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5話。ーー弱者を泣かせる者はお仕置きです!(後)

 サンドルトが先王の落とし胤と公表し、エレクトリーネ女王陛下の異母弟であり王太子にもなれる立場としてノースを表舞台に立たせ、学園に通わせてもノース自身にやる気はないし馴染む気もない。そして周りもノースに関わる気はないし腫れ物扱い。更にはサンドルトの意を受けた護衛が侍っていて行動も制限されていたノースは日々を退屈どころか鬱屈して過ごしていた。息が詰まりそうで逃げ出したかった。だが護衛が四六時中付いているので逃げ出そうと走り出しても十歩で取り押さえられてしまう。不意をついたと思っても同じ。母も居ないので死んでしまおうかとも思ったが、刃物など手の届く範囲に無ければ高所に行くことも却下され、舌を噛もうとすれば躊躇なく手を突っ込まれて護衛の手を噛んでしまう。毒など入手も出来はせず、首を吊ろうにも細い紐ばかりで直ぐ切れる。馬車の前に飛び出せば身を挺して庇われる始末でもう死ぬことすら出来ない。

 そしてサンドルトに呉々もセレーネ公爵令嬢には近づかないように、と念を押して釘を刺された。どの人なのか分からないので護衛から顔を教えてもらったが、近づくこともない。何故彼女に近づいてはダメなのかノースは分からなかったが、セレーネの方が自分に近寄ろうとしていたのは、何となく察知していた。そんな折。

 食堂でランチを食べようとボンヤリ並んでいたノースの耳に。


「ロックオンんんんんん」


 という意味不明な叫び声が聞こえた。同時にセレーネがいつも連れている侍女らしき少女が正面から護衛に突っ込んで行った。


「え」


 ノースは思わず甲高い声を上げる。変声期が終わっても低い声にはならなくて未だに気になるこの声を学園で発したことは、無い。学園長には事情を話して許可を得ていたのに、なんて思考もあったけれど目の前で起こっていることの対処に頭が追いつかなくて呆然とする。

 尚、護衛もちょっと予想外だったのか侍女らしき少女を真正面から受け止めて……何故か口付けされていた。それは尚更予想外だったのか全身が止まっている。ノースも全く意味不明でどうしてよいか分からない所へ手を引っ張られて振り向けば、例のセレーネ。


「こっちに来て」


 小声で言われて信用出来る気がしてセレーネの後をついて行けば食堂の入り口の外。


「余計なことは聞かない。あなた、王族として、リーネの代わりに玉座に着く気がある」


「無いです」


「分かった。じゃあ信じて。必ず助ける。但し、この国には居られないかもしれない。それでもいいかしら」


「この状態から抜け出せるならそれでも構わない」


 それだけ聞きたかったの。そう言ったセレーネに戻って、と食堂に押しやられる。戻ったところで護衛がハッと意識を取り戻したように動いて侍女らしき少女を取り押さえた。


「セレーネ嬢! 彼女はあなたの侍女ですね! 何やら意味不明な叫び声を上げて突進してきたと思ったら男爵令嬢にあるまじき醜態! 私は王族であるノース殿下の護衛ですよ! これはノース殿下に対する不敬と見て間違いないか! サンドルト様に申し上げて罰していただく!」


「お待ちなさい。サンドルトなんかに報告しなくても構いませんわ。マルティナ。あなたは今、この時をもってわたくしの侍女を解雇しますわ。確かに令嬢にあるまじき醜態ですものね。いくらあなたがその護衛に一目惚れしたからといっても許されない醜態でしてよ」


 ノースは、たったこれしきのことで解雇なんて、と顔色を変えて、信じてと言ったセレーネの顔と侍女を解雇すると言われた少女の顔を見比べる。セレーネはツンと顔を逸らしているが、解雇を告げられた侍女の方は静かに、そして微かに頷いた表情を見せてノースはハッとした。これは何か意図があるのではないか、と。

 だからノースは無言を貫き、侍女が「畏まりましたお嬢様。解雇は受け入れます」 と頭を下げたことも黙って見ていた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。


次話は来月。

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