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1話。ーー退屈な日々は、もう終わり。(終)

所謂オムニバス方式を取りますので、1話はこれで終わりです。

「失礼します、お尋ねしたいことがありまして」


 此方から声を掛ければ件の男爵はジロジロと無遠慮に頭から爪先まで視線を向けて来ているのを全身で感じ取る。ややしてから値踏みするような視線が無くなり。


「まぁ忙しい身だが聞いてやらん事もない」


 ふぅん。完全に見下されてるのねぇ。さて、どうしようかしら。被災した男爵領への復興支援金を着服した証拠集めに調べたいけれど。


「まぁありがとうございます。よろしくお願いします」


 純朴な令嬢を装った後、帽子の下からチラリと視線を向けたらニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。何かの見返りを求めているようだけど、何の見返りが欲しいのかしら。


「失礼致します、お嬢様」


 そう言ったティナが男爵にそっと近づき「ここではなんですから……」 と言葉を濁しつつ誘導している。話しづらいことだと察したようだけど、どんな内容だと思っているのかしら。いやに下卑た笑みをティナにまで向けているわね。……あら。あちらに行くの? その場所は確かに一見人目に付きにくいから密談向きのように思えるけれど、わたくしを含めた一部の者には密談向きとは正反対の場所だと知っている……ああ、知っているからこそ、選んだのね。

 王城に勤める政務官達の憩いの場として三代前の国王陛下が作られた場所に誘導するティナに、やっぱりあの子を拾って良かったわ、と思うわたくし。リーネにはわたくしが本日、この男爵に近付くことは前もって話してあるし、リーネが側近を向かわせると言っていた時に、どうやって側近が居ても不自然ではない状況になれるか考えていたけれど。確かにそこなら問題ない。


 でも。

 ちょっとティナの鮮やかさに遅れを取っている気がして解せませんわ。わたくしの見せ場が無くてよ、ティナ。

 憩いの場として作られた此処は、人目を気にせずゆっくりと休憩するために、と三代前の国王陛下の御心とは裏腹に、密談向きだと判断されて使用されるようになったのは、それから数十年後のこと。代替わりされた二代前の国王陛下が頭を痛められたけれど、視点を切り替えて。それならば……と国政を私物化しようとする愚か者達を炙り出すための場となっている。もちろん一部の上層部しか知らないし、元々の目的の憩いの場として使用する政務官達だって多いから、ちょうどいいのだと思うけれど。

 ゆっくりとティナに勧められてテーブルに着いた男爵は、ニヤニヤと相変わらず下卑た笑みでわたくしとティナを交互に見ながら此方の様子を窺っている。ティナがこっそり「後はご随意に」 なんてわたくしに耳打ちをしてくるから、わたくしはようやく見せ場が出来た、と気分が高揚した。


「政務官様、お忙しいところにお時間を頂いて申し訳なく思いますわ」


 わたくしは、表向きは相手を知らないのだから、政務官様と呼びかける。この呼び方は正しくもあり間違ってもいる。政務官ではあるが、正しくは政務官の〇〇男爵様と呼びかけるべきだけど、当然相手の爵位も何も知らないのだからこのような呼びかけになる。


「まぁよいよい。国民のための職務だからな」


 まぁ表向きは立派ですこと。


「ありがとうございます。実はわたくしが親しくしている男爵令嬢様の領地で災害が有ったのですが……」


「ああ、あの男爵家か」


 まぁここまでは有名な話だから裕福な平民が男爵令嬢と付き合いがあってもおかしくない。目の前の男は鷹揚に頷く。


「それが……国から支給された復興支援金が目録よりも少ない、というお話ですの」


「目録?」


 そう。実は復興支援金だけでなく公的なお金を出すに辺り、目録というものを相手方へ渡すことになっている。普通は知っていることですが、わざわざ目録と復興支援金がきちんと合っているとのか、確認は取らないと思って今回の件が起きたのでしょう。

 そんなわけが有りませんのに。国から支給されたとはいえ、いくらが支給され、いつ、どこに、どれだけ支援金を使用したのか、帳面を付けるのは当然ですわよ。支給された金額と日時と持参してくれた国からの代表者は誰なのか、まで帳面に付けるのは領主なら普通のことですわ。それを何故、この男爵はポカンとした表情でこちらを見ているのかしら。愚か者にじっくりと見られたくないですわ。


 思わず扇子で顔を隠したくなって、裕福とはいえ平民だから……と扇子を置いて来たのを忘れていました。嫌だわ、顔が隠れませんわね。仕方ないですわ、このまま続けましょう。


