魔族新聞
夜は気温が下がり、肌寒くなってきた。
薪を集めて焚き火をする。
シルとマーニレが交互に仮眠を取り、今はシルの番だ。
俺の腕の中で気持ち良さそうに寝ている。
「マーニレは何を真剣に読んでるんだ?」
「柿の世話だけだと暇だからよ、魔族新聞を買ってみた」
柿の世話だけじゃなく、果樹園全体の世話をしてくれ。
「魔族新聞って?」
「各地の情報が載ってる情報誌だ。ロリコンの事もトップニュースで載ってたぞ」
「う、嘘だろ……?」
トップニュースって寝返りを打ったら載るってやつだろ?
あれってやっぱり冗談じゃないのか……。
「『第一級』なら当然載るだろ。ロリコンが西領から北領に移動したってよ。昼間も魔族に監視されてただろ?」
「シルが空を見上げて何度かカウントしてた」
「きっとそれだな。今は過去の新聞に『はぐれ』の記事が載ってないか、探してるところだ。北領だけでもニュースが多くて困る」
マーニレの性格からは想像もできない几帳面さだ。
それとも魔王なら世界の情勢を把握するのは当たり前なのか?
「たぶん一〇日前までは一気に遡ってもいいと思うぞ」
「うーん。全然騒ぎになってないのに、コイツはそんな前から活動してたのか……。買った新聞が丁度一〇日前までだな」
ポーションの買取程度ではマーニレの中では騒ぎではないらしい。
マーニレは持ってた新聞を束の中に戻し、一番下の新聞を引き抜く。
パラパラパラッとページをめくり、見出しだけを見ている。
「この『はぐれ』はもっと以前から北領の街の地下で寝てたのかもな……」
マーニレが魔族新聞を読みふけっていると、シルが仮眠から目を覚ました。
「あ、それ魔族新聞だ。今週の運勢欄を見せて!」
「お前は魔族なんだから、きちんと他のページも読めよ。これが最新の新聞だ」
マーニレが一番上の新聞をシルに手渡す。
「えー」
「えーじゃねーよ。お前はサキュバス人気ランキング圏外になってんぞ」
そんなランキングがあるんだな。
シルって俺の近くにいるせいで、人気がなくなったのか……。
恋人のいるアイドルみたいなもんかな?
「ふーん。シロウさえいれば、そんなランキング関係ないし……」
シルが俺の左腕に抱きつきながら文句を言う。
焚き火だけでは寒いから、シルを抱っこしていたようなものだ。シルが抱きついてくれるおかげで温かい。
「昔の新聞に『はぐれ』の情報は載ってたの?」
「載ってなかった」
「ほらっ! 読んでも無駄じゃん!」
「そういう問題じゃねーんだよな……」
マーニレがあっさり諦める。
「こっちの新聞にシロウが載ってるじゃん!」
「それはさっき聞いた」
「《シルヴァーン熱愛発覚! お相手は人間初の『第一級』》だって。師匠を避難所に迎えに行った時かな?」
そこまでは知らなかった。
「あの時は俺様もリーレンもマキナーゼもいたはずなんだがな……。シルヴァーンを表に出した方が読者が喜ぶからって酷い扱いだぜ」
マーニレはそんなに新聞に載りたかったのかよ。
「マー君も載ってるよ……? ほら、ここ」
「もう魔族新聞なんて読まん! こんなもん燃やしてやる!」
シルが一点を指差して俺に見せる。
写真のような描写力のある絵があり……。
雪だるまに矢印が引かれ、中身『マーニレ』みたいな扱いだ。
マーニレがシルから新聞を取り上げ、クシャクシャに丸めて焚き火の中に捨てた。
雪だるま……可哀想……。あ、俺がしたのか……。
「寝返りを打っただけで、新聞に載るのは困るんだけど……。俺、寝相に自信ないぞ?」
「はっ? ロリコンは馬鹿なのか? 誰もお前の寝相なんて興味ないからな……。『寝返りを打つ』って言うのは『寝床を変える』事を差すんだよ。『第一級』の近くにいたら、いつ災難に見舞われるかわかんないだろ。今頃北領を根城にしてた魔族は他へ移動してるぞ」
なるほど。
それで西領から北領に移動したから、新聞に載ったのか……。
「ずっと気になってたんだが、俺ってなんで『第一級』に認定されたんだ?」
「普通は段階を経て、上がっていく。きっと魔族のステータス読み取り班がロリコンのステータスを読み取れなかったんだろうな……。お前はいったいいくつあるんだ?」
「マー君!」
「だってよ。気になるじゃねーか。もう『絶対服従の誓い』をしたんだからいいだろ」
マーニレは服従の意味を知ってるか?
「俺は構わないよ」
マーニレに《勇者の加護》を与えて、ステータスがさらに上がった。
俺は二人に口頭でステータスを伝える。
――――ステータス――――
名前 山田四郎
性別 ♂
職業 勇者
レベル 七九
体力 四七五一二→四八〇七二
魔力 二八七〇九→二八八〇四
力 一九〇二→一九八八
賢さ 九八一→一〇一七
耐久 一六六九→一七五五
敏捷 一一七一→一二四六
称号
・歴代最強勇者
能力
・全知全能
――――――――――
「「…………」」
「おーい」
二人とも口を開けて、キョトンとした。
「リーレンが自慢しやがるわけだぜ……。俺様はこんな化け物にケンカを売ったのか」
「化け物言うな……」
俺の中では五〇人以上を相手取って、無傷で戻ったゴンザスの方がよっぽど化け物だと思っている。
「もしかして、鍛練の時に槍を首に寸止めしたけど、私の筋力じゃダメージ入らなかった?」
「かもな……」
シルの筋力より俺の耐久が一三〇〇以上も高い。
一五〇違うだけでも、傷を付けるのは容易じゃない。
『火炎の斧』を持ったゴンザスですら、『火炎の斧』本来の力を引き出してやっとギガンテスとの差を覆したぐらいだ。
例えシルの敏捷が乗った一撃が急所である首に刺さろうが、ぶつかった瞬間に槍の穂先が限界を迎える。
「でも、あれは相手に一撃を入れる鍛練だ。シルとマーニレの勝ちは変わらないよ」
『はぐれ』のお腹の膨らみが時間の経過とともに、萎んでいく。
「あー。ねみー」
最近朝型になったから、夜勤してた頃が懐かしいな。
こんな時は熱々のブラックコーヒーが飲みたい。




