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1話。ーー退屈な日々は、もう終わり。(中)

 わたくしとリーネの間には連絡手段がそれぞれに分かれてある。通常の場合、緊急の場合、他者……それもわたくし達に悪意の有る第三者が間接的に関わりそうな場合、そして、直接的に関わって来る場合の四つ。今回は緊急の場合の手段で、これは鳥を使用する。王家が所有する鳥でとても賢く、教えられた場所以外には行かない。我が公爵家でも飼われている鳥は、まだ第一王女だった時のリーネからの贈り物。その鳥が戻って来るのが見えて、サッとティナが鳥の好物を準備する。侍女仕事も身に付いていて、益々ティナをわたくしの側から離せなくなっている。降り立った鳥が好物を啄んでいる間に、鳥の足から返信の書かれた紙をわたくしに渡したティナは、鳥を鳥籠に戻したと同時に去って行く。


「返事も聞かずに準備に行くなんて、気の早い事」


 などと独り言ちるけれど、ティナは返信の結果など知らずとも、リーネが来ると思っているのだと思う。実際、リーネは「疾く」 と短く返信してきた。直ぐに来てくれるらしい。馬を駆って来るだろうから馬丁に……と考える間もなく、ティナが全てやるだろう、とわたくしは些事を忘れた。それよりも、とティナの話に頭を巡らす。


「考えられる最初は、懐に入れた、という所か」


 王家からの支援が無い、という事は有り得ない。リーネはその辺りがとても厳しい。そうなると、一体、何処で支援金が誰の懐に入り込んだか、という部分。などと考えていると遠くで騒めきを微かに感じた。もうリーネがやって来たのだろう。

 女王陛下が前触れも無く訪れるのは、我が公爵家に限りよくある事。正確に言えば、前触れはわたくし自身が直接もらったし、ティナは直ぐに準備を始めて家令と筆頭執事には報告しているだろうから、我が公爵家の使用人が騒がしいのではなく、リーネが乗ってきた馬を落ち着かせるために騒めきが有るのだろう。


「待たせたな、レーネ」


 一歩一歩は淑女とは言えない程の大股で、もしかしたら男性よりも早いのではないか、と思える程の足の速さで優雅に大輪の紅の薔薇がやって来る。紅の髪に髪よりも黄色みがある朱色の目をした、我が国女王。着ているのは馬に乗って来たから乗馬服だが、普段からドレスなんて邪魔くさいと豪語している人だから、然程服は乗馬服と変わらない。色は髪と目の中間のような赤一色。それがまた良く似合う。赤は王家の色。王族は必ず赤い髪と赤い目をしている。だけど、わたくしが知る中でこれほど赤が似合う人は居ない。まさに王として生まれて来たような人。


 それが、エレクトリーネ女王陛下。


「あまり待っていなくてよ」


 わたくしはリーネに席を薦め、リーネが座ると同時に口を開いた。


「復興支援金が消えてるわ」


「……ほう」


 王家が復興支援金を出しているのは、ティナが話してくれた男爵領でしかない。リーネは目を細めた。詳しく、と言っているその目がティナを向いた。リーネの背後から静かに着いて来たティナがわたくしの後ろに立つのをわたくしも気配で知っていた。

 ティナが先程の話をリーネにも一言も違う事なく話す。


「尚、少々気になったので足を延ばしました所、届いた復興資材も費用に対して些か貧弱か、と」


 などと付け足す。全く、この侍女は面白い話を見つけて来るのが上手い上に話を引き込ませるのも上手いわね、とティナのシレッとした横顔に溜め息をついた。


「となると、城内だな」


「おそらくは、財務部でしょうね」


 リーネが城内に支援金を懐に入れた者が居る、と言う。わたくしは金庫番である財務部だと判断する。


「財務大臣は無い。私に忠誠を誓っている」


「そうね。それにリーネの怖さも知っている。……少々揺さぶってみましょうか」


「任せた」


 わたくしは、久々に退屈凌ぎになりそうだ、と頷く。リーネは来た時同様にサッと帰って行った。


「ティナ。あなたの腕を借りるわよ」


「ご随意に」


 わたくしの言葉に動揺すら見せないティナは、だいぶ可愛げが無くなってつまらない。まぁそれだけ我が公爵家の使用人達に鍛えられた、という事なのだろうから、それはそれで努力の甲斐があったということ。わたくしはニンマリと笑みが溢れた。








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