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百五話武器は持たず

訓練場に着いたソウスケとレイガは昇格試験の摸擬戦の時と同様、一定の距離を置いて向き合う形をとっている。

審判はミレアナが担当している。


「えっと、それではこれからソウスケさんとレイガ君の摸擬戦を始めます。勝負は一回きりだけで、もう一度は無しです」


ミレアナの説明の中に知らなかった内容を聞いたレイガは抗議しようと一瞬思ったが、直ぐにその方が好都合だと考え手斧を構えた。


レイガに話さずに加えた内容に対して、レイガが抗議しなかったのを見てソウスケはミレアナに伝えておいて良かったと思い、少し心が軽くなった。


(一回目の摸擬戦で負けた時に今のは油断していただけだから無効だ、とか言われたら面倒だからな。勿論それを無視して帰っても良いんだが、後腐れない方が良い気がするからな)


ソウスケは手には何も持たず、前傾姿勢になって何時でも走り出せるように構えた。


レイガはソウスケの武器を持たないという行動が気に喰わず、声に出して怒鳴ったりはしなかったが、額に青筋を立てて見るからに怒っているというのが分かる表情をしていた。


そして二人の準備が終わったのを確認したミレアナは摸擬戦開始の合図を出した。


「それでは・・・・・・始め!!!」


ミレアナの振り下ろされた手と同時に先に動き出したのはソウスケだった。


身体強化のスキルを使い、一気にレイガへ詰め寄った。


「ほいっ、と」


ソウスケはある程度力を抑えて駆け出したつもりだが、それでもレイガはソウスケの動きが殆ど見えておらず、ソウスケが元いた位置から消えたように感じた。


レイガの懐へ入ったソウスケは何も持っていない右側から左拳でレイガの腹に、ボディーブローを決めた。

勿論ボディーブローもレイガが死んでしまわないように、手加減して打ったが、ソウスケの方がダンジョンの下層のモンスターを多数狩ったお陰で、レベルがかなり高くなっており、あまりにもレイガとの素の身体能力に差があった為、レイガの体はくの字に曲がる事になった。


「がはっっ!!!」


腹から空気が全て抜けてしまい一時的の呼吸が出来なくなったレイガに対し、ソウスケは念には念をと思い周囲には殴ったように見せて軽く拳から雷の魔力を流した。


その際、ソウスケが周囲に対して殴ったように見せたいと思っていたので、威力はボディーブローより弱まっており、レイガの背骨が折れるような事は無かった。


「一丁上がり、っと」


雷の魔力を浴びたレイガは痺れた影響で体を震えさせた後、ピクリとも動かずに気絶していた。


「そこまで! ソウスケさんの勝ちです!!」


ミレアナがソウスケの勝利を告げると、周囲から歓声が上がった。

時間はFランクの昇格試験の時間から三、四十分程過ぎていた為訓練場にはちらほらとソウスケ達以外の冒険者達がいた。


そして冒険者はこういった決闘騒ぎが基本的に好きなので、ソウスケ達の周囲には直ぐに邪魔にならない程度に人だかりが出来た。


中には近くの人同士でソウスケとレイガ、どちらが勝つか賭けをしている者がいた。

なので歓声の中には賭けに勝った喜びの声や、負けて損して項垂れている者もいた。


摸擬戦が終わったソウスケはミレアナと訓練場から出て受付へ向かった。その途中でミレアナが摸擬戦の中で疑問に思った事をソウスケは尋ねた。


「ソウスケさん、なんで身体強化のスキルを使ったんですか? ソウスケさんなら身体強化のスキルを使わなくても余裕で勝てたと思うんですけど」


ミレアナの言葉通り、ソウスケは身体強化のスキルを使わずともレイガに余裕で勝つ事が出来た。

だが、身体強化のスキルを使ったのにはしっかりと理由があった。


「確かに身体強化を使わなくても勝てただろうな。でも、それだと素の力で相手が認識できない速さで動いて倒したって事になるだろ」


「なるほど、身体強化のスキルを使ってあの速さと力と、素の身体能力であの速さと力を出せるのとは目立つ度合いが違いますからね」


「そういう事だ。だから今回の一件で俺が多少目立つ事はあっても、そこまで騒がれる事は無いだろう」


ソウスケとしては出来れば全く騒がれないで欲しいのだが、ブライドとリーナが自分とミレアナの力を同期や先輩の冒険者に喋らない可能性は無いと思い、これから三、四日ほどはギルドに来ない方が良いかもしれないとソウスケは考え、今日以降の予定を大雑把に考え始めた。


受付に戻ったソウスケとミレアナはセーレが空いているのを確認すると、直ぐにセーレがいるカウンターへと向かった。


「お疲れ様ですソウスケさん、ミレアナさん。昇格試験はどうでしたか?」


二人がFランクの試験で落ちるはずがないとセーレは分かっていたが、それでも一応と思い二人に聞いてみた。


「そこまで難しくなかったですね。試験官の強さがちょっと予想外でした。あの人・・・・・・ブライドさんだったか。まだ自分より上のランクの人をたくさん見た訳じゃないんで完全に憶測ですけど、Cランクでもおかしくないんじゃないのかと思いました」


「私もソウスケさんと同意見ですね。リーナさんはDランクの中でもかなり上位の人だと思います。短剣は弓の次に自信がある武器なので、リーナさんの技量の高さが何となくですが分かりました」


二人の答えがもの凄くドンピシャであったため、目を見開き少し驚いていた。


(確かに今回のFランクの昇格試験の試験官の二人は、あと少しでCランクへの昇格を検討される範囲へ入る二人ですが、それを摸擬戦しただけで分かるとは・・・・・・まぁ、それだけお二人が強いという話ですね。ソウスケさんが強いのは分かっていましたが、ミレアナさんがDランクの中で上位の冒険者を簡単にあしらえるとなると、ミレアナさんがハイ・エルフという事は本当みたいですね)


後輩のメイからソウスケにハイ・エルフの仲間が出来たと聞いた時、セーレはメイが嘘は言っていないと思ってはいたが、正直なところ半信半疑でもあった。


だが、目の前で本人を見て摸擬戦の結果を聞き、本当にミレアナがハイ・エルフなんだと確信できた。


「そうでしたか、お二人なら次の昇格試験も難無く合格出来そうですね。それではギルドカードを更新しますのでギルドカードをお借りしますね」


セーレはソウスケのギルドカードとミレアナのギルドカード(仮)を持って、ギルドカードを更新するため一旦その場から離れた。

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