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番外IF編・双子は仮想の姿を得る【3/4】

書きたい物語を無理やり納める為、今回は長め。

『  :フェイント気味の攻撃本当苦手』

『  :これを見切るか』

『  :回復全然使ってない』

『  :だんだん正確になってない?』


 配信には慣れて来た。

 大量の視聴者を前に平常心を維持する程度の度胸は付いて、伴って難しめのゲームにも挑むようになってきた。


「来る、いち、に」


 回避キーを軽く弾いて、フレーム単位の無敵時間で回避する。

 隙に一太刀、モンスターの巨体を見上げつつ距離を取る。


 双剣と軽弩弓の編成で、前衛の俺は後衛の指示を元に動く。

 至近距離ではモーションを視る事が難しいが、後ろで支援する人が指示してくれればタイミングはつかめる。


「距離」


「ん」


 マイクやスピーカー越しではなく、隣から声が聞こえているからこそ出来る事だろう。

 回避では凌げない範囲攻撃から逃れつつ、スタミナゲージの回復を待つ。


『  :見てて気持ちの良い連携』

『  :これが初見ってマ?』

『  :ようやるわ』


 初見のモンスターではあるが、注視に専念すればタイミングは覚えられる。精度は減るが、軽弩弓に火力は求められていない。


「ヘイト移った」


「ん」


 モンスターが一声鳴いて、よその方へ行った。

 明は罠を巡らせつつ逃げ回り、敵はダメージを蓄積しつつ隙を晒す。


 そろそろ弱る筈だが、と相方を追いかけまわすモンスターの尻尾を眺めながら回復アイテムを選択。


 準備を整えたらヘイトを誘導するスキルを発動して、少し前のと同じ状況へと戻す。ルーティンワークと化けた戦略の様な物は、俺達の性格を表している気がする。

 ……もう少しで倒せそうだ。


 ・

 ・

 ・



 モンスターハンティングが切りの良い所で終わって、普段通りの配信画面に戻る。

 今は慣れてしまったコメントの賑わいや、溜まりに溜まってしまったおひねり。しかし数字の大きさに身が震える感覚は未だに抜けず、もう数字を表示しないでくれとか思ってしまっている。


 他者から貰うお金と言う物の有難みと言うのは身に染みているが、それ以上に申し訳なさが目立つ。大量の視聴者に慣れても、ここだけは変わらなかった。

 なにせ、自分らがやっている事と言えば、多少媚びを売りつつ、あとは普段通りにゲームを楽しむ事だけ。それがお金になるのは、バラエティ番組のアイドルの様が得る人気と似た仕組みなのだろう。俺達がアイドルとか頭おかしい。


「それで、えーと。楽しかったね」


「そうだな」


 ……。


『  :無言』

『  :無言』

『  :むごん』

『  :コミュ障』

『  :しーっ』

『  :ちょっとみんな静かにしてー! ライトくんが何か言いたいことあるって〜!』

『  :キツい』


 話が詰まると、大抵こうなる。視聴者達も俺たち日慣れた様だが。


「えー、ではおひねりコメントを読み上げさせてもらいます」


 今でもお題の無い雑談は苦手分野だ。それを分かり切っていた俺達は、おひねりコメントに対して返事をするのを毎配信の通例とした。



「『エルちゃんにガチ恋して良いですか?』」


「雑音マイクさんおひねり感謝。ダメだ」


「ダメ。そう言うのは大人になってから。お酒と同じ」


「ファンタジーの世界だと、よく15歳成人制が採用されてるがな」


「郷に入っては」


「なるほど」


『  :俺だってガチ恋したい』

『  :むりむり』

『  :せめてアールを倒さないと』

『  :難関な事を言う』


 俺は結婚反対のオヤジ枠なのか……? 


 思わぬ所で知った視聴者からの印象に、多少の意外さを感じつつおひねりコメントを確認する。

 一つは他愛もない一言コメント。ラーメンが美味しいのなら他所のSNSサイトで呟けば良いと思う。

 もう一つは単純な応援コメント。普通に有難い。感謝と同時、精進する意を伝える。

 その他にもまだまだ……。読み切れるだろうか? 


