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やっぱり、あかんやつや……

 解毒ポーションの一件で盗賊のボスにも子分たちにも慕われた……。

 普通に見捨てなかったのが良かったのだろう。

 最初に殺してしまった五人には申し訳ない事をした。


「街に行って服を買ってきてくれ」


 調理場のガリガリ男、もといコックに命令をして上下一〇着ずつ服を買いに行かせる。

 犯罪者は門番のチェックをパスできない。だから盗賊の中で街に入れる奴は限られていた。

 そしてコックは普段から買い出しで街に行っているそうだ。


 残ったみんなで洞窟内を大掃除する。

 荷物は俺がアイテムボックスにしまう。

 しまう時に【クリーン】を忘れない。

 そうそう。盗賊たちにも【クリーン】をかけた。


「アニキ、俺も【クリーン】を覚えたいです!」

「俺のは自己流だから、教えてやれない。すまんが、他をあたってくれ」

「そうですか……残念です。昔っから魔法に憧れてたんですがね」


 盗賊のボスが【クリーン】を覚えたがったが、そもそも俺は全知全能の力で自在に使えるだけで、魔法がどういう仕組みで発動してるのかすら知らない。


 掃除が終わったら、洞窟内のあちこちで円錐型のお香を焚く。

 これは森にたくさん生えてるガヴェラの葉をすり潰した物に木屑を混ぜて作ってある。葉自体に殺虫効果があるため、絶対に虫食いの葉がないのが特徴だ。


 三〇分間は洞窟の外で作業。

 まずは布団をアイテムボックスから出して天日干しする。

【クリーン】でキレイになっても煎餅布団は変わらない。

 ちなみに俺用のは棺桶に入ってた布団がある。刺繍が少し気になるが、贅沢は言っていられない。何たって盗賊たちの布団と比較すると、ふかふかでかなり豪華な品だ。


 暇な盗賊たちにはスコップで穴を掘らせる。

 掘った穴は露天風呂へ。出た土は釜戸造りへ。

 俺は土木関係は得意なので、急ピッチで進めていく。

 今夜は何が何でも風呂だ。


 盗賊たちが掘った四角い穴の壁にワイルドスネークの毒を混ぜた泥を木の板を使って塗っていく。

 毒が消化液のようになっているから、表面を溶かしてコーティングまでを一気に終わらせる事が出来る。

 残ってしまう毒は、解毒ポーションの残りを散布すれば消えるので心配していない。


「掘る作業は任せたとは言え、浴槽が二〇分で完成した。でも、これを納品したら大苦情だな……」


 土風呂の域は越えていないため数ヶ月もしないうちに朽ちて使えなくなるだろう。

 セメントを使うと乾くまで時間がかかるし、今回は仕方ない。



「アニキ、お香の煙が出なくなりました」

「そうか。今行く」


 想定外だったのは、入口が低くなっているため、お香の煙が洞窟内にこもってしまった事だ。

 俺は布を口に巻いてマスクの代わりにして洞窟内に入った。

 最奥のボス部屋からブラウンベアが蹴飛ばした扉の残骸で扇ぐ。空気が外に出た分だけ洞窟内に新しい空気が入ってくる。


「俺……人間?」


 片手で扉を団扇(うちわ)よりも早く動かせる。

 グフォングフォン音を立てて風が起きてるし……。


「アニキー! 洞窟が壊れる!」

「はっ!」


 俺は盗賊のボスの声に慌てて扇ぐのをやめた。

 強風の中を這って教えに来てくれたらしい。

 意外といい奴だな。


 お香の匂いで汗臭かった洞窟内が爽やかな空間になった。ついでに殺虫もできたはずだ。


「及第点だな!」

「アニキ、最高じゃないですか!」

「そうか? 壁も地面も天井だってガタガタ。雨風を凌げるだけだろ?」

「それはアニキの生活水準が高すぎるんですよ……」


 着手しなくてはいけない事が多すぎて、洞窟内はこれにて終了にした。



 俺は魔法に挑戦してみようと思う。

【クリーン】のような生活魔法じゃない。

 攻撃魔法に属する火と水。

 理由はもちろん風呂だ!

