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1話。ーー退屈な日々は、もう終わり。(前)

マルティナの話(ちゃっかり令嬢)とリンクしてます。


不定期更新

「退屈ですわ」


 はぁ……と大きな溜め息をつく麗しきご令嬢。目は涼やかでサファイアのような色合いをしている。その目に惹きつけられる者は老若男女を問わず多く。宝石を思わせるその目を更に輝かせるようなシルバーの髪は太陽の光を浴びればキラキラとしている。まるで髪が王冠で目がそこに埋まった宝石のよう。顔立ちはほっそりとしていて肌は白いのに頬は薔薇色に染められていて、生きた人形のようだが、その目の輝きを見てしまえば、生命に溢れた“人間”とはこのような目をしているのだろう、と誰もが断言するに違いない。

 しかしながら、そのご令嬢は溜め息を吐いていた。(尚、この溜め息が欠伸代わりだという事を知っているのは、彼女専属の侍従と侍女だけで、彼女を愛している家族ですら知らない)言葉通り退屈だから。


「ねぇ、マルティナ。何か楽しい事はないの?」


「セレーネお嬢様。私めの過去をご存知になられて、かなり楽しくされませんでしたか?」


「あれはあれで楽しめたわよ。でも、あなたの話によれば、まだまだ先の出来事でしょう?」


「まだまだ先と仰られますが、私めがセレーネお嬢様に拾って頂いてから3年が経ち、メイドから侍女へと昇格。それから2年でセレーネお嬢様付きの侍女。つまり、私めがこの公爵家に参りましてから5年の月日を迎えました。つまり。セレーネお嬢様は、今年の秋から学院へ通われ始めるわけですが?」


「そうだけど。だって、未だ半年も有るわよ。準備は既に終わっているし、制服も届いているわね。教えを受ける本……あなた曰くキョーカショ? アレも買ってありますわ。でもキョーカショとやらを見ましたら、既に公女教育で学んだ所ばかりでした」


「それはそうでございましょう。学院の1年目は基本のお浚いなのですから」


「オサライ?」


「ああ、ええと。日本の言葉でしたか。うーんと、見直しというか、やり直しです。習った事をもう一度やる事で、忘れていないか確認する事と、習っていない人が居るかの確認ですね」


「習ってない者が居る、と?」


「準男爵家の者及び騎士爵家の者は、一代限りの爵位故に、親が最初から教育を受けさせない事も有る、と。これは日本での記憶では無くて子爵令嬢として跡取り教育を受けていた際に、家庭教師から聞いております」


「まぁ、そういう事も有るのね」


 サファイアの宝石のような目を憂うように伏せるセレーネは、傍から見れば儚い様子だが、専属侍女であるマルティナは知っている。悲しみによる表情ではなく、怒りによる表情だ、と。


「セレーネお嬢様。お怒りは鎮めて頂けませんか」


「あら。どうしてわたくしが怒っていると思っているのかしら?」


「先程、私めが、子に教育を受けさせない親が居る、とお話致しましたからね。セレーネお嬢様は、おそらく親の怠慢だと思っておいででは? と」


「ええ、そうよ。マルティナの言う通り。教育放棄は親の怠慢だわ」


「ですから、お怒りを鎮めて下さいませ。きちんと説明致しますから」


「説明? つまり、事情が有る、と?」


「全ての家がそうだとは限りません。が、おそらく多くの家が私めが説明する事情の所為か、と」


「そう。では聞きましょう。話しなさい」


「畏まりました。先ずセレーネお嬢様には今更ながらの事でございますが、騎士爵というのは騎士見習いから騎士に、若しくは兵士から騎士見習いを経て騎士になった時に国から賜ります」


