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見える人  作者: 佐藤清春
新たな誘い/左肩を見つめる女
3/25

2-2


 ところで、僕にはもうひとつ気になることがある。それは犬についてだ。


 いや、とりたててどうという話でもないのだけど、なんとなく犬に見つめられることが多いように思えるのだ。街中を連れだって歩いていても僕だけを見ていたりするし、三人で歩いているときも大勢であってもそれは同じだった。


 犬は首をあげて僕を見る。えたりはしない。ただ、なにか言いたそうな顔をして見つめるだけだ。


 それが気になりだしたのは人にてきされたからだ。それも一人二人ではなく、おおよそ五、六人に言われたことがある。


 はじめに言ってきたのは五年前に別れた彼女だった(念のため書いておくと、その子は現実離れした物の見方をするようなタイプじゃなかった。どちらかというと僕よりシビアに現実を見ていたのだろう。だから、別れることになったのだ)。


「ほら、また見られてるわよ」


 彼女はそう言ってきた。


「私なんか見向きもしないのに、じっとあなたを見てるわ」


「は?」と僕は言った。「見られてる? なんのことだ?」


「気づいてなかったの? あなた、よく犬に見つめられてるのよ。さっきだってずっと見られてた。その前にもあったわ。今日だけで何匹の犬が見つめてたかわからないくらいよ」


「そうなのか?」


 顔を向けると柴犬がじっと見つめてる。引き綱をぴんと張られてもって動こうとしなかった。


「そっちを見てるのかもしれないだろ? 俺を見てるとは限らないじゃないか」


「ううん、違う。あれはあなたを見てるのよ」


 まあ、それでもかまわないけど。そのときの僕はそう思った。犬に見られたからといってとくに困ることはないのだ。ただ、それ以降そういう指摘が多くなった。さぎさわもえにも言われたことがある。


「あの子、ずっとあなたを見てるわね」


 それは雨の降る夜中にビールを買いに行ったときのことだった。飼い主を待っているのだろう、ポメラニアンが明るい店内を見つめていた。しかし、近づいていくと顔をあげた。彼女の言ったように僕だけを見てるようだった。


「なんで? 私の方はまったく見ようとしない。見えないのかな?」


 邪魔なしゃへいぶつがあらわれたとばかりに犬は首を伸ばした。それでも近づくと歯をき、毛を逆立て、激しく吠えはじめた。


「なによ、私のことは嫌いなの?」


 離れたたんにポメラニアンは鳴きやんだ。あしそろえ、さっきまでの興奮を忘れたように僕を見つめてる。


 ――と、まあ、それだけのことではあるのだけど、だいたいいつも僕は犬に見つめられた。いや、そういうのはよくあることなのだろう。なぜか犬に見つめられると感じてる人は多いのかもしれない。ただ、気にはなる。


 街灯が突然消えるなんてのを何度も経験してる身にとっては、このこと――犬に見つめられるというのも――なんらかのいん関係の内にふくまれてるのではないかと考えてしまうものだ。


 たとえば僕からでんが出ていて、それは電球にも影響をあたえ、犬もそれを気にしてしまうとか。まあ、そう考える根拠はまったくない。ただ、どのようなことであれ身のまわりに起こる現象に説明をあたえたいと思うのは人間のさがのようなものなのだ。そして、僕はそのせいこうが人より強いのかもしれない。


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