 資本主義甚だしいが、金額順で20コメントだけ。あとは名前の読み上げで良いだろうか。

 或いは独断と偏見で選んでも良いだろうか。


 それは次の配信から決めていくとして……ようやく最後のおひねりだ。


「『参加型でパーティとか組みたい』」


「あー、ミルク味シェービングクリームさんおひねり感謝。……正直、あんまりお薦めはしないかな」


「二人プラス野良で組む事があったが、置いてけぼりだったな」


 野良とは言ったが、あの姉妹の家に訪問した時の事である。今でもPCゲームで、オンラインで会う事がある。

 色々な事があって仲直りには成功したから、四人パーティで双子姉妹が揃う事は叶っても、足並みを揃える事は出来ていない。


『  :チャンピョンしたい』

『  :一緒に狩りたい』

『  :ヴァンパイアとかどうよ』

『  :絵しりとりなんかは』


「まあ希望されたゲームで見繕うか。……絵しりとりか? 息抜きには良さそうだが」


「絵かあ……」


 絵を描くのは苦手だ。一人遊びに慣れた俺達だが、それはゲームばかりで絵はからっきしなのだ。

 ……それはそれでウケるかもしれないが。


『  :コラボとかしないの?』


 希望されるゲームの名前が列挙する中、ぽつんと一文、疑問を浮かばせるコメントが挙がってくる。


「んー……来るもの拒まず、けれど追いはしない。こっちから提案する事はまず無いよ」


「代わりに、申し出があり次第スケジュールに組む。無条件とまでは行かないが、それも双方への迷惑を掛けず、現実世界での干渉を避ける。っていう条件だけだ」


『  :王妃さまに会いたい』


「王妃さまは諦めろ。彼女は……そう、退位なされた」


 引退という言葉をなんとなく使いたくなくて、代わりに王妃らしい単語を言葉にする。

 王妃さまがもし現役だったとしても、俺達の方がゴメンだ。バグる。


『  :でもあの三人の誰でも良いから、コラボしてほしい……。けどどっちも完全受け身の態勢なの……』


「ふむ? ああ、なるほど。両者ともに待ちの態勢だと完全に可能性が無いのか。であれば、その場合に限り視聴者の要望と言うことにしよう」


 まあ要望が多ければこっちから打診しても良いだろう。向こう側へYESかNOを完全に委ねる形となるが。



 ・

 ・

 ・



 母の名声がおひねりとなって帰って来た結果、目標であったゲーミングPCの予算は直ぐに揃ってしまった。

 庶民的でかつ高校生の金銭感覚では気が遠くなる金額が口座に積まれたが、それの三割を費やしてプロレベルの物を購入した。

 序に改造やパーツの更新用に工具も。後は知識を仕入れれば、恐らくCPUの交換まで出来るだろう。


 自分の手で好きなように改造できると思うと、全能感がして心地良い。

 代わりに電気代がとんでもないが、まあこの収入で充てればいいか。


 ゲームを終了したら節電モードにして、電気代を抑えるくらいの事はしよう。

 大きな収入とは言え、元はと言えば母の力が強い。もし何かしらの切っ掛けでこの力を失っても良い様に、蓄えておくのが良いだろう。


「しかし、大変だな……。名声の相続というのは」


「こればっかりは相続税割り増しで良いかな。ホント」


 税で取り上げてもらったら、俺達に還元せず謎の支出として消えて欲しい。とも願う。


「とりあえず、コメント欄を単語検索に掛けて……あー、異名と正式名称を把握しないと」


「面倒だな。こっちのパソコンで纏めて置く」


「だったら、加えてその人の概要もついでに」


「勿論」



 調べていくと、コラボ相手の希望数で1人が圧倒している事が分かった。

 原始のVの一人である、名を「ブレント・ドレーパー」。バリスタの肩書を持つ男性だ。


 珈琲店を営む男、という設定なのだが、評判では技術屋という側面が強いらしい。Vストリーマーの企業、団体または個人の為に、技術アドバイザーの様な事をやっているらしい。