「そうね。貴族の子息や子女が騎士見習いから始まるのに対し、平民は兵士から騎士見習いに昇格してから騎士に昇格するわね」


「左様でございます。ですが、一代限りのもので子は平民になる決まり。そして準男爵というのは、平民が何か功を打ち立てて陛下より爵位を授けられるもの」


「そうね。例えば今から10年前に起きた飢饉において、とある商会が売り物のはずの食糧を全て無償で出した時がそうだったわね」


「はい。もちろん此方も一代限りのもの。子は元の平民になる決まり。さて、セレーネお嬢様にご質問です。子が平民になる事が決まっている場合、親はどうすると思いますか?」


「えっ? ……そうね。学問を教える?」


「いいえ。文字の読み書きは教えても良いでしょうが、それよりも仕事先を確保してあげる事、です。貴族は領地を所有していればその収入で暮らせますが、領地の無い貴族は所謂政務官として働く必要が有ります。騎士爵は騎士の仕事。準男爵は先程のセレーネお嬢様のお話でいけば、商会経営です。その子が必ずしも騎士や商人になるとも限らないので働き先を見つけてあげなくてはなりません。どんな仕事が子に合うのか。子と相談しながら探すのは一年や二年では決まらないものです」


「ああ、そういうこと、ね。つまり教育よりも仕事先の確保という事……」


「はい。またもう一つ。もっと簡単な話ですが。お嬢様も私めも身分差はあれど生粋の貴族です」


「そうね?」


「領地の収入や代々の当主が貯めて来たお金から家庭教師を雇う事が出来ます」


「……もしや、騎士爵や準男爵では家庭教師が雇えない、と?」


「はい。私めは元は子爵の娘ですが、男爵や子爵を相手にする家庭教師でも雇うのは一年は確実に雇います。その金額は……そうですね、セレーネお嬢様は公爵令嬢ですので。この公爵家の収入の正確な金額は存じ上げませんが、おそらく一ヶ月分くらいか、と」


「それを騎士爵や準男爵で支払うのは……確かに難しいわね。彼らの収入金額をきちんとは知らないけれど、エレクトリーネは騎士の収入が低い、と嘆いていた事が有るわ」


「そういう事です」


「そう。……それは確かに親の怠慢とは言えないわね」


「とはいえ、準男爵家の子も騎士爵家の子も学院には通わせません」


「えっ、じゃあ何故やり直しになるの? 忘れている所が有るかどうかという確認?」


「それと、私めの元実家はそれなりに収入が有りましたが、男爵家や子爵家では、収入が低い所や借金を作る所も有るから、ですよ」


「借金?」


「4年前にございましたでしょう? とある男爵領が水害に遭ったことが」


「でもあれは王家が支援を」


「表向きは」


 セレーネは、その美しいサファイアのような目を細めた。退屈凌ぎに聞いていた侍女のマルティナの話が退屈から遠ざかる内容になったからだ。


(全く、この子は……。面白い話など無いとでも言いながら、きちんと面白い話を持って来るのだから。まぁだからこそ、引き取ったのだけど)


 セレーネは何も言わず、扇子をパチリと閉じる事で話を促す。


「確認は取れていませんが。一昨日、頂いたお休みの時に買い物途中、水害に遭った男爵家御用達()()()ドレス店の店員と()()知り合いまして。王家が支援したから復興が進んでいるのではないか、と尋ねました所、遅々としているらしくて男爵家からお嬢様のドレス一枚も買えない程、復興が滞っている、と」


 セレーネは即座にエレクトリーネへ先触れを出した。


 尚、先触れ内容として。

 『リーネ。水害の復興について耳に入れたい事あり』

 とメッセージも付けた。家令をベルで呼んでから急ぎ王城へ先触れを、と命じる。マルティナの話が真実ならばとんでもない事だった。


「本当にあなたは面白いわね、マルティナ」


「お嬢様にそのように仰って頂きまして、光栄にございます」


 シレッと礼を述べる自分の侍女のどこ吹く風のような表情を軽く睨め付けて、セレーネは返信を待った。








お読み頂きまして、ありがとうございました。

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