「そうですの。もちろん政務官様もご存知でございましょう? 目録に記されていた金額よりも少なかったそうですの。それでどういうことなのか、男爵令嬢様が首をお捻りされましたが、領地の対応で手一杯のご様子に、わたくしでも出来ることがあれば……と此方に伺いまして調査をお願いしようとどなたかに依頼に参りましたの」


 あらあら、わたくしの話に顔色が悪くなっていらしてよ。分かりやすいお方ですこと。


「なんと! そのようなことが! 分かった。私が調査を請け負うことにしよう!」


「まぁ有り難いですが、お忙しい政務官様を煩わせることなんて出来ませんわ。それにもしやご病気ですの? お顔色がよろしくないですわ」


 いかにも心配してます、と表情を繕いながら顔色の悪さを指摘すれば、焦ったように「いやそんなことはない」 とかなんとか。見苦しいわね。さて、もうちょっと追い詰めてからティナにこいつを見張らせてリーネに伝えましょうか。


「うん? おや君は、女王陛下のご友人ではないか」


 さぁ、またどうやって追い詰めようかしら、なんて考えておりましたら……背後から嫌いな男の声が致しました。振り返りたくもないですが、わたくしのことはバレていますのね。リーネの友人、なんて嫌みたらしく言い出すのですもの。そして、この男が現れたのなら、ここまでですわね。

 ……ああつまらないですわ。折角目の前の獲物を追い詰めて楽しくなり始めたところでしたのに。


「まぁ、女王陛下のご側近様がこのようなところに。ちょうどよかったですわ。今、こちらの政務官様にご相談していたところでしたの」


 なんて微笑みつつ、簡潔に状況を伝えると


「では、その件はこちらが調査しよう。男爵も調査に協力してもらえるとか。ぜひ話を聞かせてくれ」


 なんて、優しく穏やかな笑みを浮かべて側近はわたくしが狙った獲物をあっさりとご自分の従者と共に連れて行った。ほんと、そういうところよ。嫌い。


「ではね、レーネ。女王陛下から君がやり過ぎないように言われて来たので、私を恨まないでくれよ」


 片目を瞑ってきた男にさっさと行け、と手で追い払ったわたくしは、呆気なく終わってしまったことに不貞腐れつつ、ティナを見た。


「連れて行かれてしまったわ」


「女王陛下の懸念では仕方ないか、と」


 リーネの命だものね。分かってるわ。でもリーネも酷いわ。わたくしそんなにやり過ぎないわよ。……多分。


「ティナ、帰るわ」


「アップルパイを焼いてありますよ」


 ティナの前世の記憶とやらで、甘すぎる生クリームだけのケーキに飽きていたわたくしは、ティナが作ったアップルパイやチーズケーキの虜。それで機嫌を取ってくる辺りがティナの有能さで。機嫌を直してあげることにした。


 後日。リーネがお忍びでわたくしの元に来た時に顛末を聞いたら。支援金は確かに男爵の懐に。そして支援金と共に命じた復興用資材が脆弱だったのは、発注ミスと分かった。どうやら別の場所に使う資材と復興用資材の数を間違えて発注したらしい。別の場所の資材は、簡単な椅子……ティナの前世ではベンチというらしい簡易な椅子用の資材で、それと復興用資材の発注を財務部の新人が間違えて発注したとか。数も用途も全然違うのに、誰も指摘しないということは気づいてなかったということだと発覚し、リーネは財務部の大臣を叱責したそう。まぁこれで、同じ間違いが起こらないようになればそれでいい、とお咎め無しにしたとか。

 まぁ、そうね。その辺が妥当ね。支援金を懐に入れた男爵は当然馘。支援金を何に使ったなんてどうでもいいけど、全額返せ、と国の境界近くにある鉱山で発掘作業をしているらしいわ。発掘作業って体力が無いとやっていけないらしいから給金は高いのよね。朝から晩まで発掘していても、価値の高い宝石なんて出てこないみたいだけど。


 そういえば、価値のない小さな宝石をどうにかしなくちゃね……。ティナの前世知識に役立つものってないかしら。






お読み頂きまして、ありがとうございました。

月1回更新出来れば良いなぁ……と思ってます。


ラストの側近の男性との関係はまたそのうち。


主人公は変わらないですが2話目から、所謂ゲスト(物語を進行する語り部役)が出ます(多分)。もしかしたら主人公目線のまま進めるかもしれませんが。(まだ具体的には何も考えてません)5話〜10話以内で完結します。尚、2話目からは学園に通います。

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