 配信に、あるいはゲーミングに適切なパソコンの選び方を教えたり、配信ソフト等の操作方法を教えている。


 といった活動をしているが、彼自身は何処にも所属していない。恐らくフリーターの様に、様々な所や人へ手を貸しているのだろう。


「……なんだか聞き覚えのある声だな」


「気の所為じゃ……なさそうだね。何処で聞いたっけな……?」


 身近な人、ではないだろう。俺達に関わりのある人物など、母の友人かクラスメイトくらいだ。


 まあ気のせいだろうという事にして、連絡を試みる。

 返信は、恐らく遅いだろう。彼に秘書かマネージャーの様な人が付いているのかは知らないが、彼ほどの人気者であれば毎日何通もメールが届いているだろう。


 ……と思っていたのだが、直ぐに返信がなされた。

 意外だ。原始のVというのも結構暇人なのだろうか。


 早速と読んでみる。


 ……。


 ……ふむぅ。バリスタさんも俺達の配信を見ていたらしい。原始のVと言うのは意外と暇人だったのか。


 ともかく返信の内容だ。


 簡潔に言えば、コラボに対しては賛成。協力を惜しまないという姿勢というのが伺える。

 伴って、コラボの具体的な日時や内容、ついでに個人的なコミュニケーションの為、打合せしたいとの事だ。最後に関しては俺達の都合に合わせるらしいが。


 さて、向こうの提案は当然の事乗るとして、それでは打ち合わせはどうしようか、と考える。ビデオ通話か、音声のみの通話で良いだろうか。

 まあ希望が無いのであれば音声のみの通話で良いだろう。そういう内容を書き込んで、返信。


 またしばらくすると、直ぐに返信が返って来た。内容は……。


 ……? 


「えーっと……住所?」



 ・

 ・

 ・



 怪しい。流石の歴戦のVが相手とはいえ、これは怪しい。

 平日休日問わず何時でも来て構わない、と言った添え書きと、この住所が送られてきた。


 場所は近い。通学路と比べればこの住所の方が遠いが、歩いて行けない範囲ではない。地図アプリで調べると、セキュリティが堅そうなマンションだった。


 高校生の俺たちとて、ネットとの付き合いは長い。よく謳われるネットリテラシー等と言った心得を身に付けている俺達としては、これは相手との縁を即座に切り、現実世界でも警戒するという選択肢も在り得る。


 しかし、知恵をこねくり回しても所詮は高校生。そして若者が決まって頼るのは、先人の知恵である。


 で、俺達は母を呼び出すことにした。




「どうしたの~?」


「相談だ。配信の」


「ちょっと厄介事が」


 顔を合わせて一番にそう言うと、母は陽気に笑って見せた。まだ最悪の事態ではないし、そういう雰囲気も出していなかったが、それにしては軽すぎる態度だ。

 思っているよりも厄介だぞと言わんばかりに咎める視線を送って、それから本題に入る。


「まずはこのメール。相手はVストリーマーのブレント・ドレーパー。同期だろう?」


「そうねぇ」


 母の前歴については、受け入れた。もうバグらない。

 当然の様に確認をとってから、そして本題に入る。


「良かった。それで、私達はこの人とコラボの打ち合わせをしようとしてたんだけど……」


「まぁ! 私も久しぶりに顔を合わせようかしら!」


「……その打ち合わせ場所の提案として、この住所が送られてきた。近所だ」


「そうなのねぇ!」


 ……。


 ……それだけ? 


「いや、なんかこう、もっと思う所あるでしょ!」


「そう?」


「近所だぞ、近所。俺達の住所が近い事を知ってないと、そもそもリアルで会いましょうって提案は無い筈だ。怪しいと思わないのか?」


「それは当然でしょうねえ。でも大丈夫だと思うのよ」


 そこまで言うという事は、よほど信頼しているのか? 

 母は引退したが、原始のVの一員。同期へ向ける信頼というのは、あって当然なのかもしれない。


 しかし俺の顰めた面は、まだ緩まない。


「そうだとしても、俺達にとっては警戒するべき事だ。何かあれば一番危ないのは明なんだぞ。何かあったら耐えられん」


「そう! ……うん?」


「まぁ!」


 何故か母の笑顔が割り増しになる。


「あー……まあ? ……ママの同伴があれば、比較的安全かもしれないけど……」


「私も一緒にいって良いのね! 良いわよ、同伴!」


 同伴同伴と、母は嬉しそうに一つの単語を繰り返す。


「久しぶりに顔を見るわねぇ。どんな顔になってるのかしら」


 ……うん? 

