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番外IF編・双子は仮想の姿を得る【2/4】

【初配信】双子の旅が、始まります。【エル・アール】



 ───── 概要 ──────


 双子の旅人です。「エル」と「アール」と呼んでください。


 フォローよろしく。

 httpz://──────────/────


 質問や話題の種、待ってます。

 マカロン:httpz://──────────/────


 #Vstreamer #初配信






「配信、始まりだ」


「始まったね」



『  :はじまった!』



 コメント欄に、ママ以外の言葉が流れてくる。その事実に、いよいよ始まってしまったと実感する。

 これは機材テストの為の配信でも、先刻行ったばかりのリハーサルでもない。本番だ。不特定多数の目に付く舞台に、私たちは立っている。


 ……不特定多数と言っても、今はママを含めてもたった二人という視聴者のみだけど。


「想定以上の人気だね」


「一応宣伝したものの、誰も来ないと思っていたんだが……まあ、とりあえず自己紹介だな」


 ソフトを操作し、テロップを表示。この世界における二人の名前が描かれた文字が現れる。

 ついでにメモ帳を表示させ、その中に書かれた台本を読み上げる。


「俺、髪の短い方がR(アール)LIGHT(ライト)。髪の長い姉さんがL(エル)LIGHT(ライト)だ」


「私がエル、兄さんがアールね」


「よろしく」


 追加でテロップを表示させる。アバターは画面の左右端に陣取っており、右側の俺がR、左側の明がL、とと言う風に対応させている。


『  :アルファベット一文字とか凄い名前』


「お褒め頂き感謝だ。分かりやすい様にアルファベットのワッペンが胸に付いてるから、参考の程に」


「褒められると嬉しいね」


 適度なアドリブを行いつつ、台本の内容を進めていく。

 その合間にちらと別のウィンドウを見る。視聴者数は六人。少しずつ増えて行っている様に見える。


「さて、双子なのだが、珍しい事に男と女だ」


「流石に双子だから、似た者同士だって自覚は大いにあるよ。二人分の食べ物を買いに行こうと思ったら、とりあえず自分のと同じ好みだって思えばオーケーだし」


「後はそうだな。息の合った連携がしやすいから、戦いなんかでは、個人戦でなければ簡単に出し抜ける。その手際は近々皆に見せてやりたい所だ」


『  :自信満々だ』

『  :双子 確かに一体感があるような』


「見ての通り若者という風貌だが、実際の年齢も16だ。まあ見た目相応だと思う」


「誕生日は四月一日。覚えてくれると嬉しいな」


 実際の誕生日とは別だけど、同じ月ではあるからこっちでも覚えやすい。学校関連の行事もある日だから、当日のお祝い配信はちょっと忙しくなるけど。


「で、次はV配信者には必須装備だと言われている、SNS用ハッシュタグなんだけど」


『  :淡々と進めていくな』


 う、バレたかな? いや、台本バレは一応想定内だ、落ち着いて……。


「申し訳ないが、生配信中の視聴者は居ないものとしていたから、既に決めてしまっている。みんなで一緒に考えても良かったが……」


「と言っても、決まったらずっと残る様な物を、この人数で選ぶのはちょっと抵抗あるよね」


『  :大丈夫~』

『  :初見、双子だ!』


「じゃあ、こっちで決めていたハッシュタグを表示する」


「はい、どかん。どうかな? といっても、我ながら安着な命名なんだけど」


 配信関連は『#ツインでライトな旅路』。二次創作の絵なんかは『#ツインでライトなポートレイト』と言う風にしている。

