザ・シャドウ!」
フィルムのカゲは闇に戻った。舌を鳴らしたフィルムはポータルの中へ消えた。
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「愛香さん、すごすぎ!」
「いや、それほどでも。」
「すごいっすよ!自分、モード・ナイトやってみたいっす!」
「私も!」
三人が騒ぐ間、みかさはずっと黙っていた。彼女はめちゃくちゃになった。まつりを切ない視線で見ていた。
「大丈夫。」
愛香はみかさの肩に手をあてた。
「今は遊ぶことばかり思いなさい。」
「でも、まつりはもう…!」
「終わってなんかないよ、一番星さん。」
愛香の指がどこかをさした。みかさは顔をあげ、つま先がさしてる人をみた。そこには、今朝折り紙の星をプレゼントした一年生がいた。
「お前は?」
「いや、あの、その、逃げようとしたけど、みかささん、あまりにもきらきらして…!」
「俺が…?」
みかさはちょっと驚いたが、すぐ落ち着いた。
「お前もバンドやってるのか。」
「え…?」
「ギターは教えられない。だから」
「違います!」
恥ずかしくて目を閉じたまま、少女が叫んだ。
「私、聞きました。みかささん、町のためにコンサートしてくれる、って。だから、やはり『一番星』にふさわしいのは、みかささんと思って…!」
他の町の人のみかさが、銀河の町のため、大切な人のため頑張ってくれた。決して屈しない意志と、それを誰かのため譲るやさしさ。
「その姿がまぶしくて…!」
「まぶしい…?」
みかさが呟いた。天才ミュージションと呼ばれたことはあるけど、ただそれだけ。だれもみかさをありのまま見てくれなかった。『天才』の下、しゃがんでるみかさを見つけてくれなかった。
みかさという星は、『音楽』の影の下、輝かずにいた。そう、音楽がある限り、みかさはみかさではない。普通の女の子にはなれない。
なのに、銀河の町にきて、マジプロになって、自分の手で戦って、誰かを守って…。そんなことは当たり前すぎて、『まぶしい』とは思えなかった。
「えっと、その…。」
「そう…。」
戸惑ってる一年生に、みかさが声をかけた。
「俺なんだ…。」
音楽という鏡を破った。すると、映るのはただ一人の少女だけ。
「俺は、『一番星』なんだ…。」
みかさは袋からフラスコを出した。その中には、大きな花が空を向いていた。
「お前、名前は?」
「に、虹ノあやです。」
みかさはあやの手にフラスコを置いた。
「探してくれてありがとう、あや。」
「…!はい!」
愛子たちは木の後ろに隠れて、みかさの笑顔を見ていた。決して消えない、可能性という笑顔を。
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みかさは丘を登った。丘の上には愛香がいた。愛香は座って、祭りをみていた。
「あら、みかさちゃん。」
愛香はみかさのため、少し右に動き、席を空いてくれた。みかさはおずおず近づいて、愛香のとなりに座った。高い丘から見ると、町が小さく見えた。見下ろした町を花火がキラキラに飾った。
「まつりはどうだった?」
「まあまあです。」
「ふふ、楽しかった?」
「ちっ、違います!」
空に花火の音が鳴り響いた。天を飾る光がみかさの顔を照らしてくれた。本音をばれたみかさは、頬を真っ赤に染めていた。
「あら、そうだったの?」
愛香が首をかしげると、黒い髪が鎖骨に触れた。風に揺れる長い髪と、優しい瞳。とても嘘などつけない空気だった。
「『好き』も『愛情』もありません。ただ…。」
みかさは唇を嚙んだ。視線を落とすみかさを、愛香はずっと待ってくれた。
「気になります。愛香さんが散らばった愛情がどんな形に咲いたのか。」
知りたい。見つけたい。二人が町を愛する理由。
「だから…。」
そう、これは『好き』じゃない。ただの好奇心。きっとそうだ、とみかさは何度もつぶやいた。
「聞かせてください、町のこと。ちょっとだけいいから…。」
恥ずかしくなったみかさは、小さな声で話した。そんなみかさを見ていた愛香は膝を曲げて座った。
「愛香さん?」
「おいで。」
「いや、そんな!私なんか!愛香さんに膝枕をしてもらうなんて!」
愛香はなにも言えず、足をそっと叩いた。みかさは愛香に圧倒されて、愛香の膝に頭を乗せた。
「昔々、空をさまよう星がいました。星は、人間の世界にあこがれて、空から降りてきて…。」
最初は緊張していたみかさだったが、すぐ安らぎを取り戻した。愛香の話が続くと、みかさは目を閉じた。美しい物語は、みかさをきらきらする夢へと連れてってくれた。