 今、()()()()()……と言ったか。



「……すぅ」


「はぁ……。なるほど」


 気が抜けた。なるほど。妙なすれ違いという事か。

 確かに言葉が足らなかった。まず最初にきちんと聞いておくべきだった。


「質問、ママはこの人とリアルでの面識がある?」


「あるわよ?」


「なるほど」


「はー」


 なんか疲れた。一言が足りなかっただけで、無駄に沢山の言葉を交わしてしまった。喉が疲れる。

 と反省する反面、名前を見た時にリアルで知り合っていると言ってくれれば良かったのに、と愚痴に近い恨み言が浮かぶ。


 すると、何が面白いのか、いきなりふふふと母が笑い始めた。やはり、分かってて言わなかったのだ。この母は。

 そんな変な真似、珍しい事ではない。が、一応笑っている理由を聞いてみる。


「どうして?」


「何でもないわぁ。でもゴメンなさいね? 最近お話する事が少なかったから、意地悪しちゃったわ」


「へえ、なるほど」


「なるほど、そういう事か」


 ……これはギルティ、で良いだろう。副裁判長も頷いております。


「ママ」


「なあに?」


「一週間……いや、四日間。その間は家事手伝わない事にする」


「え」


「下校ついでの買い物もだ。これも四日間」


「……そんなぁ」


 確かに母に構ってやれなかったかもしれないが、それも吟味して四日間だ。

 諦めろ。



 ・

 ・

 ・



 ・

 ・

 ・



 この看板は……カフェ? 


 確かに合流と打ち合わせをする場所としては良いかもしれない。

 現実での中の人の正体が明らかになった場合のリスクは、俺達でも十分意識している事なのだが……。この人気なら大丈夫だろう。

 それに扉に付いたベルも良い。客の入りには直ぐ気付ける。



 それで、先に待っているというバリスタ。ブレント・ドレーパーさんだが……。

 ……この店、空っぽだぞ。どの机にも誰一人いない。


「本当に居るのか?」


「居るわよー」


 居るらしい。

 ここからでは見えない席でもあるのだろうか。と辺りを見渡す。死角はあんまり無い。ともすれば、トイレに行っている可能性も……。


「チョーヤくーん?」


「来たか! 待ってくれー」


 誰だ。それは。


 母が名を呼んで、しかし応じて返ってきたのは声だけ。


 ……チョーヤくんと呼ばれた者は、母の友人という事で良いのだろう。ということは……と、推察の様な事をしていると、先に座っててねと適当なテーブル席に座らされる。

 その間に、母は遠慮なしにと厨房の方へ入っていく。……奥で何か話しているが、聞こえづらい。


 だがあの二人の関係性はある程度予想できる。

 成程、ここは彼のカフェなのだろう。だから、客が座る様な所に居なかったのだ。

 いやしかし、よもやヴァーチャルでバリスタかと思えば、現実でもカフェをやっていたなんて……。


「待たせたな。ほれ、コーヒーだ。きっと気に入るぜ。苦いのが苦手なら、砂糖とミルクを入れてみてくれ」


「……はい。どうも」


「チョーヤくんのコーヒーは美味しいのよー」


 苦い物は苦手では無いが、好みでも無い。でも苦い物は苦い。あと熱いと舌が火傷するから飲みづらい。

 拘った物は香りが良いとよく聞くが、それで眉が緩むかと言えば、そうでもない。


「おう。……お、そうだ。スープも持ってくるか? 丁度新メニューの試作品を作ってたんだ。大丈夫、タダだし、ちゃんと甘々とろとろの奴だぜ」


「え? ええと……お願いします」


 それを悟ってか、一言提案してくれた言葉に乗る。接客業としてのスキルなのか、俺達を安心させる笑顔が、ニカっと光る。


 あの笑顔は、配信上に映る仮想の姿の笑顔と、どこか似ていた。口調こそ配信中の彼とは違うが、気さくな返事と表情が不思議と俺達を納得させる。

 声質は画面の中の彼と似ている。兄弟を持っていたら分からないが、でなければ彼がブレント・ドレーパーだと思って良い筈だ。


「チョーヤさんが?」


「そうよー。現役でしょ?」


 カフェの店員として、あるいは配信者としてだろうか。

 どちらにせよ。確かにと頷く以外に、思いつく返答は無かった。


「……あれ、入れすぎたかも」


「む」


 明の声に気付いて、ミルクを注いでいたカップに目線を降ろす。なんだかミルキーな色へと変わっている。

 コーヒーに関する知識はあまりないが、明るい色のこれは、ラテと呼ぶべきな気がする。試しに飲んでみると、恐らく本来はあったであろう苦みは薄くなっていて、味や香りが甘味の向こうに感じられた。

