2話。ーー落とし穴にはご注意を。(後)
かなり遅くなりました。すみません。
「お嬢様。こちらの伯爵令嬢様はちょっと威張ってみたいお年頃だと推察致します」
ヤバイヤバイヤバイっ。私、セレーネにきっと玩具にされて精神的に甚振られて廃人になってしまうっ……。と思っていたら、侍女サンがそんなことを言った。……というか、まさかのセレーネ付き侍女だったのか!
「威張ってみたいお年頃……?」
セレーネが私から侍女サンに視線を向ける。明らかに私に興味を持ったような表情だったのに、侍女サンの説明であっという間に私から興味が逸れた。えっ嘘でしょっ。あのセレーネだよ? 玩具認定したら自分の思うように玩具にして相手が精神的にどんなダメージを喰らうかまできっちり見届けない限り、興味が失せないという傲慢かつ悪魔のような性格のセレーネだよ? 私から興味が外れるってセレーネの外見した別人?
「左様にございます。お嬢様もかつてのご自分を振り返れば、一度くらいはご経験があるはずです。自分が一番偉い人間だ、と」
「あら。私は偉い立場よ? 公爵令嬢だもの」
「ですが、お嬢様は公爵様より偉くない立場でしょうし、女王陛下の方が偉い立場でしょう?」
「それはそうね。成る程、確かに身に覚えがあるわ。リーネの存在を知る前はこの世で私が一番だ、と威張っていたわね」
「そういうことでございます」
「成る程。では私に対する暴言は不問に処します」
やった。なんだかよく分からないけど、不問になった。つまり無かったことに……ってアレ? この二人の会話、どこか変じゃなかった? ええと……。あ、そうか!
「なんで、女王陛下なんて言ってるの⁉︎」
そうよ、それよっ。この国は女王じゃなくて男性が国王をやっているはずでしょ! 何をおかしなことを! そう私が口にする前に。私付きの侍女が焦ったように私の口を塞いできた。物理的に。ちょっと失礼じゃない⁉︎
「し、失礼を致しました! 我がお嬢様は少々勉強不足でして……」
「あらあら、そんなことでこの学園に入って大丈夫なの?」
「た、直ちに旦那様にご報告をさせて頂きますので、ど、どうかお許しくださいませ」
「そう。まぁ不問にするから構わないけど、どちらの伯爵か存じ上げないけれど、お嬢様の教育不足は恥だと伝えておいてね」
「か、畏まりました! では、ご無礼を!」
私は塞がれた口にある手を何とか剥がしたいのに剥がせず、モガモガと言葉にならない言葉で抵抗しているというのに、侍女が勝手にお父様への報告をするから、とこの場から馬車へ引っ張って行く。どこにこんな力があるのよ、とは思うものの、あのセレーネから一刻も早く離れたいのは確かだから大人しく従った。馬車に乗り込むと、侍女が手を離す。ちょっと息苦しかったから良かったけど何なのよ、と問い詰めようとして睨まれた。
「ちょっと、何よっ」
怖いんだけど⁉︎
「お嬢様っ! 何度も何度も家庭教師からも旦那様や奥様からも諭されたはずです! この国に王子殿下は居ない、と。全く話を聞いていらっしゃらないどころか、この国を統治なされているのはエレクトリーネ女王陛下だと初歩の初歩である事すらご存知無いとは何事ですかっ」
えっ……。ど、どういうこと?
私がポカンとした表情だったのが分かったのか侍女が溜め息をついて言うには。
この国は男性の国王ではなく独身の……まだ二十代の女王陛下が統治していて、当然、女王陛下に子はない。ついでに言えば、と付け加えられたのは。
国王(男でも女でも関係なく)の子だから王子。国王の女児だから王女であって、王太子は次の国王と見做される存在で他の王子や王女から抜きん出た存在。そして王子若しくは王女が結婚して子が居たらその子は王孫と呼ばれる存在である。と、みっちり説明された。
えっ。
国王の孫でも王子とか王女とか言うんじゃないの? っていうか、女王陛下が治る国なの? えっ? この国ってあのマンガの世界じゃ……ないの?
そんな風に混乱していた私は、伯爵であるお父様にもの凄い怒られて、お父様直々の口頭試験に合格するまで学園は休学させられることが決定した。……そんなぁ。
そんな私は知らない。
あのセレーネ付きの侍女がマルティナで、私と同じ転生者で、誰にも聞こえないような声で
「落とし穴にはご注意を」
なんて呟いていたことを。
この日からおよそ半年後。私はようやく学園に復帰出来る事となり、その頃には前世の記憶とは違う世界だということも受け入れられたし、名前も外見もマンガ通りなのに、全然人を玩具にしないどころか、人から好かれるセレーネがそこにいることを知って、やっぱりここはよく似た別人がいる別世界なんだって思ったのだった。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
予告から随分遅くなってしまいました。
次は3話となります。前中後ではなくおそらく、1、2……といった形です。(3話は長めの構成予定なので)
多分6月末更新予定。