 凝ったものにしようかと思ったけど、万が一他の配信者に似るといけないから、個性優先だ。


「一応言っておくが、良識の範囲内で使ってくれ」


「母数自体少ないから、変な事する人も居ないだろうけど」


「そういう所は面倒が無くてうれしいがな」


『  :初見』

『  :ラノベ主人公みたいな事言いやがって』

『  :初見 立ち絵は自作?』

『  :双子か。居る様で居ないジャンルだな』


 ……なんかコメント欄が賑やかになってきてるな。順調な勢い……じゃないな、ちょっと順調すぎる気がする。


「初見様どうも。あー、立ち絵は自作だ。フリーソフトを使ったが、思ったよりも……な、なんだか賑やかだな?」


『  :これが噂の双子Vストですか』

『  :顔の見分け付くかな』

『  :よく見ろ、RとLだ。RとLだ!』

『  :イヤホンかな?』


「あー、面白い事を言うな。イヤホンか、そういう言い方は初めてだ」


「私は左右対称とか言われるかと思ってたよ。こっちよりかはハイカラで良いね」


『  :>ハイカラだな』

『  :良いのか……?』

『  :初見 王妃さまの後継さんか何か?』

『  :独特な感性だ』

『  :え、王妃さま?』


「王妃……? 何を言ってるんだ」


「後継? 別の人とは関りを持ったことは無いんだけどな。うーん、誰かいたっけな?」


『  :嘘だぞ絶対関係ある』

『  :でもあの王妃さまだぜ』

『  :じゃあ多分関係ないわ』

『  :うおおめっちゃ伸びてる』


「……やっぱり絶対多いな」


『  :初見。王妃さまの紹介で来ました』

『  :蟹食い狼から来ました』

『  :別の配信者の名前出して良いんか』

『  :大丈夫やろ。大丈夫か?』

『  :ノリで言った、ダメだったらごめん』


 この勢いはちょっと可笑しいよね。んー、何人ぐらい来てるんだろう。


「えー……ん? ぇ、っさ、さんぜ、ねえお兄ちゃん?!」


「おにいちゃ……? 何だ姉さん、そんなに慌てて」


『  :イヤホン双子、これは流行る』

『  :三千人突破!』

『  :チャンネルは流行るがイヤホン双子は流行らせない』

『  :絵師さんの立ち絵使わないの?』

『  :自作の立ち絵だと』

『  :お兄ちゃん!』

『  :【朗報】同時視聴者数3000人達成』

『  :3000人おめでとう!』


「三千人……? ……ごふっ、こほっ、三千?! げほっ、げぼぼ」


「お兄ちゃーん?!」



 ・

 ・

 ・



 手が妙に震える。モニターから目を離したら、全ての物が遠く大きく見える錯覚を得る。その一方で、まるで自己を俯瞰している様に、極度に緊張していると別の意識が教えてくれる。


「すぅー……」 「すぅー……」


「「はぁっ……」」


 ……よし。


「落ち着いたか?」


「大丈夫、そっちは?」


「……現実離れした世界に包まれている様だ」


「うん、落ち着くまでエゴサしてて」


「エゴサね、了解……」


『  :配信中にエゴサて』

『  :尋常じゃない緊張っぷりだったけど』

『  :大丈夫? きなこ食べる?』

『  :マジで緊張してるっぽい』


「配信中にごめんね。……はあ、まだ心臓がドガドガ言ってる」


『  :今来たけどなんか尋常じゃないご様子』

『  :王妃さまに紹介されて来ました』

『  :なんか有名なVストリーマーが拡散してる』

『  :ビッグファイブの一人が配信告知を紹介してた』

『  :配信のリンクだけ貼って、よろしくねって』

『  :王妃さま公認の双子、一体何の関係が?』

『  :ビッグファイブだぞビッグファイブ。またの名を原始のV(5)