 カフェの落ち着いた内装を、カップを口に運びながら眺めて待っている。と、彼が四杯のスープを持ってきた。カボチャの香りがする。


「お待たせ、と。いやしかし、久しぶりだな。王妃様」


「そんな風に言わないで頂戴。私は……そう、退()()したんだもの」


 その単語を選んだのは、もしかして俺達の配信からの引用だろうか。

 呆れたという気を、ラテの香りで誤魔化してしまう。もはや気にするに値しない。


「はぁ。ええと、このコーヒー、とても美味しいです」


「お、気に入ってくれたか? 有難いねぇ」


「はい。こちらのスープも美味しいです。カボチャの香りと甘味が良い……のですが」


 なんだか甘味が薄い、と言うのは失礼にあたるだろうか。……と思って、言葉にするのを止める。


「やっぱラテだとそこが気になるか。ラテとの飲み合わせは想定してなかったからなぁ。……客層的に、甘いドリンクとの飲み合わせを前提にした方が良いか?」


 腕を組んで、考える様な仕草をされる。

 言葉にはしなかったが、態度で察された様だ。


「美味しいと思うわ!」


「アンタは美味しいか美味しくないかしか言わねえだろ」


「そんな事無いわ! えっとぉ……カボチャの香りと甘味が、なんかこう……良いわね!」


「同じじゃねえか!」


 思わずとツッコみを入れる彼に、俺達は同調して頷く。久しぶりとは言え付き合いはそれなりに長いのだろう。母の面倒な所には、もう慣れているという感じが見られた。

 家族だからコレの苦労は良く分かる。



「……さて、と。あ、飲みながらで良いぜ。本題に入るが、そんな真面目な話にするつもりは無いしな」


 頷く。今までの様子からも、なんとなく、細かい事は気にしなさそうな人だとは感じた。


「改めて、俺は立山長也。またの名を……こっちの活動名は伏せるが、二つ名はバリスタだ。今は誰も居ないが、念のためな」


「はい。初めまして、俺は玉川明一です」


「明です。親子と双子という面子なので、明、明一と呼んでください」


「おう、アイツの子供なのにしっかりしてて偉いぞー」


 反面教師は、子供の教育に有効な手段の一つである。当然だろう。


「まず、すまなかったな。言葉が足りなかったから、警戒させちまっただろ」


「いえ、気になさらず。確かに警戒しましたが、私達には相談相手が居たので」


「だな。こんなのでも良い親になれるもんなんだなあ。……つかよ、二人に俺の事教えなかったのかよ」


「え?」


「いや聞いた俺がバカだった」


 母が不満気に頬を膨らませた。


「それじゃあ本題なんだが、まずコラボに関しては丸々オーケー。但し特別扱いはリスナーに色々勘繰られるから、条件は一律、つまりそっちが条件を提示しても、対応はしかねる。大丈夫か?」


「大丈夫です。条件はあの資料の通りで良いですか?」


「おう。……交渉とか、異論も聞くけど、どうだ」


「いえ、こちらとしても、あの条件が適切だと思います」


「良かった。……妙に大人びてねえか?」


「子供の成長は早いからねぇ」


「……ま良いか」


 成長だのなんだのは置いといて……条件に関しては、あらかじめメールで既に教えて貰っている。

 お捻りの分配、コラボ配信を行うチャンネル、問題が発生した時の責任……等々。予め定めておかないと寧ろ困る様な事ばかりで、全体的に賛同している。不利な条件にされている、という事も無い。


