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3話。ーー退屈だから事件を起こしてみたらどうかしら。・5

 馬車が貴族と平民が暮らす領域の境で停車したところで、エレクトリーネがマルティナに問う。

 まだ馬車から降りないので普通に会話をしても外には聞こえないだろう。


「第二王子は私だったな? 第三王子はどのような者だ?」


「王妃の子ではなくメイドの子でノースという名。但し私は物語を全て読んでおらず、メイドがノースという国王の子を産んで育てている描写があるだけです」


「ほぅ。では、どんな場面でその王子のことが書かれた?」


 マルティナは、やはり女王でありセレーネの従姉妹であるエレクトリーネの頭の回転の良さに舌を巻く。そしてその場面を思い出すことにした。


「主人公は私の異母妹であるアンネリカだとは聞いておられますか」


「うむ。幼馴染がハレンズとか言ったな」


「はい。そのハレンズは私の知る物語では、貴族の血は受け継がない平民です。で。ハレンズはアンネリカが子爵家に引き取られた後、暫くは落ち込みます。落ち込んでいる時に王都の城下町を歩いていて人とぶつかります。このぶつかった相手がノースという第三王子。もちろんこの時はそのようなことは分かりません。ノースとぶつかって謝るハレンズと同じように謝るノースは仲良くなります。そしてアンネリカのことを打ち明けるハレンズと母親が病気で寝たきりであることを打ち明けるノースは、お互いが寂しいことに気付いて励まし合います」


 目を閉じてその場面のマンガを思い出す。

 思い出すと随分とご都合主義ではある。多分同じことを考えたのかエレクトリーネから訝しむ声が聞こえてきた。


「平民とはそんな出会って直ぐに家族が病気であることや幼馴染が居なくなったことなどを打ち明けるものなのか?」


 マルティナは、気持ちは分かると思う。貴族では家族が病気に罹っていることすら、親しい者に打ち明けるのも躊躇するものだ。どこから話が漏れて、どのように足を引っ張られるか分からないのだから極力弱みとなりそうなことは口にしない。


「そうですね。物語ですので話が都合よく進んでも問題はないのか、と」


「それもそうか。物語ならば都合の良いことも有り得るな」


 エレクトリーネは納得して話の腰を折り済まないと口にして続きを促す。こういう、率直に人に謝れるようなエレクトリーネのことをマルティナもセレーネも好ましく思っている。

 さておき。


「やがてハレンズはノースの母を見舞う機会を得ますが、病が急変し、ハレンズの居る前でノースの母は息を引き取ります。その直前、ノースの母はノースに父親を示す品を示しました。彼女は常にロケットペンダントを身につけていました」


「それは肖像画が描かれた装飾品のことか?」


「それにございます」


「あれは高価なものだぞ?」


 マルティナがロケットペンダントと言うと、エレクトリーネがそんなことを口にする。平民が手に出来るものではない、と言いたいのだろう。現実に高い品であることをマルティナも理解している。


「物語でも高価なものと表現されています。その高価なロケットペンダントを肌身離さず服の下に隠していたノースの母は死ぬ間際に、ノースに父親からもらった品だと告げました。亡くなった彼女からロケットペンダントを取り出したノースは、ハレンズと共に中身を見て、その肖像画が国王陛下であることに驚きます。ロケットペンダントには国王陛下の紋章も入っていて、第三王子であることがここで分かります」


「なるほど。王族は一人一人割り振られた紋章があるからな」


 そこはこの現実世界でも同じです。


「ただ、この場面は、ハレンズの過去を振り返る場面での話だからか、ノースという人物が居た事などは確かですが、どんな姿なのかという表現はなかったのです。もちろん母であるメイドもどんな姿なのか分かりません。ハレンズがアンネリカに会って、ノースのことを誰に話せば国王陛下に知らせてもらえるのか相談する、という場面へと続くところで、話は変わるのです。ですからノースのことは全く分かりません。その後の話は、主に私とお嬢様がアンネリカに意地悪をしていくことや、調子に乗ってお嬢様を怒らせた私がどうなるのか……という話ですので。尚、物語の私は怒ったお嬢様からどのようなことを言われたのか知りません。そこで前世は終わったので」


 長い長いマルティナの説明に、エレクトリーネはホウッと息を吐き出した。セレーネもだが、マルティナの語る物語に引き込まれていたからだった。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

次話は来月の予定ですが、ゴールデンウィーク中にストック作れたら早めに更新します。

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