『  :SNSアカウントも活動なかったのに復活して驚いた』


 うーん……流れが速い。心を落ち着かせても目が追い付くかどうか……。


「……SNSを確認したが、通知が溜まってた。なんだ四桁って、いやもう五桁になった」


「拡散? 一体誰が」


 なにか分かる事は無いかなと思って、集中してコメント欄を見る。でもやっぱり勢いが凄すぎて、そもそも集中出来ていない頭では一つも確認できない。


「これだな、引用投稿された様だ。名前は……王妃、ヴィクトリア・ヴァリアント・ヴァーチャルと。……とんでもない大物だ」


「大物?」


「フォロワー百万人以上」


「なるほど」


 そりゃビッグだわ。


「という事は、このアカウントがこの配信を紹介して……って事か。そりゃあそうなるか」


『  :知らなかったのか』

『  :王妃様だけじゃないで』

『  :王妃さまを知らないって、マジ? 原始のVやぞ』

『  :最近の若者は知らんやろ』

『  :でも王妃さまやぞ』

『  :王妃さまだったら分からんかも分からん』


「という事は、ここの人達は皆んな何処かの配信者から流れてきた……って事?」


『  :うちは吸血鬼から来た』

『  :私も吸血鬼』

『  :バリスタ様から』

『  :ちくわ大明神』

『  :蟹食い狼さん』

『  :名前出してええんか』

『  :誰だ今の』

『  ;ごめん王妃さまの配信のノリで』

『  :十何年越しやぞ。なしてそのノリ覚えてるねん』


「あー……、そういう事か。確かに色んな配信者が反応してるな。……『引退した原始のVが復活?!』とか言ってる様だが」


「初めての配信なんだけど」


「誰と勘違いしてるんだ?」


『  :それは、ヴァーチャルマスコミストリーマーが書いた見出し!』

『  :あの話題の摸造8割妄想5割のヴァーチャルマスコミストリーマーが!』

『  :突破してんじゃねえか』

『  :原型がなに一つ残っちゃいない』



「まあ……俺も落ち着いたし、本筋に戻るか。……いや、沢山人が来てくれてるみたいだし、改めて自己紹介した方が良いな」


「そうしよう。えー、左の私がエル・ライト」


「右の俺がアール・ライトだ。見分け方は髪か、声か、胸のワッペンを見ると良い」


「うん。 それじゃあ、えーっと……どこまで行ったっけ?」


「覚えてない」


「うげ……」


 仕方ないな。なんとか思い出すとしよう。多分ここらへんで……


「コホン、えー、ハッシュタグ、の下りはもうやったっけ」


「誕生日の後じゃないか?」


「いや、多分もうちょっと後……」


『  :割とかなり巻き戻ってる』

『  :ハッシュタグまでやったよー』

『  :まだ挨拶しかしてないよ』

『  :告白したところから』

『  :愛の言葉を囁いた所』

『  :突如脳裏に浮かんだのは存在しない記憶!』

『  :お前ら落ち着け、実は養子で本当は血が通っていないという事実が発覚する所だ』


「コメント欄は……頼りにならないな。ああ思い出した。ハッシュタグの紹介までやったな。テロップもそこまで表示させてる」


「あ、そっか。じゃあそこからだね。……ふぅ、えっと、もし視聴者数が多い場合、少ない場合」


「ちょ、バカ」


「え? あっ」


 う、要らない所まで読み上げてしまった。えっと、いったん落ち着いて……落ち着かないー! というか指が震えてマウスも握れないんだけど! 


