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魔法使い

その少年はある程度の距離まで近づくと急ブレーキをし、その場で立ち止まった。

何をするのかとみていると彼は片手を何かを握るような形にした。一瞬にして手の内に杖が形成された。思わず目を疑ったがまあどーせ全部幻覚だと思うから今の状況を楽しむことにした。

 そいつはその杖を怪物にかざし気の抜けた声で「ふぁいあ」と唱えた。不思議なことに杖からいくつもの火の球が放出された。そして僕のほうを振り帰りにやりという何ともかわいい表情を浮かべた。

 その球はグイとまがった。

あたるかと思いきやすれすれで交わし片腕で地面を蹴りそいつに襲いかかった。そいつはぶつかる直前で

「ふぁいああああ」

と今度は少し気合の入った声で呪文を唱えた。その怪物と同じ大きさの炎の壁が現れ怪物は止まることなく突っ込み消えた。正確に言えばハート?になった。そのハートは普段僕らが想像する赤くかわいいものではなかった。黒ずんでいてとても不気味だった、中にはかけているのもあった。少し不思議なので観察していると瞬間的に黒色の殻みたいのがはがれ空に飛び散っていった。

「ふう、やあこんばんは」

「お前は誰だ?」

「ちょっ、ぐいぐい来るね…!そういうの嫌いでも好きでもないよ!」

「…」

「ああ、ごめんごめん。俺の名前は稲瀬 みつだよ!」

そういって握りしめていた杖を空中に投げた。その杖は音を立てることなく消えた。その様子を黙って僕はみていた。いつの間にか口を開けていたらしく我に返ったとき少し恥ずかしかった。引き続きそいつに警戒し、睨みつけた。

「え、ちょっとありがとーぐらい言ってよ助けたんだからさ、君は非常識な野郎君かい?」

「…」

それでも僕は無視した、だってこいつは周りから見えてないんだろう?それでなくても今さっき大声出したんだから独りで喋りだしたら間違いなくツイッター行きだ。もしかしたらもう載せられてるかも…。

「ねえええええ~、聞こえてるんでしょ?燃やすよ?」

やけに恐ろしいこと言うなこいつ…。サイコパスか…?そんなことはどうでもいい!早く帰らなきゃあいつにまた殴られる。

 僕はそいつから逃げるように駅に走った。本当に疲れた額から汗が出て前髪がくっついて気持ちが悪い…。息を整え定期券を使ってか札を通りぬけた。ふと天井にある時刻表を見た。えと今は八時だから……?八時!?ああ、終わった…。どっちにしてももう無理だ、多分家にも入れてもらえない…。次の電車は三分後なので早足でホームへと向かった。

 そういえばあいつは…?あたりを見渡したがあいつはいなかった。安心してスマホを取り出そうとした瞬間頭上から

「ここだよ、ねえいい加減燃やすよ」

本当にびっくりした、心臓が止まりそうになった。でそうになった声を何とか抑えスマホでやれるもんならやってみろと打ってそいつに見せてやった。じかで喋るよりましだろう、多分周りからは田舎もんが内カメラを知らなくて外カメラで自撮りしてるように見えてるが僕は気にしない。

「いいよ!燃やすのは死んじゃうから一緒にお空を飛ぼーか!」

こいつもこいつで随分とノリが軽いな、そっちのほうが僕からしても都合がよい。これで幻覚ということが分かったらもうこいつが一生涯ついてきたとしても無視するつもりだ。だが相変わらず発想が怖い、なんだ一緒に空を飛ぶってw

 僕が笑いをこらえていると急に重力がなくなったような感覚に襲われた。そしてすぐに状況が読めた。僕は浮いたのだ。下を見下ろすとすでにもう三メートル浮いていた。人ごみの中で浮いていた。気持ち的な問題ではなく物理的に浮いた。みんながこっちを見た。ああ死にたい…!今日はなんて一日なんだ…。

