閑話 日神密談
この話はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
「ふむ、少し忘れ物をしたようだ。さっきの部屋に行ってくるから、**くん、ちょっとここで待っていてくれないか?」
「ああ、はい」
こつ、こつ、と廊下に響かせながら、誰もいない部屋の扉を開ける。
『やあ。忠告しに来たよ』
薄暗い部屋にのしかかるような気配。誰もが震えるようなそれに、男はどかっと椅子にすわっただけだった。
「件の神か。ああ、ちょうど今君のことを考えていた次第だよ」
『そう、それは光栄だねぇ?』
「それで。忠告とは?」
『軽口ぐらい叩いてもいいじゃないか。……このままちんたらやってると、この国は滅んでしまうよ?』
「……重々承知だよ、そんなことぐらい」
『ははは、怒らせちゃったかな』
「私なんかが怒ったところで君にはちっとも太刀打ちできないだろう」
『そういうなよ、ボクと君の仲じゃないか』
「個別に話したのは今が初めてじゃないか」
『さあ、どうだろうね?……それで、だ。このボクが、君に神託と奇跡を授けよう。スキルをみてくれ』
男はスキルウィンドウを出す。
「独裁者、ねぇ……。君、私のことがきらいだろう?」
『あははははははははははははっ!』
『どうだい、君にぴったりのスキルだろう?』
「これを使ってどうしろと?」
『まずは国民に自衛の手段を持たせるんだ。君が支配する国はそこらへん、融通が利かないだろう?』
「間違っても私が支配している国ではないが……まあ、そうだな。自覚しているよ」
『次に。無闇に国民の命を散らしたくないのなら、牧場等を閉鎖するといい』
「ああ。もちろんだ」
『最後に。物資の問題については、それぞれのスキル持ちが台頭してくるだろう。一部の物資と食料については、民間人にダンジョンを開放するべきだ』
「ダンジョン?」
『閉鎖したところだよ、なかなか的を射ている表現だろう?ボク、珍しく人間に感心しちゃった』
「そうかい。だが、私には国民の安全を守る義務がある。危険だと分かっている場所を民間人に開放するなど……」
『そうかそうか。勘違いしないでほしいのはね、首相君』
『ボクが望んでいるのは、人間や日本の存続、繁栄じゃあないんだよ』
「神」の気配が消えた部屋。男はにぃ、と自嘲する。
「スキル独裁者、か」
きっと、私が刹那の酒池肉林のためだけにこれを使い、国を放ったらかしにするなどできぬ小心者だと、神は分かっているのだろう。
いや、そうなっても、それはそれでおもしろいと思っているのかもしれない。
「さあ、最後の一仕事と行こうじゃないか」
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独裁者
国を縛る法を自由自在に変えられるが、使用者は、使用してから一日で死に至る。
また、新しく制定した法は、少なくとも一年は一言一句変えられない。
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特に恨みはありません。ほんとだよ?