『  :割と最初から隠せてなかったけど』

『  :初々しいなあ』

『  :王妃さまも引退するまでこんな感じだったわ』

『  :この子たちも王妃さまみたいにはっちゃけるのかな』


「あー、それじゃあ、これからの予定を語るとしよう」


「ちょっと待ってその分岐違う。視聴者少ないルート行ってる」


「あっ」


「えっと、いやー! 思ったより沢山人が来て驚いたなあ!」


『  :しらじらしい』

『  :ういういしい』


「どうせだ、俺たちについて聞きたい事は無いか?」


「私たちに答えられる範囲でだけど……えーっと」


 コメント欄を見る。

 この中から質問を拾って……あー、うーん、これは……。


「ねえ流れ早くて読めない」


「俺は読めそうだ、任せろ。……よし、一つ拾えた。二人はお互いを愛してますか」


「なんでそれ拾った?」


 よりにもよってこんなのを拾うなんて……。まだ落ち着いてもないのに。


「まあ良いだろう。俺にとって、この世での一番は俺自身だ。だから姉さんは……二番目なのか?」


「同意見だけど、私も兄さんが二番目なのかは……なんとも言えないな」


 というか、特殊な身の上事情があるからな……。また私が一人っ子だった世界に戻ったとしたら、って考えると、明一が二番目だとは言い切れない。

 ……自分の事考えて来たら落ち着いてきた。これは良い調子かもしれない。


『  :てえてえな?」

『  :おっとこれは不覚』

『  :コラボしてないのにてえてえが生産される』

『  :これぞ地産地消』


「よし、落ち着いてきた。次の質問だ。次は……」



 ・

 ・

 ・



「────だから、今後は配信メイン。内容も主にゲームを扱っていく予定だ。インディーズが多いかもしれないな」


 台本代わりのメモ帳をスクロールして……最後の一文まで表示されると、マイクに拾われない程度の溜息を吐く。やっとこの配信が終わる。

 私も明一も落ち着いてきて、少しだけならコメントの内容を確認できる程度にまでなって来た。


「さて、今後の予定も知らせたことだし……今回はお開きにしよっか」


「ああ、また次の配信もよろしく頼む」


「もし気に入ってくれたら、チャンネル登録を……うん、既に結構な数が登録してくれてるけど、改めてよろしくお願いします」


「初日で……この登録者数はすごいな」


『  :近頃のVストリーマーにしては快挙』

『  :原始のVによる力であるな』

『  :うちの蟹も忘れるな』

『  :楽しみにしてる』

『  :蟹じゃねえ狼だ!』


「ま、とにかく今日はどうも、それじゃあ、さようなら」


「さようならー」


 さようなら、とコメント欄を流れる別れの挨拶を見送って、配信を終了した。




「……はぁ」


「はぁ……疲れた」


 ヘッドフォンやらマイクやらを外して、ベッドに倒れ込み、うつ伏せになって手足を伸ばす。

 運動した後よりも疲労感が強い。精神的な疲労と言うのも、中々馬鹿に出来ないのだ。


 隣に倒れ込んできた明一でベッドが揺れて、うー、と息を漏らす。


「……次の配信からは、きっと慣れてるよな」


「きっとね」


 願わくば、他の配信者達が押し上げてきたハードルが、あまり高くないと良いな。



「……」


 扉の向こうから、足音が聞こえる。この家には、双子の二人と一人の母しか居ない。


「お疲れ様ー!」


「ママ」「母さん」


「はひっ?」


 ムクリと起き上がる。

 状況や、視聴者のコメントから、今回の主犯はだいたい察している。


 ……だけど、何も言わない。

 恐らく善意だろう。子の成功を願っての事だったのだろう。決して悪戯心ではない。私たちのママは、そう言う人だから。


()()()()()()、大成功だ」


「ありがとうね。今まで手伝ってくれて」


「え、ええ……」


「ゆっくりで良い。補助輪が外れるのを見送ってくれ。それまでは色々助けを求めるかもしれない」


「だからね。何も言わないで手を伸ばしてくれるのはうれしいけど、私たちも戸惑っちゃうからさ」


「……そ、そうね」


「「だから、よろしくね?」」




「……はぃ」



 具体的な事は、何も言うまい。



 ・

 ・

 ・



 あの後、少しだけ調べてみた。私たちの配信への反応は良さげ……の様に見えるのだけど、やっぱり王妃さまとやらとの関連性を疑る、或いは探る様な反応も多い。

 直接確認はしていないし、するつもりも無いけど、その王妃さまの正体は八割ぐらい察している。二割は「流石にそんな事は無い筈」という現実逃避に近い。


「……客層、と言うとビジネスみたいに気に食わないな。視聴者層は多分、元王妃さまファンが多いだろうな」


「いや、年数が経ってるから、原始のVを知ってるだけの人が反応してるだけかも」


「ふむ、そう考えるべきか」


 そうなると、需要はなんなのだろう。私たちが得意な配信ジャンルは、やはりゲーム配信が当て嵌まるけれど……。

 王妃さまって何やってるんだろう。配信アーカイブは残ってるかな。

 動画サイトのチャンネルを検索して、目的のチャンネルを見つける。登録者数は……よんひゃくまん。


「頭がバグりそう」


「何も考えるな。考えなければバグらない」


「分かった」


 うん、何も考えない。これぐらいのファンを得る配信者が身近に居るとか思わないし考えない。


「だが……一応、念のため、声を聴いておこう」


「大丈夫なの……?」


「……俺がバグったら頬を揉んでくれ」


「うん」


 覚悟を決める。適当な雑談配信のアーカイブを開いて、待機時間中の場面を飛ばして……。



「おはようございま──」


 即動画を閉じた。やっぱり頬を揉みしだく事になった。

 誰の声だったかなんて、最早言うまでも無いだろう。

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