 コラボをするからには、仲良しこよしで接して見せるのが良いのだが、世の中には親しき中にも礼儀ありという言葉がある。

 厳密な意味は違うだろうが、親しいからと言って則するべき常識や礼儀を欠くべきではない。


「俺の配信が具体的にどんなもんなのか、知ってるか?」


「はい。コラボの際にはお悩み相談や、人によってはゲームを一緒に、というスタイルですね」


「見てくれてありがとな。FPSとかアクションとかは苦手だが、ディクラ(DIG CRAFT)とかでのコラボが多いな」


 網羅している訳ではないが、昔はコラボ相手と冒険していたが最近は少し変化しており、彼が建設した施設をコラボ相手が見学しつつ雑談する、というパターンが多い。


「ディクラですね。俺達もよく遊んでます」


「おう、独特な共同作業が見ていて気持ち良いと評判だったな」


「見ているのですね。有難うございます」


「うんうん。良いねえ、双子仲が良いっつーのは」


 心底羨ましそうに、目を細められる。見た目は若いのに、言動がどこかおっさん臭い。



「……なあ王妃さんよ。昔は最悪だったんだって?」


「そうなのよ!」


 話が振られず、若干寂しそうな顔をしていた母に話が向けられる。


「この前の夏休みが終わったころかしら。そこから急に仲良しになっちゃって……」


「羨ましいもんだ」


「ふふふ。私も嬉しいわぁ。……そういえば、弟くんとはどうなの?」


「ああ、それな。まあ……」


 片肘を付いて、少し残念そうに答える。


「まだ拗れたまんまだ」


「そうなのねぇ。可愛くて良い子なのに……」


 弟がいたのか。

 雑談として、そこに関して話を深めようかと考えるが、止める。俺達の言葉は、大抵変な伝わり方をして誤解や亀裂を生んでしまう。


「なあお二人さんよ。どうやって仲良くなったんだ?」


「どうやって、ですか」


 黙っていようかと思ったが、問われたのであれば、考える。

 夏休みより以前の俺達がどうだったのかは、直接は知らない。改めてどうだったと母に問う事も出来なかったし、これを説明するのは難しい。


 と言っても、偽のストーリーは既に用意されている。


「……共通で遊んでいたMMOで、偶然お互いがフレンドだった事に気付いたんです」


「その後はまあ、トントン拍子で。ゲームの中でもフレンドにしては相性が良い方だったので」


「なるほどなあ。めっちゃくちゃ参考にならん。相性が良かったって事じゃねえか」


 元から参考になるとは思っていないが、それでも期待してしまうのであれば、彼も心から改善を望んでいるのだろう。


「ま、今んとこは諦めるか。って、今は配信の話だったな。何処まで行ったっけか?」


「確かディクラがなんだのと」


「そうそうそれそれ」


 元から気楽な打ち合わせのつもりだったのか、話が脱線しつつもゆるゆると進んでいく。



 どのようなコラボにしよう、という議題に、とりあえずディクラでという事になった。

 元々俺達はゲーム特化の配信者であり、コミュニケーションにも難がある。こちらとしても、何時もの様にゲームをしていて良いというのは気が楽だ。


 いや、いつも通りという訳には行かないか。


 粗方話しておくべきことは話したか、と区切りをつけた所で、ある事を思い出す。


「もしかして、増築ですか」


 予習として配信をちらと見たが、そういう話をしていたのを思い出した。


「お、見てくれていたのか。増築は正解、だが詳しい事は今は言えないな。配信前に打ち合わせしすぎると、リスナーも置いてけぼりだからな」


「詳しい話は配信中に」


「そうそう」


 なら良い。

 そういった内容が話せなくとも。それまでに出来る打ち合わせはしておきたい。


「他に気になる事は────」



 既に話すべきことは殆ど済ませた。

 世間話の様で、たまに思い出す様に配信に関わる話も上がっていた。特にありがたかったのは配信アプリの機能だ。

 予め母から教わっていたとは言え、彼女にはブランクがある。これは知らなかった、使うと間違いなく便利だ、と何度も頷きながら覚えて行った。


 母はまた拗ねた。



 ・

 ・

 ・ 



「それでは今日はこれで。ありがとうございます」


「おう、またよろしくなー」


 去り際の挨拶は、友人同士の別れの様に行われた。

 ……友人、と言うべき関係だろうか。あるいは同業者、と言った方が俺らには分かりやすい。


 数多くのコラボ相手との経験が生んだコミュニケーション能力と言うべきか、あるいは持ち前の能力によって良い人脈が保たれていると言うべきか。


 どっちにしても俺達には真似できないやり方だ。

 参考にするとは言わないが、助けを受ける事は出来るだろう。


「……アイスでも買うか」


「そうだね。なんだか疲れた」


 何はともあれ、話しすぎた。確かに美味しかったが、熱い飲み物の次はアイスが口に合う気がする。

 普段ならミントを選ぶが、バニラの方が口に残ったコーヒーの香りを狂わさずに済むだろうか。


「明日は休んで、明後日から頑張ろう」


「だねー」


 経験や知識を蓄え、そして相談を重ねて備えるのも良い。

 しかし俺達には、気長にのんびりやるくらいが丁度良い。

起承転結で済ませられるように四話構成にした筈が、そんなに承と転が出来てない我が技量。

無計画の為せる業である。

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