「これで信じた?」

僕はそいつの顔を見た。にっこりしてた。いい笑顔だった。

「わかった信じる…。」

「お―!やっと信じたね!」

「んで、お前は何者なんだ?」

「お前って少し気に食わないな」

「あー、悪い悪い。みつだったけ?」

「うん!みつだよ!」

「ええと、みつさん質問です」

「んー、みつさんよりみつのほうがいいな」

「はあ…死にてええ…。あのさ、みつ」

「ん―、何?」

「おま、みつは何者なんだ?空を飛ぶし火は出すし…」

「俺は魔法使いだよ!wizard」

おいおいこのみつってやつすごい英語の発音がいい。大体なんていったかは分かったが一応間違って聞き取ってたらいけないから聞き返してみた。

「うぃざーど?」

「のんのん、wizard.」

「びぃっざああど?」

「no no. repeat after me.wizard」

「ウィザード」

「wizard」

「wiざーど」

「もういいや、なんでウィだけ発音いいのかなw」

なんだよこいつ、お前から始めたのに僕が悪いみたいになったじゃないか。

「で、なんだっけ?」

「お前らうぃざーどはなんなんだ?」

「あー、説明だるっ!」

「おーい…そこはちゃんと説明しよーよ…」

「あーはいはい。ええとね俺らは君たちが想像する魔法使いじゃないよ」

「はい?まあ確かにプリキュアっぽい」

「いや違うって!そういうことじゃなくてね俺らは自己満のために戦ってる。欲求を満たすために戦っている。」

「なんだ正義のヒーローじゃないのか」

「まあね、君を助けたのは本当にたまたま。俺のことが見えてなかったら見殺しにしてた」

「ほんとだ、確かに正義のヒーローじゃなくて屑だ」

「まっ、否定はしないね、はははは~!」

「俺らが見えるってどういうことだ?」

「君もうすうす気づいていたと思うけど俺らwizardとクラミティは常人には見えないんだよ」

「え、じゃあ僕は常人じゃないのか…?」

「うん、そのとーり」

「失礼だな…!」

僕は少し不機嫌になり彼の目線から目を離し下を見た。気づかないうちにすごい上昇していた。本当に昇りすぎて下を見るだけで絶景だ。まあそんなことよりも少しだけ息が苦しい。

「あの…、あのさ…」

「ん~?」

「これ今さっきからずっと真上に上がってない?」

「そうだけど?」

「なんで!?すごい苦しいんだけど!」

「あーごめんごめん。今から降りるね」

僕が喋ろうとした瞬間体に変な感覚が走った。まるで魂が向けたような感覚…。

いや、おい…。こいつは馬鹿なのか…?僕が言いたいのは高度を落とせってことで急降下白って意味じゃない!声を出そうとするが風邪が強すぎで出せない。

 しばらくすると彼はぴたりととまった。

「ごめんね~」

「は、はい…」

「それで今さっきの続きなんだけど普通じゃないってのは本当はちがくて俺らは少し特別なんよね」

「うん?」

「今は変身してるからテンション高いけどこれを解いてしばらくするとテンションがもとに戻る」

「あ、それ私服じゃないんだ。テンションが戻る?」

「うん!俺は精神的に病んでるんだ。だからこれに頼る」

僕はこいつの言ってる意味が分からなかった、普通こういうのって使命で戦うものなのにこいつは自己満、病んでいるから頼る。全く意味が分からなかった。

「あー、説明の仕方が悪かったね、んーとね」

「んーとね?」

「wizardっていうものは病んだ子しかなれなくてね、なった子はクラミティっていう怪物を倒したらその代償として気分が明るくなるんだよ」

「え?たったのそれだけであんなのと戦ってんの?」

「たったっていうけど意外にいいもんなんよ、薬物と同じで依存してしまう。」

「依存か、今僕が見たり感じてたりしてるのって麻薬とかの副作用じゃないよね?麻薬なんてしたことないけど…」

「うん、これは列記とした現実だよ。君も使ってみる?」

「使ってみるって…、これって本当に大丈夫なの?」

「うん、依存しない限りね、依存?」

「そう、依存。依存してしまったら君もあの怪物みたいになってしまう」

「ええ…。それならやめときます」

「なんで急に敬語!?安心して週に4回位までなら服用して大丈夫だから」

「服用!?先ほどから言い方物騒だな…」

「まあ、やらないのならしょうがない~!」

やっとあきらめてくれた…。もう本当に帰りたい…。かれこれもう40分くらい飛んでいると思う。空がほとんど暗くなって先ほどと比べれないほど星が見やすくなっている。

「あ、君目の前からクラミティが!伏せて!」

僕は素早く反射し身をかがめた。

…しばらくしても何も起こらなかった。僕はっくり体制を戻してあたりを見渡した。少し油断しているとそいつは僕の胸元に何かを付けた。

「え?」

「ようこそwizardの世界へ、君は今日からwizardだあああ!」

殻が後ろからそう叫んだ、またまた僕はこいつの言っている意味が分からなかった。いったいどういう意味だろう。そう聞こうとした。


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