 風呂上がりの一杯はないが……。風呂にはどうしても入りたい。


 俺の脳裏に浮かぶのは城壁の末路。

 あの時は思いっきりオブジェを投げたつもりだが、ステータスを認識した今ではあれが全力だったかと言われると正直怪しい。

 そんな俺が本当に攻撃魔法を使って大丈夫か? 練習するにしても、もっと人里から離れるべきか?


「はぁ~」

「アニキ、どうしたんですか?」

「ちょっと森に行ってくる。もしかしたら轟音が聞こえるかもしれんが、気にしないでくれ……」

「アニキ、いってらっしゃい」


 盗賊のボスに見送られながら、念には念を入れて森に移動する。

 周囲を軽く歩いて、人が近くにいない事を確認した。


「見られても一番わかりにくそうな風からにするか……【ウインド】」


 右手を前に翳して全知全能が教えてくれた風魔法を使う。

 ゴオオオオオオオオ。


「やっぱり、あかんやつや……」


 似非(えせ)関西弁が出てしまった。

 一番威力が低いとされている風魔法。

 それが二〇〇メートル先まで上下左右半径三メートルの幅で空間を丸ごと(えぐ)った。

 地面は高速ドリルで削った側面のように均一で、テカテカ一歩手前。

 盗賊たちのアジトの壁よりも完璧な仕上がりと言えよう。


 木は根から抜ける暇を与えず、こちらも地面同様抉った。

 MPの減りを確認すると毎秒すごい速度で回復しているため、残り七で全快という数字を確認した。

 多分MPは一〇〇ぐらいか? 初級にしては多すぎる気がする。


 全知全能様、何がいけなかったのでしょうか?

『…………』

 使えない……。


「魔法の威力を上げる方法は?」

『魔力貯め、魔力注入、魔力圧縮、魔力操作、賢さ』


・魔力貯め

 魔法を体に内包させて増幅させる技術。


・魔力注入

 魔法の必要消費量を多く支払って威力を上げる技術。


・魔力圧縮

 大きい魔法を小さく留める事で爆発力を上げる技術。


・魔力操作

 魔法を使う際のイメージ。直線、屈折、追尾。集中、分散。狭域、中域、広域。など魔法を自由自在に扱う技術。


・賢さ

 ステータス値。


「たくさんあった!」


 それと同時に手の施しようがない場所を見つけた。

 賢さだ。ステータス値。

 八〇〇手前。


 普通の人の賢さがどの程度なのか、基準を知りたい。

『高い人で九〇、低い人で一桁』

 知りたいと思っただけで全知全能から情報が流れてくる。


「魔法制御技術は賢さに依存?」

『依存します』

「抑え方は?」

『…………』

「そこ重要!」


 機械の取り扱い説明書を新人に読ませて質問している気分だ。

 重機のレバー操作と同じだな。新人とベテランじゃ技術の年季が違う。


「俺は風呂に入りたい!」


 何も考えずに魔法を放ったからいけないんだ。

 俺はオートマ車じゃねー。マニュアル車だ。

 ギアを切り替えるイメージ。


 馬力はあれだろ? 大元の魔力が捻出してるんだろ?

 なら、魔力操作をイメージして魔力以外はオフだ!


「そよ風だぞ、そよ風。髪の毛を吹き飛ばさないレベルだ【ウインド】」


 魔法の威力は災害クラスから台風クラスまで下がった。


「でも、違う! 俺の髪の毛はないから強くても吹き飛ばない、けれども!」


 俺のそよ風レベルのイメージが台風クラスの強風って……そんな魔法じゃ扱いに困るだろ。


「ドライヤーの弱だ。もう何年もお世話になってないけど……【ウインド】」


 ひゅ~~っと弱々しい風が出た。

 逆に弱すぎて自然の風の方が強いぐらいだ。


「成功だよな?」


 風の次は水→火と訓練した。

 魔法はイメージがとても重要らしい。

 俺は地面が抉れ、辺り一面水浸しなのに、木が燃えた不思議な森を後にする。

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