5話。ーー弱者を泣かせる者はお仕置きです!(前)
「城へ戻ろう」
エレクトリーネは即断する。セレーネもマルティナもその判断に否はない。御者にマルティナが声を掛けて即座に馬車に乗り込んで城へ。その車内ではエレクトリーネとセレーネが話し合う。
「先ずはサンドルトを捕えるか」
「無理ね。アレはもう気付かれたことに気付いているはず」
「だが」
「アレの思考からすればノースという青年は無事のはずだわ。だってアレはリーネ、あなたが手に入ればそれでいいのだから」
サンドルトにとって、エレクトリーネだけが己の世界。その周囲にいるエレクトリーネにとっての大切な人も国もサンドルトにとっては不要なもの。だからこそ早くエレクトリーネと結婚してエレクトリーネを国からも周囲からも引き剥がしたいと常々望んでいる。
だが、それはエレクトリーネもセレーネもそしてその他の臣下達もそれを避けていた。だから、サンドルトは婚約者のままで婚姻式の話が遅々として進んでいない。
国民や他国に対しては女王・エレクトリーネは未熟故にもう少し地盤固めをしてから婚姻式を行う予定だ、と発表している。その間にサンドルトとの婚約をなんとか解消したい、とエレクトリーネも考えているが周囲も望んでいるが。
優秀さが際立つだけに失脚もさせられず、後ろ盾である家も名門で瑕疵など見当たらず。サンドルトが他の女に血迷うような愚か者でもなければ失態を演じるような可愛げもない。いくら女王と言えどもエレクトリーネが結婚したくない、という理由で婚約破棄出来るわけがないから現状維持の状態。
抑々、エレクトリーネの婚約者はサンドルトではなくその弟のはずだった。サンドルトの弟はサンドルトと同じくらい優秀であったし、エレクトリーネのことを尊重していた。良い意味で執着もしておらず、良い王配になるだろう、と期待されていた。
ところが突如として病に罹り領地に引き篭もる事態に陥った。それ故にサンドルトが代わりとして婚約者になったという経緯がある。
……無論、サンドルトの弟は病で伏せったわけではなかった。エレクトリーネが密かに調べさせたところ、サンドルトの弟はサンドルトの罠にかかり歩けない身体にさせられていた。父親である当主も、サンドルトの行ったことを把握済みではあったがサンドルトに弱みを握られているらしく、諌めることが出来ない状態。
とはいえ、その辺を突っつく材料にしたくてもサンドルトが証拠を消してしまっているため、表向きは瑕疵のない家門として存在している。
当主もサンドルトの弟もそして嫡男でありサンドルトの兄もサンドルトに恐怖しているため、彼らがサンドルトを放逐するなり訴えるなりといった行動は取れないのもまた現状。
そういった事からもエレクトリーネはサンドルトを嫌っている。
セレーネは王配の座を手に入れたいという我欲は気に入っているが、そのやり方が気に入らないので嫌っている。
弟を失脚させたかったのなら、小賢しい罠を張らずに失脚させれば良かったのに……というのがセレーネの本心。そういった陰険なやり方が気に入らないので嫌っている。
あと、エレクトリーネが嫌だ、と言っているから反対という気持ちもある。
そして、国のためにはエレクトリーネが女王であることが大事だとも思っているので、サンドルトのことを排除したい、という気持ちはエレクトリーネ以上に強かった。
「弱者を攫い、自身の手駒にしようとするあの男は本当に性根が腐っていて嫌いですわ。弱者を泣かせる者はお仕置きをする必要がありますわね」
エレクトリーネと色々とサンドルトについて話し合いをしながら、セレーネはポツリと言葉を溢す。その声音は怒りが滲んでいた。
お読みいただきまして、ありがとうございました。