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1話。ーー退屈な日々は、もう終わり。(後)

 わたくしの髪色は目立ってしまうので、あちこち出歩くことが出来ない。

 これが、最初だった。


「じゃあ。ウィッグ作りますか」


「うい?」


 ティナの言葉が解らなくて首を捻る。


「ウィッグ。かつらって言うんですけど。私は令嬢に戻る気がないので髪をバッサリ切ったんですよね」


「そうね」


 マルティナが我が公爵家に来て直ぐの頃を思い出す。

 ティナの言葉遣いが直らないから、ちょっと元々のわたくし付きの侍女達の背後が黒いわね。それはともかく。


「その髪は、実はここにあります」


 どうやら自分で切った髪を公爵家にやって来る時に荷物に紛れ込ませて来たみたいだけど。そんなもの、何にするの。切った髪なんて、ゴミじゃない?


「実演する方が分かり易いかもしれないですね」


 そう言って、自分の切った髪を袋から取り出したマルティナ。侍女達がギョッとした顔をしたけれど、さすがに公爵家の侍女でも驚くわよね。わたくしも表情には出なかったかもしれないけれど、目を丸くした感覚があるもの。マルティナは近くの侍女に断って、髪を弄らせて欲しい、と言って。侍女がわたくしの許可を得て頷くと、髪を結う髪紐や髪飾りに使うピンを駆使して、あっという間に侍女の髪に自分の髪を付け足した。……えっ。付け足した?


「な、長くなった……」


「そうです。こうすると、髪が付け足されて長くなります。これをお嬢様の髪に同じ事をするんです。お嬢様の髪色と私の髪色は全然違いますけど。帽子被って、見えるところをこうして私の髪色にしたら?」


「……成る程。それだとわたくしだと解らないわね」


「つばの広い帽子をお嬢様ならいくつも持ってるでしょ。お嬢様の元々の髪、これを地毛って言います。地毛が見えなければ目立たないと思いますよ。あと、目の色は変えられませんけど、お化粧でちょっと雰囲気は変えられます」


 雰囲気を変える。

 わたくし付きの侍女達も、今度はマルティナの言葉遣いなどより話に引き込まれている様子。再び侍女の一人にお化粧を落とさせて、今度は化粧を施しているようで。少ししてから「出来た」 と言った侍女の頬や鼻の上に吹き出物が出来てた。……えっ? 綺麗な肌だったわよ?


「こうして、わざと化粧でそばかすを作っておけば、目よりもそばかすに視線が行きますからね。つばの広い帽子とそばかすで、益々お嬢様とは解らないと思いますよ」


 得意げな表情のマルティナに、これには侍女達も感嘆の声を上げる。こうしてマルティナは皆の心を掴んで、もちろんわたくしの心も掴んで、わたくし付きの侍女へと抜擢した。そんな過去を思い出しながら、ティナに変装を施してもらったわたくし。城内に勤める身内を訪ねて来た侍女を伴った下位貴族の令嬢という風情。きちんと城の門番にも挨拶して受付を済ませるわよ。架空の役人なんて作らない。きちんと城に勤めている人間の名前。リーネ付きの側近の部下は何人かが子爵・男爵位の子息・子女。二番目や三番目の者達ばかりだから、その姉妹になっておけば問題ない。向こうもリーネから名前を貸してくれ、と通達されているしね。


 さて。スムーズに城内に入ったわたくしは、案内人無しで大丈夫だと断って財務部へ向かう。ティナが無表情にシレッと付いてくる気配を感じ取りながら尋ねた。


「それで、どこまで調べてあるの?」


「調べてはないですが、例の男爵令嬢様に担当の方を伺っておきました」


 それを調べてるって言うんでしょ! と内心で溜め息を吐きつつ、男爵家に復興支援の金銭授受をした担当者の名前を聞く。同じ男爵位の財務部文官。一応、城内に勤める文官・武官の名前と顔は全て把握しているわたくしは、やっぱり財務部か、と息を吐いた。


「証拠集めかぁ」


「手っ取り早いのは、別件で捕まえて証拠押収ですかね」


「なんの件にするの?」


 ティナの案を否定する気はないので問えば、首を傾げた。そこまでは思いつかないみたいね。取り敢えず件の男爵の顔でも拝みましょうか、と財務部に近づいて行くと、わたくしに気付いて対応しようとこちらに来たのが、かの男爵だった。あらあら。向こうから近づいて来てくれましたわね。






お読み頂きまして、ありがとうございました。

次話(終)で終わります。

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